第177話 リンカ・ラーシェスと成果報告(1)


 ――コンコン。


 ノックの音が聞こえた気がするが、夢かうつつか、微睡まどろむ俺には判別できなかった。


「マスター、マスター。起きてください~」


 エムピーに身体を揺すられ、ようやく頭が働き始めた。

 仮眠のつもりだったが、寝過ぎてしまったようだ。

 すでに日が落ちていて、宿の部屋は薄暗かった。


 ――コンコン。


 再度、ノックの音。

 明かりを灯し、声をかける。


「開いてるよ」


 ドアが開き、リンカとラーシェスが入ってきた。


「お疲れ様です」

「おつかれー」

「ご飯食べに行こうか」

「はい」「うん」


 二人とも、砂っぽい姿だ。

 彼女たちもこの一週間、遊んでいたわけではない。

 『流星群』と一緒に、砂漠でゴーレム狩りをしていたのだ。


「大丈夫? 身体綺麗にしてきたら? その後でも良いよ」

「私はそれでも構いませんが、ラーシェスが」

「お風呂入ったら、寝落ちしちゃうよ」


 リンカは余裕があるようだが、ラーシェスは疲労困憊の様子。

 大げさではなく、目を閉じたらそのまま寝てしまいそうだ。

 そして二人に従うサポート妖精はといえば――。


 アンガーはリンカの肩に乗り、テンション高く「姐さん、お疲れ様です!」と書かれた旗をブンブンと振り回している。

 一方のイータは体毛がクタッと元気なく、ラーシェスの頭の上で「ぐでーん」と伸びている。

 普段なら、ラーシェスが厳しく指導するところだが、今は放置している。

 突っ込む元気がないほどに、彼女も疲れているんだろう。


「駄猫、マスターの前です~。いつまで寝てるです~。さっさと、起きるです~」


 エムピーが「です~」に合わせて、1,2,3とイータの尻尾を引っ張る。


「にゃ、にャにするニャ」


 イータは慌てて飛び起きる。


「エムピーにゃ。止めるニャ」

「ラーシェスの姐御が頑張って起きてるのに、寝てるお前っちが悪いっす」


 アンガーもエムピーの肩を持つようだ。

 そこから言い争いが始まるが、いつものことなので――。


「じゃあ、行こうか」


 リンカもラーシェスも慣れたもので、サポート妖精の取っ組み合いを見て和んでいる。

 まあ、実際にじゃれ合いみたいなもので、本当に仲が悪いわけじゃないし。


「行くよ」


 俺たちが部屋から出ようとすると、彼らは喧嘩を止める。

 姿を消して、それぞれの主のもとに収まった。

 他の人にも見えるようになった 彼らだが、普段は姿を見えないようにしている。

 姿を見せるのは『双頭の銀狼』のように、俺たちが認めた相手だけだ。


「まったくイータは困ったヤツです~」


 エムピーが耳元でぼやくのを聞きながら、階段を降りる。


「ここでいいよね?」

「はい」「いいよー」


 宿屋の一階は食堂になっている。

 他にも良い店はあるが、わざわざ出かけるのも億劫だ。

 今日の夕食は、ここで済ませることにする。


 宿屋の食堂はなかなか混み合っていた。

 熱気の間を通り抜け、俺たちはすみっこのテーブルにつく。

 飲み物を注文しようとしたが、その必要はなかった。


 店員のお姉さんがなみなみとエールが注がれたジョッキを3つ、俺たちのテーブルに置く。

 戸惑う俺たちに向かって――。


「あちらのお客様からです」


 お姉さんが示す先には数人の冒険者グループ。

 彼らはこっちに向かって笑顔を見せる。


「レント、【魔蔵庫貸与】ありがとな」

「お前さんのおかげで儲けが増えたぜ」

「お礼代わりに一杯やってくれよ」


 彼らの喜びが伝わってくる良い笑顔だ。

 魔力貸しは人を幸せにできるし、不幸にもできる。

 使い方次第なわけで、こうやって感謝されるのは、嬉しくなる。


 お礼に手を振って、リンカとラーシェスの方へ向き直る。


「嬉しいですね」

「レントはやっぱりすごいや」

「私もギフトでみんなを幸せにしたいです」

「ボクもだよ」

「まあ、ギフトには向き不向きがあるからね」


 二人とも、戦闘に特化したスキルだ。

 それでも他人を思いやる心を持っている。


「きっと、いずれそのときが来るよ」

「そうですね」

「だといいな」


 適当に言っているわけではない。

 これまでの経験から、また、推測されるSSSギフトの性質から、二人のギフトもただ戦うためだけのものではない、と俺は推測している。

 それが創世神の善意なのか、悪意なのかは分からない。

 いずれにしろ、SSSギフトは使い手次第だ――。


「「レント?」」

「ああ、ごめんごめん」


 思考に沈み抱えた意識が、二人の声で引き戻される。

 ちょうど、そこに料理が運ばれてきた。


 俺は小さなカップを3つ取り出す。

 本来は調味料入れに使うものだが、サポート妖精が使うのに、丁度いいサイズ。

 妖精用のミニジョッキだ。

 3つのミニジョッキにエールを注ぎ、彼らの前に差し出す。


「じゃあ、始めようか」







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『リンカ・ラーシェスと成果報告(2)』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!



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