第174話 レントの新魔法(8)


 そう言ってさっきと同じように杖を構える。

 だが、今度はすぐに魔法を放たない。

 その代わりに、杖の先端に白い光の塊ができ、大きくなっていく。

 その塊がひと抱えほどの大きさになり――。


「無空弾」


 勢いよく飛び出した魔力弾はさっきの木をブチ抜き――。

 それだけでは留まらず、その後ろにある木々をなぎ倒す。


「これでも2割くらいの威力なの――これが無属性魔法なの」


 同じセリフだが、さっきとはまったく印象が違う。

 2割でこれだけ。全力を出したらどれほどの威力になるのだろうか。


「魔法はすべて術者の能力に依存するの」


 それは常識だ。

 熟練すれば魔法の威力が上がる。

 それに【魔力操作】スキルを持っていれば、それだけで威力が増す。


「そして、無属性魔法はそれが顕著なの。すべては術者次第なの。それにレンレン向けなの」


 さっきの2回目の魔法発動を見て思ったことがある。

 俺向け、すなわち、【無限の魔蔵庫】があれば――。


「魔力を込めれば込めるだけ威力が増す。そうですね」

「うんなの。無属性魔法は燃費が悪いけど、レンレンにはその限界がないの。理論上はいくらでも強力になるの」


 まさに俺向けだ。

 新たな可能性に、身体が熱くなる。


「でも、そんな大切なこと、俺に教えて良かったんですか?」


 この場には俺だけでなく、ナミリアさんもエルティアもいる。

 後者はともかく、ナミリアさんが知らないということは、おおっぴらにはしていないのだろう。


「レンレンには大きな借りがあるの。【魔蔵庫貸与】があるから、私ももっと強い魔法が撃てるようになったの。ありがとうなの」


 そう言って、シャノンさんは頭を下げる。


「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」


 俺一人だったら、無属性魔法を選べなかっただろう。


「無属性魔法はいくらで買えるの?」

「そうですね。レベル1が1万、レベル2が10万、レベル3は1000万です」

「やっぱり、他の属性魔法より圧倒的に高いの」


 レベル3まで上げたかったけど、そう簡単にはいかないようだ。


「いっせんまんだと⁉」


 1000万という数字に、エルティアが驚いたように声を上げる。

 チョコに夢中かと思ったけど、聞こえていたんだ。


「精霊魔法より高いじゃないかッ!」


 どうやら、自分のより高いことが気に障ったようだ。


「ウォーターボール」


 興奮しているエルティアに向かって、シャノンさんが水球を放つ。

 水球はエルティアの顔に直撃し、弾ける。


「なっ、なにをするんだ!」


 ビシャビシャになったエルティアの顔を、シャノンさんがタオルで拭く。

 そのやり取りを見てナミリアさんがプッと吹き出した。

 俺が呆気にとられていると――。


「チョコで汚れてたの。綺麗にしてあげたの」

「そっ、そうか。すまない」

「お代わりなの」


 新しいチョコバーを渡すと、エルティアは納得した様子でチョコにかぶりつく。

 スキルの値段のことはすっかり忘れたようだ。

 チョロすぎない?


 さっきからシャノンさんの扱いっぷりが完璧だ。

 エルティアのことを知り尽くしている。


 ともあれ、脱線しかけた話が元に戻った。


「レベル3は買えないですね」


 それには一年近くかかる。


「ちなみにシャノンさんのレベルは?」

「レベル3なの」

「凄いですね……」

「それより、レンレンの番なの」


 何事もないといった様子で、シャノンさんは俺をうながす。


「では、レベル2まで買っちゃいますね」


 と俺が購入したところで――。


「ちょっと待った!」


 唐突にエルティアが話に割り込んできた。

 なんかちょくちょくジャマしてくるな。

 なにかアイディアがあるのだろうか。

 いや、それはないだろう……。


「チョコが足りん! もっとくれ!」


 やっぱりね。

 そうだと思った。

 シリアスな場面が台無し。

 安定のエルティアだった。


 シーンとなってしまった空気の中、シャノンさんが無言でエルティアの口にチョコをぶっ込んだ。

 エルティアは「むぐぐ」と苦しそうな声を上げ、窒息しそうだ。

 まあ、静かになったからこれで良かっただろう。


 では、あらためて――。

 無属性魔法を購入する。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 【魔力操作】Lv1

  【火魔法】Lv3

  【水魔法】Lv2(UP↑)

  【風魔法】Lv2(UP↑)

  【土魔法】Lv2(UP↑)

  【光魔法】Lv2(UP↑)

  【闇魔法】Lv2(UP↑)

【無属性魔法】Lv2(New!)

 【回復魔法】Lv1

 【付与魔法】Lv1


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 これで残り魔力は約60万。


「さっきも言ったけど、無属性魔法は術者次第なの。だから、しばらくレンレンは修業なの」

「ええ、頑張ります」

「そのためにも、後はこれとこれを買うの。それが終わったら、修業を始めるの」


 俺はシャノンさんに指定された魔法を購入する。

 これで残り魔力は5万を切った。


「修業はナミリアが適任。だから、つき合うの」

「もちろんよ。かわいいシャノンちゃんとレントちゃんのためだもの」

「ありがとうございます」

「もともと、しばらくはここに滞在して、レントちゃんから借りたのを試すつもりだったからね。ビシビシしごいてあげるわ」

「毎日、魔力が空っぽになるまで修業なの」


 こうして、二人の協力を得て、一週間にわたる俺の修業が始まった――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『最終試験』


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