第158話 ラーシェスの冒険者登録(2)

【前書き】


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   ◇◆◇◆◇◆◇


 ラーシェスはお供の者を従え、冒険者ギルドに向かう。

 ギルドに一歩足を踏み入れ、彼女はいつもとは違うソワソワとした空気を全身で感じ取った。


「お嬢!」

「お嬢様!」


 いかつい男たちの低い声。

 女性冒険者の高い声。


 合唱のように混ざり合った大音声がラーシェスの身体に叩きつけられる。

 その歓迎振りに彼女は浮かれ調子で胸を張る。


 ラーシェスはこの街で大人気だ。

 特に冒険者たちの間では、娘か妹のように親しまれている。


 冒険者を見下す貴族も多い中、ウィラード伯爵家は違った。

 領地運営に大きく貢献していると、決して冒険者を軽んじることはなかった。


 その教えは先祖代々引き継がれ、ラーシェスも父から教わった。

 彼女は冒険者の地位向上のために尽力し、冒険者をこの街に呼び込む努力をした。


 ウィラード伯領には有名なダンジョンもないし、儲かる狩り場もない。

 それでも多くの冒険者が集まるのは、居心地がいいからだ。

 一度この街に馴染めば、よっぽどの上昇志向の持ち主でなければ、この街に留まり続ける道を選ぶ。

 この街の冒険者にとって、ラーシェスは特別な存在だった。


「皆様、ごきげんよう」


 ラーシェスが片手を挙げると、歓声と拍手がよりいっそう大きくなる。


「今日からわたくしも皆様の仲間入りです。よろしくお願いしますね」


 彼女が頭を下げると、歓迎はピークを迎えた。

 頭を上げ、彼女が歩き出すと、冒険者は一歩下がり、カウンターへ向かう道が開ける。

 歩くときにクラッと頭が揺れたが、ラーシェスは気のせいだと思うことにした。


 それよりも今は冒険者登録だ。

 自然と足取りが軽やかになる。


 ギルドのカウンター前には一人の女性が立ち、ラーシェスを待っていた。


「ようこそ、ラーシェス嬢。今日は祝うべき冒険者デビューの日、ギルドマスターの私を含め、すべての冒険者がこの日をどれだけ待ち望みゅ……待ち望む……のぞむ…………」


 眼鏡をかけ、理知的な雰囲気をまとう、エルフ女性。

 この街のギルドマスター、エルティアだ。


 理知的な雰囲気はあくまでも雰囲気だ。

 実際はポンコツであることは広く知れ渡っている。

 それを知らないのは本人だけで、それがまたポンコツぶりを証明している。


 一生懸命練習した挨拶の言葉だったが、途中で詰まってしまい固まってしまった。

 彼女の記憶力ではそれが限界だった。

 ちなみに、挨拶の言葉は娘のプレスティトが考えたものだ。


 プレスティトが呆れた顔で、母の頭をはたく。

 「いてっ」と声を挙げる母を横にどけて、代わりに挨拶をする。


「ようこそ、ラーシェス嬢――」


 プレスティトは母とは違い、流れるように挨拶を済ませた。

 さすがはギルドの実質的支配者だ。


「では、さっそく手続きを始めましょう」


 皆が見守る中、冒険者登録手続きが進んでいく。

 普通の相手なら、受付嬢が担当するのだが、今回はプレスティト自らが行う。


「登録完了しました。これでラーシェス嬢も冒険者です」

「これからいっぱい活躍いたしますわ」

「心待ちにしております」


 自信に満ちたラーシェスの態度に、割れんばかりの声でギルドが揺れる。

 街を襲撃したモンスターの大群を退けたかのような浮かれっぷりだ。


 だが、次の瞬間、状況が一転する。

 ラーシェスの顔から笑顔が消える。

 顔が青ざめて、足元がふらついて。


 気を失ったラーシェスはその場に倒れた。


「お嬢!」


 心配した冒険者が駆け寄り、ラーシェスを覗き込む。

 慌てる者。うろたえる者。叫ぶ者。


 ギルド内はさっきと別の意味で大騒ぎになった。

 騒然とする中、二人の冒険者がギルドに現れた。


「これは一体」「どんな騒ぎ?」


 『双頭の銀狼』のデストラとシニストラだ。

 冒険者デビューしたラーシェスの指導役として選ばれたのが彼らだった。

 この街に到着したばかりの彼らは、伯爵からギルドに向かったと聞き、ここに現れた。


 この騒ぎでも表情を変えない二人の冷静さに周りも落ち着きを取り戻す。


「説明して」「くれる?」

「ついさっきのことですが――」


 プレスティトが代表して、二人に説明する。

 二人はラーシェスの身体をあらため、ひとつの可能性にたどり着いた。


「魔力枯渇が一番」「可能性が高い」

「取り急ぎまずは」「伯爵邸に戻る」

「私もついて行きます」


 デストラは意識のないラーシェスを背負い、シニストラが先導し、プレスティトが付き添う。

 冒険者とギルド職員はその姿を心配そうに見送った。


 誰にも見えないが、ラーシェスの肩にはイータが座っていた。

 黒い毛をしたイータが舌なめずりをする。


「美味しいニャ。でも、全然足りないニャ」


 ラーシェスが意識を取り戻すには、レントの到着を待たねばならなかった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


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