第164話 フラニス廟


 シャノンさんが消えていった森の中から「ドカーン、ドカーン」と不穏な音が立て続けに聞こえる。

 皆、ピタリと足を止めるが――。


「シャノンなら」「問題ない」


 双子の二人は何事もなかったかのように歩き始める。

 俺たちもその後を続いて歩いていると、森の中からシャノンさんがスッキリした顔で戻って来た。


「これ、すごいの。魔法、撃ち放題なの」

「いや、撃ち放題ってことはないですよ。貸与できる魔力には限界がありますよ」

「知ってるの。それでも、これは堪らないの。やみつきなの」

「ひょっとして、全部使い切っちゃっいました?」

「うんなの。魔力空っぽなの」


 気持ちは分からなくもないけど、これから異変があった場所に向かうのに大丈夫だろうか?

 俺の気持ちが顔に出ていたのだろうか、シャノンさんは笑顔で答える


「平気なの。いざとなったらポーション飲むの。あれ、美味しくて大好きなの」


 魔力回復ポーションは、誰もが「勘弁してくれ」と言う激マズ味だ。

 いろいろ変わっているシャノンさんだけど、味覚もズレているようだ。


「レンレン、大好きなの」


 シャノンさんがギュッと俺の腕に抱きつく。

 彼女は薄い胸をしているが、それでも柔らかい感触が伝わってきて、顔が赤くなる。


「ほら、行くの。遅れてるの」


 彼女とくっついたまましばらく歩き――。


「こっちなの」


 シャノンさんが森の中を指差す。

 道からは外れるが、歩き固められた跡がある。


「よし」「行こう」


 双子の二人を先頭に進んでいく。

 モンスターは現れない。

 きっと、さっきのシャノンさんのせいで、散り散りに逃げていったんだろう。


 やがて、不自然にぽっかりと開けた場所に出る。


「おう、遅かったじゃねえか」


 せっかちに言うのは、斥候職のローリーさん。


「あ、レントだ」


 とマイペースなのは、回復職のセリカさん。


 二人とも、『双頭の銀狼』メンバーだ。


「おっ、レントか。他にも二人、ずいぶんと大所帯じゃねえか」

「令嬢も一緒。治ったんだね」


 シャノンさんと出会ったときと同じようなやり取りを繰り返す。

 それがひと段落すると、いよいよ、本題だ。


 開けた場所の中央には、石で組まれた建造物。


「まるで、墓所みたいだ」


 それが第一印象だった。


 ただ、不思議なのが、まるで今、造られたばかりの新品にしか見えないこと、そして、建物は前面があいており、入り口には虹色の膜がかかっていること。


「こんな場所」「これまでなかった」

「だろ? 意味不明だろ?」

「不思議だけど、不思議なことはよくあるものよ」


 双子の言葉に、ローリーさんとセリカさんが応じる。


「これは……」


 誰もが首をかしげる中、ラーシェスだけはなにか思い当たる節があるようだ。


「ラーシェスはなにか知っている?」

「うん。多分」


 彼女は信じられないものを見るような視線を向ける。


「『フラニス廟』――ボクのご先祖様のお墓だと思う」


 小さく頷いた彼女は、言葉を続ける。


「代々言い伝えられていたけど、誰も見たことがない。ボクもお伽話だと思っていたよ……」


 ラーシェスはセリカさんにお願いする。


「結界を解いてもらえるかな?」


 セリカさんは双子に許可を仰ぐ。


「結界を」「解いて」

「わかった」


 皆が見守る中、セリカさんが結界を解いた。


 静寂――。


 しばらく待ってもなにも起こらない。

 ラーシェスが言うように先祖をまつった廟なんだろうか?


「悪い気配は」「感じない」

「だから、大丈夫だって俺が言ったろ?」

「ローリーは不用意なの。さっきも飛び込もうとしたの」

「私はどっちでもいいよ。なにかあっても自己責任なんだから」


 言い合っているが、仲の良さが伝わってくる。


「で、どうするの、リーダー?」

「さっさと入って、チャチャって済まそうぜ。街に帰って風呂に入りてえ」

「それには賛成なの」

「夕方までには終わらせたいね」

「あの膜が」「気になる」

「まあ、大丈夫だろ」

「危険はなさそうなの」

「レント君たち」「なにか感じる?」

「なんでしょう。なんとも言えない感覚がします。普通の場所とは違うような。ですが、危険性は感じないです。リンカは?」

「私もレントと同じように思います」

「ただ、俺たちのギフトにも関係ある気がします」


 エムピーを見ると、ニコニコ顔でなにを考えているか分からない。

 リンカのサポート妖精であるアンガーもいつも通りに腕を組んで黙っている。

 二人とも、なにか発する様子はなさそうだ。


 ラーシェスのサポート妖精であるイータはといえば、ラーシェスの腕の中ですやすやと眠っている。

 だが、そのとき、イータのひげがピクリと動いた。


 それにつられるように――。


「ラーシェス?」


 彼女は俺の声が聞こえないのか、フラフラと祠に歩いて行く。

 入り口の前ラーシェスは立ち止まる。


「なにか、呼ばれてる気がするよ」


 ラーシェスは祠に近づき、膜に触れると――。


「なっ!?」


 彼女は吸い込まれるように、廟の中に消えていった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『フラニスの試練(1)』


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