第185話 ロジャーとフーガと(2)

「リンカとラーシェスはどうでした?」


 夕食時の会話では二人は十分満足していたようだが、ロジャーさんの意見も気になるところだ。


「驚いたぜ。期待以上にアイツらも根性あったな。なあ、フーガ?」

「良い冒険者だ」

「よっぽど、お前に追いつきたいみたいだな」


 その気持ちは嬉しい。

 今は俺が先行しているが、三人並んで戦えるようになりたい。

 皆がフォローし合って、対等な関係のパーティーになりたい。


「二人アタッカーは定番スタイルだ。俺たちもそうだし、『双頭の銀狼』もだな」


 ロジャーさんの言う通りだ。

 前衛アタッカーが二人。盾役が一人。後衛二人がスタンダードなパーティー編成だ。

 後衛が一人の場合もあるが、攻撃&回復と二人の方が安定する。


「アイツも二人前衛だろ。俺たちと一緒だ。戦い方も似ている。俺が突っ込んでかき回す。それをフーガがやっつける。そっちはリンカが暴れて、ラーシェスが撃つ。まあ、参考になったんじゃねえか」

「良い勉強をさせてもらったんですね」

「おう。こっちも楽しかったぜ。根性あったから、ちょっとムチャしたんだけどな――」


 ロジャーさんの「ちょっとムチャ」か……。

 俺もシャノンさんとナミリアさんにかなりしごかれたが……。

 この一週間、二人とも宿に戻ると、すぐに寝てしまっていた。


「しっかりついて来たぞ。二人には言わなかったが、アイツら伸びるな」


 ロジャーさんがニカッと笑う。

 この人はやっぱり、根っからの冒険者だ。


「ただ、まだ、二人だけだと危なっかしいな」


 二人が上手く戦えたのは、ロジャーさんたちの助けがあったからだ。


「ちゃんと手綱を握る人間が必要だ」

「ええ、しっかりやってみます」

「言うこと聞かねえ三人組の戦いを、何年も後ろから見てたんだ。レントなら大丈夫だろ」


 二人の結果を聞いて、安心したところで――。

 蒸留酒を飲み干して、一拍。

 さっきのリンカとの件で思ったことを尋ねてみる。


「ナミリアさんは、どこまで本気なんですか?」

「さあ、俺の口からは言えねえ。気になるなら、本人に直接聞くんだな。ただ――」


 今度はニヤニヤ笑いだ。


「あんなに絡んだり、くっついたりするのは、レントだけだ」

「…………」

「なあ、フーガ?」


 フーガさんも頷いて肯定する。


「お前の事情は理解している」


 真剣な口調でロジャーさんが告げる。

 彼とは数年来のつき合い。


 常に一緒にいたわけではないが、昔の俺を知っている。

 そして、『断空の剣』のことも……。


「遊んでいるだけの俺が偉そうに言えた口じゃねえが――」


 ロジャーさんは特定の誰かとは真面目に交際しないと前に言っていた。

 だが、彼はモテる。モテすぎる。

 男の俺から見ても魅力的なんだから、それも当然だ。


 そういうわけで、相手には事欠かない。

 真剣にならずに遊ぶだけ。

 こういうとサイテーな男のようだが、相手もそれは了承している。

 その女性たちがみんな満足しているから、誰も文句が言えないのだ。


「ナミリアのこと、少し考えてやってくれよ」

「…………」


 彼の言葉が胸に突き刺さる。

 ナミリアさんのこと。リンカのこと。

 …………。


「まあ、俺も色々見てきたが、そういうのは良い面も悪い面もあるからな」

「ロジャーさんは本気にならないんですか?」

「俺は惚れた腫れたより、冒険の方がワクワクするからな」


 冒険の話になると、無垢な瞳をキラキラと輝かす。

 こういうところが、彼の魅力で、人を惹きつける。

 彼は割とムチャクチャなこともする。

 それでも、「ロジャーなら仕方ない」と受け入れられるのだ。


「そうだ。良いこと教えてやろうか」

「良いことですか?」


 またも、悪い笑みだ。


「フーガは結婚している」

「えええ」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ロジャーとフーガと(3)』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!



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