第165話 フラニスの試練(1)

「ラーシェス!」


 廟の中に消えた彼女に呼びかけるが返事はない。

 そして、入り口の膜は何事もなかったかのように元に戻る。

 せっかちなローリーさんが入り口に向かうが、膜に阻まれた。


「おい、入れないぞ」

「ローリー」「離れて」


「「――シルバーシザース」」


 二人の声が重なり、二本の直剣がハサミのように交差する。

 だが、剣撃は膜にすっと受け止められ、なにも変化がない。


「シャノン」「攻撃魔法」

「あっ……」


 二人に視線を向けられ、シャノンさんは誤魔化すようにそっぽを向く。


「魔力使い切っちゃったの。ポーション飲むから待ってなの」


 慌ててポーションを取り出そうとする彼女を、俺は手で制する。

 エムピーを見ると、小さく頷いた。


「多分、俺たちなら行けると思います」

「うん。レント君に」「任せた」


 二人は躊躇うこともなく、俺に任せてくれた。


「リンカ、行こう」

「はい」


 彼女も俺と同じ感覚なのだろう。

 間違いなく、ここはSSSギフトの持ち主のための場所だ。

 鬼が出るか蛇が出るか――入ってみないとわからない。

 だが、ラーシェスが入ってしまった以上、入らないという選択肢はない。


 リンカと二人で膜に触れると、なんの抵抗もなく向こう側に通り抜けた。


「階段ですね」

「ああ、降りよう」


 石の階段をしばらく降りていくと、石造りの部屋にたどり着いた。

 中にはなにもない。殺風景な部屋だ。

 広さは10メートル四方。


 そこにラーシェスが一人、立ち尽くしていた。


「ラーシェス、大丈夫か?」

「ええ、平気よ」

「ここは、いったい……」

「不思議な場所ですね」

「でも、どこか懐かしい匂い」


 俺には分からないが、ラーシェスはなにか感じ取っているようだ。

 そして――。


「あっ」「えっ」「うん」


 三人同時に気がついた。

 いつも俺たちから離れない、エムピーたちサポート妖精がいない。

 どういうことだろうか……。

 疑問に思っていると、部屋の中に声が響く。しわがれた老翁の声だ。


「ウィラードの血を継ぐ者よ。ここは試練の間。ウィラードの力を継承するに相応しいかどうか、其方そなたには試練を与える。其方と仲間の力を我に示して見せよ」

「あなたがフラニス様?」

「…………」


 ラーシェスの問いかけには沈黙が返ってくる。

 その代わりに奥の壁が赤く変色した。


「まずは武の力、示して見せよ」


 老人の声はそれで終わりだった。


「サポート妖精の力は借りられなそうですね」

「ああ、こんな面白い場面にエムピーやアンガーが顔を見せないはずがない」


 俺たち三人だけで乗り越えなければならないようだ。


「赤い壁を物理攻撃で壊せってことだよな?」

「そう思います」

「ボクもそう思う」

「悪意はないみたいだ」

「ですね」

「むしろ、ボクには優しく感じるよ」


 三人とも同じ印象を受けたようだ。


「じゃあ、ここはやっぱり――」

「ボクがやってみるよ」


 意外なことにラーシェスが口を挟んできた。

 武の力を試せと言われたら、適任者はリンカだ。

 だけど――。


「これはご先祖様からのボクへの試練だと思う」


 ラーシェスは前に出て、血統斧レイン・イン・ブラッドを構える。

 大きく振りかぶって、斧を壁に叩きつける。

 壁には傷がつかないが――


『――魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション


 彼女が唯一使える攻撃スキル。

 魔力を流し続ける限り血統斧レイン・イン・ブラッドから対象にダメージを与えるスキルだ。


 10。

 20。

 30。

 40。

 50。


 魔力を流してもノーダメージ。

 それから、100,200と続けても変化がない。

 このまま続けても、らちが明かないとラーシェスも判断し、血統斧レイン・イン・ブラッドを下げる。


「ふぅ。ダメだったよ」

「この方法は通用しないような気がしたけど?」

「うん。ボクもそう思う。多分、ボクが強くなってもクリアできない」


 攻撃力が足りないのではなく、そもそも、ラーシェスの攻撃ではこの試練は突破できない――三人とも、そう直感した。


「となると――」

「はい、私が」

「任せたよ」

「まずは普通にやってみます」


 リンカは前へ出て、死骨剣を構える。

 そして、斬りつけるが――。


 ――キィン。


 甲高い音とともに剣が跳ね返される。

 ダメージは与えていないようだ。


「やっぱり、この程度じゃダメですね。全力で行きます」


 リンカもそれは予想していたようで、気落ちした様子もなく、詠唱を開始する。


壱之太刀いちのたち終之太刀ついのたち――斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、一歩踏み込め阿修羅道」


 リンカが詠唱を終える。

 スキルの効果で全身と手に持つ死骨剣は赤い闘気で包まれる。


 次いで、剣を後ろに引き、構える。


弐之太刀にのたち後先之太刀ごせんのたち――力に従うは居合いあいあらず、心に勝つが居合なり。雲晴れた、後の光をとくと見よ」


 ――斬ッ!







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『フラニスの試練(2)』


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