第155話 SS ロシアンたこ焼き(2)

「残り3人です~。次の方~」

「うす。俺っちの番っす」


 威勢のいい声だったが、アンガーはたこ焼きにしてピタリと手を止めた。


「早く食べるです~」

「さっさと食べるニャ」

「どうしたの、アンガー?」

「いっ、いや……」


 顔は青ざめ、プルプルと震えてる。

 これも作戦か?

 だが、その意図は掴めない。

 アンガーもリンカに似て、腹芸ができないのだが……。


「頑張って」

「うす」


 リンカの励ましに、アンガーは覚悟を決めたようだ。

 死地に赴く戦士のように、たこ焼きに手を伸ばす。


 アンガーもエムピーと同じくらいのサイズ。

 顔の前に持ったたこ焼きを少しずつ囓っていく。


 相変わらず怯えた表情だが、今のところ、特におかしな様子はない。

 が。

 次の瞬間、ペッと吐き出した――たこ焼きのメインであるたこを。


「むっ、無理っす。悪魔の魚は俺っちにはムリっす」


 剥き出しになったたこの切り身を前に、ランガーは青ざめた顔だ。


「イータ」

「わかったニャ」


 イータが後ろから羽交い締めのようにアンガーを動けなくする。

 そして、「さっさと食べるです~」とエムピーが無理矢理たこをアンガーの口に詰め込んだ。


 ――アンガーは真っ白に燃え尽きて、力なく横たわっている。


「さて、次の方~」


 エムピーは死にかけのアンガーを無視してゲームを進行していく。

 この様子だと、アンガーは選択肢から外して問題ないだろう。


「俺だ」


 ついにやって来た俺の番。

 皿の上には2個のたこ焼き。

 右を取るか、左をとるか。


 ――運命の選択。


 だけど、ヒントもなにもないので、カンで選ぶしかない。

 俺は右側のたこ焼きに手を伸ばす。


 このゲームふたつの作戦がある。

 ひとつ目は、リンカがやったように、辛かったという演技をすること。

 ふたつ目は、辛かろうが構わずに平然と食べること。


 リンカほどではないけど、俺も自分の演技に自信があるわけではない。

 なので、無表情で食べる。

 感情を消し、アタリでもハズレでも決して顔に出さない。


 ――よし、心は整った。


 パクリとたこ焼きを放り込む。

 無になって咀嚼する。

 ゆっくりと食べていき――。


「ごちそうさまでした」


 美味かったとも、辛かったとも、一切の情報を伝えない。


 見回してみるが、皆、俺がアタリかどうか、悩んでいる顔だ。

 上手くいった。


「むー、さすがはマスターです。まったくわかりません~」


 激マズな魔力回復ポーションを飲むために習得した「無になること」。

 これが活躍する日が来るとは思わなかった。


「次はラストです~。ラーシェスさん、どうぞ~」

「は~い、ボクだね。任せてっ!」


 身内だけなので、ラーシェスは素の振る舞い。

 貴族令嬢の彼女はこういうことに縁がなかったので、嬉しそうなハイテンションだ。


「いっただきま~す」


 ラーシェスは勢いよく、たこ焼きを口に入れる。


「もぐもぐ……うん、おいしいっ!」


 心の底からの笑顔だ。

 これが演技だったら、人間不信になりそうな笑顔だ。


「ごちそうさまでした~」


 ラーシェスの番が終わり、ゲームは後半戦へ――。


「では、当て当てターイム!」


 店員さんが新たなお皿を持ってきてくれた。

 今度は5個。全部激辛だ。


「いっせいのせで、激辛たこ焼きを食べたと思う人を指差してくださ~い」


 間違った相手を指したら、指した人はひとつ食べる。

 正解の相手を指したら、指された相手がひとつ食べる。

 激辛を食べた本人は誰も指差さなくていい。


「それでは、いっせいのせ~」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ロシアンたこ焼き(3)』


正解は誰だ?


9月12日コミックス1巻発売!


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る