第175話 最終試験


 ――修業を始めて今日で一週間。


「じゃあ、やってみるの」

「はい!」


 シャノンさんに言われ、俺は大きな岩に向かって立つ。

 ただの岩ではない。

 シャノンさんが土魔法で生成し、ナミリアさんの付与魔法によって硬度が上がられた岩だ。

 彼女の付与魔法は並みではなく、鋼鉄なんかよりもよっぽど硬くなっている。

 その硬度はリンカが【壱之太刀】発動状態の【弐之太刀】一撃でギリギリ粉々にできる程度。

 なので、この岩を一発で破壊できれば、フラニスの試練も大丈夫だろうという想定だ。


 俺は両手を前に突き出し、魔力を込めていく――。


「無空弾」


 ――ドゴォォォォン。


 俺の手から離れた魔力弾は真っ直ぐに飛んで行き。

 大岩に当たり。粉々に砕いた。


 よしっ!


 その結果を見届けてから、俺は振り向く。


「合格なの」


 シャノンさんが笑顔で告げる。

 その言葉を聞いて、緊張の糸がプツリと切れ、俺はその場にへたり込んでしまった。


 無属性魔法の修業を始めて一週間。

 この岩を粉々にすることが、最終課題だった。

 厳しい修業だったが、なんとか予定通りに乗り切れた。

 感慨に浸りながら、顔を上に向けると、日差しがいつもより眩しかった。


「レンレン、よく頑張ったの」


 シャノンさんは座っている俺の頭をポンポンと軽く叩き、小さな手で撫でる。

 先日のエルティアのように、誰かの頭を撫でることはあっても、撫でられるのは慣れていない。

 嬉しいやら、気恥ずかしいやらで、顔が赤くなったのが自分でも分かる。

 かといって、善意の手をはねのけることもできず、されるがままにしていると――。


「レントちゃん、やったじゃない」


 ナミリアさんは片手を掴み、俺を立ち上がらせる。

 そして、強引に抱き寄せられた。


「よしよし、いい子いい子」


 シャノンさんにされたのと同じく、頭を撫でられる。

 ただし、ひとつ違いがあった。

 俺の身体は両腕でガッシリとホールドされ、顔はナミリアさんの大きく柔らかい胸に押しつけられている。

 彼女が身体を揺らすたび、クッションのように形を変えるが、どこまでも柔らかい。

 それに甘く蕩けるような香りが鼻から脳天まで突き抜け、頭がクラクラする。

 いけないとは思いつつも、彼女は暴力的に俺の理性を奪っていく――。


「ダメなの!」


 突然、腕を引っ張られる。

 シャノンさんが俺の手首を掴んだのだ。

 小さな身体とは思えない、強い力でナミリアさんが引き離される。


「もう、いいところだったのに。ジャマしないでよ」


 ナミリアさんはほっぺたを膨らませる。

 彼女のような美人だと、そんな顔もセクシーだ。


 一方、シャノンさんは静かに怒っていた。

 表情はいつもと変わらない。

 いや、いつもより無表情だ。

 だが、底知れない怖さが伝わってくる。


「レンレンを誑かす、悪い駄乳なの!」


 感情の消えた目はしっかりとナミリアさんの目を射貫く。

 ――チッ。

 あれ? いま、舌打ちした?

 いや、俺の聞き間違いだろう。

 シャノンさんがそんなことするはずがない。


「ごめんごめん、ちょっと遊んだだけよ。そんなに怒らないでよ」


 ナミリアさんは今度はシャノンさんの頭を撫でようとするが。

 シャノンさんはその手を邪険に払う。


「シャノンちゃん、怒っちゃった。レントちゃんから、なんか言ってあげてよ」

「いや、俺に振られても……」


 無茶振りが過ぎる。


「それより、なにかしようとしてたんじゃない?」


 ナミリアさんに問われ、シャノンさんは鼻から息を吐き出す。

 気持ちを切り替えたようだ。

 俺に向かって話しかけてきた。


「レンレン、頑張ったから、ご褒美あげるの」


 シャノンさんはマジックバッグからある物を取り出した。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『シャノンさんからのご褒美』


飯島しんごう先生によるコミカライズ2巻、2月9日発売です!



楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る