第154話 SS ロシアンたこ焼き(1)

「では、不肖わたくしエムピーが司会を務めます~」


 パチパチパチと拍手が起こる。


「第1回どきどきロシアンたこ焼き大会を始めます~」


 時は夜。

 場所はギルド酒場。

 メンバーは【二重逸脱トゥワイス・エクセプショナル】の3人レント、リンカ、ラーシェス。

 それに3人のサポート妖精であるエムピー、アンガー、イータ。


 合計で6人だ。


 ひと通り食事を済ませ、腹も膨れたところで今日のメインイベントだ。

 6人掛けのテーブルは綺麗に片付けられ、皿がひとつ置かれているだけだ。


 皿の上に並ぶ6個のたこ焼き。

 そのうちのひとつがアタリ、いや、ハズレか――激辛たこ焼きだ。


 くじを引いた順に1つずつ食べていく。

 激辛を引いてもバレないように演技する。

 そうして、誰が激辛を引いたか当たるゲームだ。

 皿の裏には答えが書いてあるのでインチキはできない。


 始まりを前にして、緊張感が漂っている。


「くじ引きタイムです~。みなさん、引いてください~」


 エムピーが持つ6本の棒。

 それぞれに1~6までの数字が書かれているが、今はエムピーの手で隠されている。

 みな、思い思いの一本を選ぶ。


 俺が選んだ棒は――5番目だ。


「1番は誰かな~」

「おいらニャ」


 一番手はイータ。


「食べるニャ。美味しそうニャ」


 猫舌のイータは選んだたこ焼きをふぅふぅと冷ましてから、「これで大丈夫ニャ」とパクッと行く。

 イータは手が不器用なので、たこ焼きを直接、口に入れ――その直後。


「ニャニャニャ~~~!!!」


 絶叫とともに吐き出した。

 いきなり当たりを引いたのか、と注目が集まる中。


「なんニャ。これ、熱すぎニャ!」


 イータは知らなかった。

 たこ焼きは外が冷めても、中は熱々だ。

 普通の人でもハフハフしてしまう。

 イータにとってはとても耐えられなかったのだろう。


 みなが笑顔になるが――いや、ちょっと待て。


 もしかして、これは演技では?

 アタリを引いたけど、熱くて食べられないフリをしているだけかもしれない……。


 そう、この戦いは高度な心理戦。

 少しも油断できない。


 イータはたこ焼きの残りをふぅふぅ冷ましながら平らげた。


「次は誰~、って私でした」


 エムピーは爪楊枝をえいっと刺し、たこ焼きを高らかに掲げる。

 ニコニコ顔だ。エムピーはたこ焼き大好きだからな。


「いっただきます~」


 たこ焼きはエムピーの顔より大きいサイズ。

 美味しそうにちまちまと囓っていく。

 ほっぺたが落ちそうな満面の笑み。

 完全に蕩けきっている。


 これは間違いなく普通のたこ焼きなはず。

 だが――。

 エムピーは腹黒策士。

 イータに続きエムピーも油断出来ない。


 この戦い、俺が思っていたよりも厳しくなりそうだ――。


「ごちそうさまでした~」


 ぽっこりとお腹を膨らませたエムピー、満足した声で告げる。


「次は誰かな~」

「あっ、私です」


 三番手はリンカ。

 彼女は気負った様子もなく、ポイッと口の中に放り込む。

 そして――思いっきり顔をしかめた。

 慌ててコップに手を伸ばして一気飲み。

 ひと息ついた様子で「ふぅ」と息を吐き出す。


「あっ……」


 リンカはヤバいという顔をする。

 アタリを引いたことを隠せなかったという顔だ。


 が。


「姐さん、さすがにそれはどうかと……」

「おいらでも分かったニャ」

「ちょっとやり過ぎです~」


 俺と同じく、3妖精にもバレバレだった。

 なにせ、リンカの演技は下手くそ過ぎた。

 人の良いリンカは嘘をつき慣れていない。


 うん。リンカは選択肢から外れた。


 最初の二人で疑心暗鬼になったが、リンカの素直さにほっこりする。

 本人は恥ずかしそうにしているのが、また、カワイイ。


 ともあれ、前半戦は終わった。

 さあ、後半戦だ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ロシアンたこ焼き(2)』


9月12日コミックス1巻発売!


楽しんでいただけましたら、フォロー、★評価お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m


   ◇◆◇◆◇◆◇


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る