第180話 リンカ・ラーシェスと成果報告(4)


「ご褒美ちょうだい」

「いいよ」


 向かいの席に座っていたラーシェスが立ち上がる。

 そして、俺の隣に座り、すっと頭を差し出した。

 珍しく甘えてくるのは、疲れたせいか、達成感のせいか。

 なんか、今日は撫でたり撫でられたりだな、と昼間のことを思い出す。


 言われる通りに撫でてみると――。


「にゃはは」


 飼い猫イータのように、猫みたいな声を上げる。

 オレンジ色の髪が柔らかく、指に触れる。

 貴族令嬢らしく手入れの行き届いた髪だ。


 彼女は目を細め、気持ちよさそうに身を任せる。

 そして、そのうち――。


「寝ちゃいましたね」

「うん、寝ちゃった」

「この一週間、張り切ってましたからね」


 やはり、疲れていたんだろう。

 すぐに熟睡してしまった。


 リンカは優しい視線を向けるが、その瞳の奥にはいつもと違うなにかが感じられる。

 だが、俺にはその意味を理解することができなかった。


 ラーシェスが寝息を立て始める。

 イータはピクリとヒゲを揺らし、寝ぼけまなこで、ラーシェスの背中に乗った。


 これを起こすのはかわいそうだ。

 しばらくはこのままにさせてやろう。


「それで、リンカの方は?」


 彼女はすでに試練をクリアしているので、急ぐ必要はないのだが。

 リンカのステータスは――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:リンカ

年齢:18

性別:女


ギフト:阿修羅道(SSS)

MP :208/208 → 315/315


冒険者ランク:D→C

パーティー:二重逸脱トゥワイス・エクセプショナル


スキル:

【壱之太刀】身体能力を爆発的に高める

【弐之太刀】居合い斬り

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 新しいスキルは増えていないが、魔力が100以上も増え、冒険者ランクもひとつあがっている。


「今回の修業は戦闘力の底上げに費やしました」

「ああ、そうだったよね」

「【壱之太刀】や【弐之太刀】は控えて、できるだけ素の状態で戦うように心がけたんです」


 素の力が上がれば、ふたつのスキルの威力も増す。

 『断空の剣』のように、スキルごり押しではなく、ちゃんと成長していくのだ。


「どこまで行けたの?」


 二人は『流星群』と一緒にボルテンダール墳墓周辺砂漠でゴーレム狩りをしていた。

 彼らと一緒に戦ったことは、貴重な体験になるだろう。


 ボルテンダール墳墓は砂漠に囲まれており、そこは5つのエリアに分けられている。

 第1エリアから第5エリアまで。そこに出現するのはサンドゴーレムだけで、数字が大きくなるほどゴーレムは強くなる。


 前回は『双頭の銀狼』二人の力を借りてのトライだったが、エリア3までが限界だった。


「エリア4で戦ってました。エリア5も少し試したのですが、ロジャーさんがまだ無理だって判断しました」

「エリア4まで行けたんだ」

「エリア3はスキルなしでも単独で倒せます。エリア4はスキルなしだと厳しいですね。時間がかかるし、ダメージももらっちゃいます」


 エリア3のゴーレムをソロで倒せるとなると、かなり成長したのだろう。


「頑張ったんだね」

「はい!」

「流星群』のみんなにお礼を言わないとね」

「本当です。感謝してもしきれないです」


 リンカはニッコリと笑うと、手を挙げる。

 店員さんが注文を取りに来た。


「すみません、オークコツラメンと替え玉10個ください。バリカタで」

「まだ入るんだ」

「はい。でも、明日があるので、今日は腹八分目にしておきます」


 ラメンはスープに麺を入れた料理。

 オークの骨で出汁を取った濃厚スープに細く硬い麺。


 酒を呑んだ後に食べる料理の定番だが、あれだけ食べてもまだ食べ足りないのか。

 以前から大食いだったが、こんなに食べたっけ?

 この一週間でリンカの胃袋もすいぶんと成長したようだ。


「ごちそうさまでした」

「もう、平気?」

「はい、美味しかったです」


 さらに替え玉を5個追加して、リンカはようやく満足した。


「切り上げるか」


 そう思って、俺の膝で気持ちよさそうなラーシェスに視線を向ける。

 さて、起こすべきかどうか。


「起こすのも気が引けるな」

「熟睡してますね」

「ラーシェスは俺が運ぶよ」

「いえ、私が運びます」

「そうだね。そっちの方がいいか」


 女の子だから、つい忘れがちになるけど、彼女は物理戦闘職。

 細い身体だけど、腕力は俺より上だ。

 ここは彼女に任せよう。

 彼女は軽々とラーシェスを運び、階段を上る。


「結局、ラーシェスはシャワー浴びれなかったね」

「私は今から浴びます」


 砂埃も落ちていないし、鎧も着たままだ。

 汚れは魔法で綺麗になるから、問題はない。

 だけど、やっぱり、シャワーを浴びてスッキリしたい。


「じゃあ、お休み」

「お休みなさい」


 それぞれの部屋の前で別れ、自分の部屋に戻った。

 別れるとき、リンカが少し物足りなそうだった。

 あれだけ食べても、まだ食べ足りなかったんだろうか?






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リンカと二人(1)』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!



楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る