第168話 レントの新魔法(2)


 別れがあれば、出会いがある。

 意外な人たちと再会することになった。


「よう、レント、噂は聞いたぜ」

「ロジャーさん」

「スゲーじゃねえか」


 ギルドで待ち構えていたのは『流星群』のロジャーさんとナミリアさん。

 ロジャーさんに俺の頭をガシガシと強く撫でられた。


「レントちゃーん。元気にしてた?」

「あっ、はい」


 今日も色っぽいナミリアさんに飛びつかれる。

 いつものことなのだが、未だに慣れず、顔が赤くなる。


「やはり、【魔蔵庫貸与】ですか?」

「ああ、驚いたぞ」

「ずいぶんと早いですね」


 他の支部も含め冒険者ギルドから【魔蔵庫貸与】の情報を公開したの今日だ。


「ああ、高速馬車をかっ飛ばしてな」


 話を聞いてやって来る冒険者のことは想定していたが、こんなに早く、一番乗りするとは思わなかった。

 即断即決――いかにもロジャーさんらしい。


「一杯つきあえよ」

「ええ、喜んで」

「行きましょ」


 ロジャーさんに続いて、ナミリアさんに手を引っ張られ、酒場の一角に向かった。


 六人掛けの円卓。

 右隣はロジャーさん。

 左隣はナミリアさん。

 他の三人はすでに席に着いていた。


「レントの新スキルに乾杯だ」


 ロジャーさんの乾杯で始まった会話は、もちろん、【魔蔵庫貸与】についてだ。

 その説明がひと段落したところで、魔法修行について切りだした。

 シャノンさんに教わることは決まっているが、他の人の意見もきいてみたい。


「――ということで、お願いしたいのですが」


 反応が気になり、みなの顔を見回すと。


「俺は構わねえよ」


 ロジャーさんは鷹揚に応える。


「レントには儲けさせてもらったからな」


 ニコニコ顔なのお金儲けが大好きなジンさん。

 彼が言ってるのは、ガイたちとの決闘で胴元をやり、荒稼ぎをしたことだ。


「…………」


 黙って頷いたのはフーガさん。

 彼は無口で、喋っているところは、ほとんど見たことがない。


 そして、残りの――。


 『流星群』には二人の魔術師がいる。

 付与魔法でパーティーを支えるナミリアさん。

 火力の高い攻撃魔法が得意なコメットさん。


「もちろんよ。お姉さんが手取り足取り、ねっとり教えてあげるわ」


 ナミリアさんは妖艶な笑みを浮かべる。

 言葉に乗せられた色気はどこまで本気なのか。

 いつも分からずに戸惑ってしまう。


「無理」


 一方のコメットさんには、ひと言で却下された。


「ですよね」


 その返答は予想していた。

 と言っても、嫌われているとか、嫌がられている、わけじゃない。


「コメットに出来るわけねえな」とロジャーさん。

「コメットが誰かに教える姿なんて想像できんな」とジンさん。

「…………」無言はフーガさん。

「コメットちゃんじゃねえ」とナミリアさん。


 みんなが言う通り、コメットさんは我が道をいくというか、独特な性格でいまいち掴みづらい人だ。

 悪い人じゃないんだろうけど、行動原理が分からないので、どう接して良いか分からない。


「明日は私がつきっきりで教えてあげるからね」


 耳元でささやかれゾクッとする。

 ドキドキしながらも、言わなきゃいけないことがある。


「あの、明日は――」

「いいから、いいから」

「うわっ」


 ナミリアさんに抱きつかれ、押し倒される。

 上から瞳を覗き込まれる。

 トロンと蕩けた瞳に吸い込まれそうだ。

 彼女の顔が近づいてきて。

 吐息が頬に触れる。

 このまま、いくと――。


「おいおい、教えるのは明日からにしてやれよ」

「あっ、ちょっ、もう。いいところだったのに」


 反対側からロジャーさんが、彼女を引き剥がす。


「あんま、レントをからかうなって」

「からかってないわよ。本気よ。ねえ、レントちゃん?」

「あー、はいはい。今日はもうお開きだ。帰るぞ」

「え~」


 ロジャーさんが立ち上がると、他のメンバーもそれに続く。

 口ではぼやきながらも、ナミリアさんは席を立った。


「じゃあ、明日ね、レントちゃん」

「あっ、はい。よろしくお願いします」


 結局、シャノンさんのことを伝える機を逸してしまったけど、大丈夫かな……。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『レントの新魔法(3)』


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