第157話 ラーシェスの冒険者登録(1)


 ――ラーシェスが15歳になった日。


「それでは、ラーシェス嬢の『成人の儀』を始めます」


 平民であらば、神殿で月に一度行われる『成人の儀』でギフトを授かる。

 しかし、伯爵の愛娘ラーシェスの場合は、誕生日に自宅に司祭を招いて『成人の儀』を執り行う。


 その様子を伯爵と屋敷中の従者が見守っている。

 父である伯爵は浮き足立ち、ラーシェス本人より落ち着きがない。


「大丈夫ですわ、お父様」


 ラーシェスが「冒険者になりたい」と言い出したとき、伯爵は最初は反対した。

 貴族である彼女は危険に身をおかなくても生活には困らない。

 平穏な人生が約束されている。

 だが、娘は自らそれを捨てようと望む。


 何度も説得したが、娘の気持ちは変わらなかった。

 そんな彼女に根負けした伯爵は彼女の生き方を受け入れることにした。

 そして、一度、認めてしまえば、後はただの親バカだ。

 娘のために最高の装備を用意し、指導役の一流冒険者も手配してある。


 そして、準備万端――『成人の儀』が始まる。


 司祭が錫杖をラーシェスの頭にかざすと、光が彼女を包み込む。

 その光は強く眩い。

 部屋にいた皆が眩しさに思わず目をつぶる。

 司祭が今まで見たことがないほどの輝きだった。


「こっ、これは……」


 やがて、目を開いた司祭が驚いた様子で呟く。

 ラーシェスが授かったギフトは司祭が見たことがないものだった。

 司祭はひと呼吸おいてから告げる。


「【御魂喰いみたまぐい】――SSSギフトです」


 厳かに告げる司祭の声はわずかに震えていた。


 一瞬、静寂がさざ波のように広がり――。


 やがて、大歓声が沸き起こる。

 キョトンとしているラーシェスを置き去りにして。


「えっと……どういうことでしょうか?」


 首をかしげるラーシェスは自分の身に起こったことに理解が追いつかない。

 ようやく落ち着きを取り戻した司祭が優しい声で語りかける。


「お嬢様、貴女が授かったのはユニークギフト、それも最高ランクのSSSランクのギフトです。おめでとうございます」

「ユニークギフト……SSSランク」

「ええ、そうです。口で説明するよりは、まず、ステータスをご確認ください」

「えっ、ええ……」


 ラーシェスは半信半疑ながらも言われた通りにする。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:ラーシェス

年齢:15

性別:女


ギフト:【御魂喰いみたまぐい】(SSS)


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


「本当ですわね……」


 ステータスを確認したラーシェスが顔を上げる。

 貴族令嬢としての落ち着きを取り戻していた。


「それでこの【御魂喰いみたまぐい】というのは、どういったギフトなのかしら?」

「ユニークギフトは前例がないものでして……」


 司祭の言葉が尻すぼみになるが、それだけで彼女は理解した。

 それと同時に心が震える。


 幼少の頃から憧れていた冒険者になった日。

 創世神からの最高のプレゼントだ。

 不安がないと言ったら嘘になるが、それよりも喜びの方が大きい。


「おお、ラーシェスよ。良かったな」

「お父様……」


 感極まった父が彼女に抱きつく。

 まるで娘を嫁に出すような力強さだ。


「お父様、苦しいですわ」

「ああ、すまんすまん」


 彼女から離れた伯爵の目尻は潤んでいた。


「大げさですわ。お父様」


 ラーシェスは柔らかな笑みを浮かべる。

 別に今生の別れではない。

 しばらくはこの街を拠点に活動するし、夜になればこの屋敷に帰ってくる。


 それでも新たな道を歩み出す娘を見て、伯爵の胸にすっと風が吹く。

 その風をかき消そうと、伯爵は大きく息を吐く。


「今日から冒険者だ。行って来なさい」

「ええ、お父様」


 二人の視線が交わる。

 送る側と送られる側。


「では、冒険者登録に参りましょう」


 ラーシェスは冒険者としての一歩目を歩き始めた。

 このときはまだ、歩き始めてすぐにつまずくとは知らずに。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ラーシェスの冒険者登録(2)』


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


本日、コミックス第1巻発売!

買ってね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る