第153話 【魔蔵庫貸与】説明会(3)

「ただ、期限内に完済されない場合はみっつのことが起こります。どれも厳しいものです。できれば期限内の返済をオススメします。魔力回復ポーションを飲んで返済することも可能ですので。では、順に説明しましょう」


 人差し指を立てる。

 皆の視線が集まるのを確認してから、軽い調子で話し始める。


「ひとつ目は、信用ランクが落ちます」


 身構えていた聴衆の口から息が漏れる。

 これくらいは当たり前だろう、と誰もが考える。

 俺は中指も立てる。


「ふたつ目は、返済が終わるまで、緊急貸与以外の借り入れができなくなります」


 まあ、これも当然だな。

 と納得の顔々。

 最後に薬指を立てる。


「そして、みっつ目。強制徴収が始まります」


 聴衆をひと通り見回し、表情を引き締める。

 声のトーンを落とし、ゆっくりと続ける。


「強制徴収には三種類あります。それは、一括払い、分割払い、リボ払いです」


 一括払いか分割払いで済めば、たいした問題にはならない。

 ガイたちを破滅させた『リボ払い』。

 できることなら、その出番がなければいいのだが。

 一括や分割で払いきれない場合は『リボ払い』に頼るしかない。


 普通の人は『リボ払い』までいかない。

 ほとんどは期限内に完済するし。

 たとえ遅れても、一括や分割で返し終える。


 だが、欲をかいて緊急貸与に頼り、『リボ払い』しか道が残されない者もいる。

 そして、それこそが地獄の入り口。

『リボ払い』を始めても、緊急貸与は利用可能だ。

 そして、『リボ払い』の場合、週ごとの支払いが変わらない。

 借りた量が増えているという実感がないのだ。

 そうなってしまえば……。


「詳しい説明は、強制徴収が実施される際に説明いたします。普通の方にはまず関係のない話ですからね。もちろん、個別に知りたい方には説明します。それについては――」

「ここからは私が説明します」


 俺の役目は終わった、後はプレスティト任せだ。


「【魔蔵庫貸与】に関して、当ギルドは新たに『魔蔵庫貸与課』を設けることにしました。責任者は私プレスティトが務めます。貸与に関する手続き、相談は『魔蔵庫貸与課』までお願いします。また、新規の【魔蔵庫貸与】についても、こちらで手続きができるようになっています」


 本来、魔力の貸し借りは俺と相手、両者の同意が必要だ。

 しかし、いちいち俺が対応していたらキリがない。

 そこでギルドに委任することにした。


 具体的には、魔力契約を使う。

 ガイたちとの決闘の際にも用いたもので、魔力が込められた羊皮紙で契約を交わすのだ。

 その羊皮紙をプレスティトに預けておいて、後は利用したい冒険者がサインをすれば【魔蔵庫】が利用可能になる。

 そして、その後の貸し借りについてはエムピーが全部やってくれるので、俺の負担は前もって大量の羊皮紙にサインをするだけ。

 そして、それはこの一週間で済ませてある。


「それでは、説明会は以上になります。この後、ギルドカウンターで開設手続き及び質問を受け付けます。皆様、本日はありがとうございました」


 プレスティトが締めると、大きな拍手が湧き起こる。

 全体の空気としては、完全に理解したわけではないが、【魔蔵庫貸与】がとんでもない利益をもたらしてくれると判断してくれたようだ。

 一部、懐疑的な者が小声で話し合っているが、これはしょうがない。

 新しいことを始めるとき、新しいという理由で拒絶する者は必ず一定割合存在する。


 冒険者はカウンターに殺到した。

 すぐに借り入れしなくとも、【魔蔵庫貸与】の契約だけでも結んでおこうという腹づもりだろう。

 ここまですんなりと受け入れられたのは、ギルドマスター、伯爵、ラーシェス、デストラさんとシニストラさん――この街の重要人物が後ろ盾になってくれたからだ。


 この調子なら、俺の魔力はどんどん増えていく。

 さらにさらに、強くなれる。


『マスターマスター』


 満足していると、肩に乗ったエムピーが念話で話しかけてきた。

 彼女は俺以上に満ち足りた顔で、恍惚としている。


『ぐふふ~。魔力ががっぽがっぽです~』

『ずいぶんと嬉しそうだね』

『ああ、今から取り立てが楽しみです~』

『緊急貸与かい?』

『そうです~。あれが便利なものだと勘違いする輩は絶対に出てくるです~』

『まあ、そうだろうね』


 俺としては、普通に貸して、返してくれれば、それでいい。

 たしかに、儲けだけを考えるなら、最初から『リボ払い』を解放するべきだ。

 だが、俺としては進んで誰かを陥れたいわけではない。


『欲張り者には、鉄鎚です~』

『ははっ。皆の役に立てる。そのついでに俺も強くなれる。それだけで十分だよ』

『マスターは欲がないです~。もっと、悪徳になってもいいです~』

『考えておくよ』


 不満そうに頬を膨らませるエムピーの頭を撫でてなだめる。


「お疲れ様です」

「ボク、役に立てた?」


 リンカ、ラーシェスと合流する。


「ああ、ラーシェスの影響はスゴいね。大きな後押しになったよ」

「なら、よかった。ボクは借りっぱなしだからね。少しでもお返しできて嬉しいよ」


 離れた場所から双子と並んで、活況なカウンターを眺めていると、入り口の方がざわついた。


「なに? なにが起こったの?」


 ギルドに入ってきた女性冒険者が不思議そうに大きな声をあげた。

 魔術師の格好をした女性。俺も知っている女性だ。


「シャノン」「お帰り」

「あっ、リーダー。これなに?」


 『双頭の銀狼』の魔術師シャノンさんだ。

 彼女は俺たちに気がつき、こちらに向かってくる。

 彼女は他の二人と一緒に、エリクサー素材を集めに行っていた。

 帰還したのは彼女一人だけのようだ。

 それが引っかかるが……。


「あっ、レンレン、おひさー」

「お久しぶりです」

「それより」「報告は?」

「あっ、そうそう。大変なの」


 その態度から、二人はなにかを察したようだ。

 彼女は小声で伝える。


「ニーラクピルコ森林で異変が起こったの。ローリーとセーラは念のために残っているの」

「そうか」「丁度よかった」


 今日はギルマスに大勢の冒険者が揃っている。


「ギルマスに」「報告しよう」

「だねだね」


 ニーラクピルコ森林で起こった異変。

 その原因が俺たちのSSSランクギフトに関するものだと、このときは知るよしもなかった――。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 第8章『新たな道』、完結です!

 ここまでおつき合い、ありがとうございましたm(_ _)m


 次章は書きためてから、連続投稿というスタイルになります。

 【魔蔵庫貸与】がどうなるのか?

 ニーラクピルコ森林の異変とはなになのか?

 気になるかと思いますが、しばらく、お待ちくださいm(_ _)m


 本作をお楽しみいただけたら、ブックマーク、評価お願いしますm(_ _)m


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   ◇◆◇◆◇◆◇


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