第178話 リンカ・ラーシェスと成果報告(2)


「かんぱ~い!」


 乾杯の合図とともに、3人と3匹がジョッキを傾ける。

 俺は半分ほどを流し込む。

 喉奥から飛び降りたエールが空っぽの胃を熱くする。

 リンカはひと息でジョッキを空にし、「ぷはっ」と酒気を吐き出す。

 ラーシェスはひと口含み、目を閉じてゴクリと呑み込んだ。


「うええ、まだエールは慣れないんだよね」

「慣れれば美味しいですよ。冒険の後のエールは最高です!」

「エールを飲めるようになって、一人前の冒険者って言うしね」


 エールは冒険者の飲み物。

 ラーシェスは成人したばかりで、まだこの苦みに慣れないようだ。

 貴族のたしなみとしてワインは多少飲めるのだが。


 ちなみに三妖精はというと――。


「マスター、お代わりください~」


 エムピーは口の周りの泡を手の甲で拭う。ミニジョッキは空だが、ケロッとしている。


 同じくミニジョッキを空にしたアンガーはすでに顔が真っ赤っか。

 主である酒豪リンカとは対照的に、酒に弱くいつもすぐに酔っ払ってしまう。

 変に絡んだりはしてこないのだが……。


「ううう。姐御が立派になって、おいら嬉しいっす」


 早くも泣き上戸を発動させている。

 いや、まだ、始まったばかりだぞ。


 そして、イータは目を閉じて、マイペースにペロリペロリとエールを舐めている。

 酒にはあまり興味がなさそうで、なんとなく合わせている感じだ。


 久々の空気に頬がゆるむ。

 なにせ、この一週間、二人とはまともに話す時間もなかったから。


 俺はシャノンさんとナミリアさんと。

 二人は残りの『流星群』の四人と。

 修業だけではなく、食事も一緒だった。


 リンカと出会って二ヶ月、ラーシェスは一ヶ月。

 それだけしか経っていないのに、ずいぶんと昔からのつき合いのように思える。


「二人はずいぶんと打ち解けたみたいだね」


 冒険者が簡単に仲良くなれる方法はふたつ。

 一緒に戦うか、一緒に飲むか。

 まあ、手ひどい喧嘩別れになることも少なくないけど……。


「何度、リンカに助けられたか、覚えてないよ」

「一応、三年目ですからね」


 最近覚醒したばかりのリンカだけど、冒険者歴は三年だ。

 不遇な扱いを受けてきたけど、剣の基本はしっかりしている。

 それに対して、ラーシェスは本当の新人だ。

 本来なら、今頃は薬草を集めているか、ゴブリンと戦っているか。


 いきなり過酷な修行を強いられても平気なのは、ギフトのおかげもあるが、彼女の根性ゆえだろう。

 二人とも壁を乗り越えたことで、顔つきが変わっている。

 より頼もしい、冒険者の顔だ。


 そこに料理が運ばれてくる。

 テーブルいっぱい、所狭しと皿が並ぶ。

 どれも山盛り、十人前以上だ。


「お腹空きました~」

「リンカは凄い食べるんだよね。ビックリしちゃった」


 このうち半分以上はリンカの胃袋に収まる。

 どこに入るのか不思議だが、彼女のギフト【阿修羅道】のせいで、戦いの後は無性に腹が減るのだ。

 初めてラーシェスと一緒に食事したとき、彼女はリンカの食べる勢いに押されて、手が止まっていた。


「いただきま~す」


 リンカが大きな肉塊を手に取り、豪快にかぶりつく。

 あふれた肉汁をペロリの舐め、満面の笑みを浮かべる。

 見ているこっちまで幸せになる食べ方だ。


「ボクも」


 続いてラーシェスも同じように肉塊を掴んで、パクリといく。


「あれ?」


 俺の視線に気がついて、彼女が動きを止める。

 こちらを見て、俺の疑問に気がついたようだ。

 口の中のものを片付けてから、俺に説明する。


「みんなと一緒に食べてるうちに慣れちゃった。こっちの方が冒険者らしくて良いよね」


 出会ったばかりの頃は、貴族育ちの彼女は手づかみで食べることに抵抗があった。

 だが、『流星群』のみんなと過ごすうちに、冒険者色に染まったようだ。

 そういえば、以前は野菜を一番始めに食べていたな。

 だが、そんなことをしていれば、肉は他の人に食べ尽くされてしまう。

 それも学んだようだ。

 後はエールに馴染めば、彼女も立派な冒険者だ。


 横を向くとサポート妖精の三匹が視界に入る。

 本来、サポート妖精は食事を必要としない。趣味みたいなものだ。

 だが、食事にも性格が表れ、食事の好みもバラバラだ。


 エムピーはこなもん好き。

 今日はたこ焼きな気分らしい。

 自分の身体より大きなたこ焼きと格闘中だ。

 ソースで顔中ベタベタになっているが、気にする様子もなくほっぺが落ちそうな恍惚な笑みを浮かべている。


 アンガーは酒のツマミにスルメを囓りながら、チビチビと一人酒。

 泣きながらブツブツと呟いている。


 イータは食事には興味がなく、丸くなってもう寝ている。

 【暴食】という名の割りに、食事には興味がなく、食べたいのは魔力だけなのだ。


 こうして、和気あいあいと食事が進んでいく。

 一週間の修業成果が気になるところだが、まずは腹が満たされてからだな。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リンカ・ラーシェスと成果報告(3)』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!



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