第176話 シャノンさんからのご褒美
「これは……杖ですか?」
「そうなの。プレゼントなの」
「ありがとうございます!」
「無属性魔法に特化した杖なの。他の属性魔法は弱いけど、無属性魔法の威力を上げるにはこの杖は一番なの」
差し出された杖を受け取る。
長さ50センチほどの木の杖だ。
無属性魔法に特化しているらしいが、そもそも、無属性魔法の使い手はほとんどいない。
これはとってもレアなアイテムなのでは……。
「こんなに良い物を貰っていいんですか? とっても高価なのでは?」
「ううんなの。これは私が作ったから、お金は大してかかってないの。【魔蔵庫貸与】のお返しなの」
シャノンさんはそう言うが、一週間も修業につき合ってくれただけでなく、こんな貴重なものを俺にくれた。
どう考えてもこっちの方が貰いすぎだ。
「杖の名前はシャノンズロッド。レンレンは使うたびに私のことを思い出すの。私だと思って、大切に扱って欲しいの」
「ええ、大切にさせてもらいます」
シャノンズロッドは良く手に馴染むし、魔力の流れも良さそうだ。
彼女は謙遜しているが、値段が付けられないほどの特級品だろう。
「あらあら、良いプレゼントね」
「ナミリアさん」
「じゃあ、私からも合格祝いをあげないとね。そうねえ……」
彼女は顎に手をあてて、視線をさまよわせる。
「今夜、私の部屋にいらっしゃい。一緒に楽しみましょ」
「無駄乳は黙るの!」
「冗談ですよね?」
「ふふっ、冗談よ。でも――」
彼女が妖艶な笑みを浮かべる。
「レントちゃんがお望みなら、冗談じゃなくても構わないわよ」
「ダメなの。レンレンは私の弟子なの」
「あら、それを言うなら、私の弟子でもあるわ」
「むっ」
シャノンさんは露骨に顔をしかめる。
今回の修業では、シャノンさんだけではなく、ナミリアさんにもお世話になった。
だから、二人とも師匠といってもおかしくはないのだが、たったの一週間で弟子入りというのはどうだろう?
「試し撃ちしていいですか?」
言い合う二人の空気を吹き飛ばすため、俺は提案する。
「うんなの」
軽く魔力を込めて――。
「無空弾」
杖の先から魔力弾が飛んで行き、木をなぎ倒す。
「どう?」
「すごいです! これ倍近くの威力でるんじゃないですか?」
「慣れたら、3倍は出せるの」
「レンレンのために作ったの。ギリギリで間に合って良かったの」
日中は俺の修業につきっきりだった。
夜に作ってくれたのか。
「満足なの?」
「はい。大満足です。ありがとうございます!」
興奮気味の俺に、シャノンさんも嬉しそうだ。
「なら、そろそろ、帰るの。ちょっと急いで欲しいの」
「予定あるんですか?」
「午後の馬車で出発するの。そろそろ出ないと怒られるの」
「そんなギリギリまでつき合ってくれたんですね」
「レンレンは私の弟子なの。当然なの」
元々、明日に備えて魔力を溜めるために、今日の修業は午前中だけと決めていた。
だが、シャノンさんにとっても、俺につき合える期限だった。
それなのに、俺が集中できるように、急かすことなく黙っていてくれたのだ。
「ほら、行くわよ」
「うんなの」
「はい」
感慨に浸っているところ、ナミリアさんに言われ、俺たちは街に戻ることにした。
「じゃあ、ここでお別れなの」
街の入り口、馬車乗り場に向かうシャノンさんとお別れだ。
本当は最後に食事でも――と思ったのだが、馬車の出発時間は本当にギリギリらしい。
「今度、会うときまでに、もっと使いこなせるようになってます」
「私もレンレンから良い刺激をもらったの。弟子には負けられないの。バイバイなの。また会おうなの」
「はい。そのときを楽しみにしてます」
最後にハグすると、シャノンさんは手を振って離れていった。
「さーてと、やっと二人きりになれたわね」
ナミリアさんが身体を寄せてきて、俺の腕を掴む。
柔らかくはち切れそうな胸が腕に押しつけられ、ドキドキする。
「私の部屋に来る?」
耳元でささやかれ、快感が背中を走る。
甘い誘惑に心が動かされそうになるが――。
「ごめんなさい。疲れ切ってるので、夕方まで仮眠をとろうかと」
「つれないわねえ。じゃあ、また今度にしておこうね」
「いや……」
ここで下手に頷いたら、今度が怖すぎる……。
「じゃあ、その代わり――」
彼女の顔が近づいてきて――。
ちゅっ。
たった一瞬だったが、ほっぺが熱くなり。
その熱が全身を駆け巡る。
「修業を頑張ったご褒美」
彼女はイタズラっぽく笑う。
「また、遊ぼうね。バイバイ」
手を振ると、あっさりとした態度でナミリアさんは去って行った。
「やっぱり、からかわれているだけだよな?」
心臓が落ち着いた頃には、既に彼女の姿は視界から来ていた。
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
次回――『リンカ・ラーシェスと成果報告(1)』
飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!
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