第167話 レントの新魔法(1)


 ――翌日。


「シャノンの魔法講座なの」


 俺の右腕をガッシリと掴み、身体を寄せてくるのが『双頭の銀狼』のシャノンさん。


「お姉さんがいいこと教えてあげる」


 後ろから俺を抱き、背中にギュウギュウと柔らかいモノを押しつけてくるのは『流星群』のナミリアさん。


「我が叡智をそなたに授けよう。さあ、頭を撫でるのだ」


 そして、なぜか目の前に跪くギルドマスターのエルティアを、俺は左手で撫でている。


 子どもっぽくおっとりしてるシャノンさん。

 大人びた妖艶なナミリアさん。

 理知的に見せようとしているが、さっそくポンコツっぷりを発揮しているエルティア。

 ひとりだけ呼び捨てなのは、まあ、そういうことだ。


 なんだ、このカオスな状況は……。

 三人の美しい女性に囲まれ、どうしたらいいか、俺は戸惑う。


 どうしてこうなったかといえば――。


 ――時は昨日に遡る。


 フラニス廟から戻った俺たちは、フラニス廟の件をギルドに報告した。


「なるほど。さんぱりわからん」


 ギルドマスターのエルティアは、だて眼鏡をクイクイっと賢さを演出しながら、安定のポンコツ振りだった。


「ご報告ありがとうございます」


 一方、ギルドの実質的支配者であるプレスティトはポンコツ母は完全に無視だ。


「フラニス廟の方は問題なさそうですね。念のために、冒険者を警戒任務に当たらせましょう」

「お願いします」


 フラニス廟の試練は、俺の魔法問題が解決するまでどうしようもない。

 魔力はそれなりに溜めてあるので、魔法購入は問題ない。

 ネックになるのは、何を購入すべきか。

 急がば回れ――ここは焦らずに決定したい。


「【魔蔵庫貸与】の方はどうですか?」

「ええ、順調です。大半の冒険者から申し込みがありましたが、現時点では大きなトラブルも出ていません」

「なにかの際は、よろしくお願いします」


 彼女とはエムピーも交えて、入念な打ち合わせを行ったし、彼女は誰かと違ってとっても優秀だ。

 運営が始まったら、トラブルも出てくるだろうが、それほど心配していない。


「では、また、進展がございましたら、ご連絡ください」


 ギルドマスターとの、いや、プレスティトとの面談が終わった。

 執務室を出ると、二人に話しかけられる。


「レント君」「レント君」

「しばらく」「お別れ」

「もう行っちゃうんですね」

「明日の」「朝に出発」

「依頼を」「こなしてくれて」

「ありがとう」「助かった」

「こちらこそ、ラーシェスという新しい仲間ができたので、お二人には感謝してもしきれないです」

「なら」「良かった」

「彼女はもう」「大丈夫?」

「ご安心ください」


 彼らの誘いがなければ、ラーシェスは死んでいたか、彼女のSSSギフト【御魂喰いみたまぐい】が暴走したか。

 いずれにしろ、悲劇は回避できた。

 これが偶然なのか、それとも、創世神の掌の上なのか。

 そんなことを考えながら、みんなと合流した。

 と思ったら、シャノンさんがいきなり切り出した。


「シャノンは残るの」

「どういう」「ことかな?」

「レンレンに魔法教えるの」



 彼女の言葉に、二人は顔見合わせる。

 言葉がなくても、二人は意思を通い合わせられる。


「好きに」「したらいい」

「ありがとなの。終わったら、ちゃんと仕事するの」


 冒険者にはいろいろなタイプがある。


 金稼ぎを優先する者。

 強さを求める者。

 他の生き方ができない者。


 そして、『双頭の銀狼』は――困っている人の依頼をこなすこと。

 彼らのような高ランク冒険者でなければ解決できない問題がある。

 問題が起こった場所にちょうど適任な冒険者がいるとは限らない。

 儲けよりも問題解決するために、あちこちを飛び回るのが彼らだ。


「でも、本当にいいんですか?」

「いいの。シャノンがレンレンと一緒にいたいの」


 彼女は俺の袖をクイクイっと引っ張り、こちらを見上げる。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 願ったり叶ったりだ。

 少し肩が軽くなった。


 そして、別れがあれば、出会いがある。

 意外な人たちと再会することになった。








   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『レントの新魔法(2)』


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