第152話 【魔蔵庫貸与】説明会(2)

「ここでデストラさんにMP100を緊急貸与してもらいます」


 そして、デストラさんが緊急貸与でMPを100借りる。

 そうすると――。


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MP:1,125/1,125


【貸与魔蔵庫】


 信用ランク:シルバー

 魔力ストック:2250

 魔力残高:-3,580

 返済期限:

・2508:3日後9:43

・1000:7日後9:44


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「その名の通り、緊急ピンチの場合を考慮した貸し出し方法です。モンスターとの戦いで死にかけた状況、だが、これ以上魔力を借りられない。そんな場合に、皆様が命を落とすような事態は、俺としても避けたいです」


 これは俺の本音だ。

 俺が魔力を貸すことで、誰かの命を救えるなら、これほど嬉しいことはない。


「そこで、利息を9倍にする代わり、上限なしでいくらでも借りることが可能です。これが緊急貸与です」


 いきなりの高利率を提示され、眉をひそめる者。

 俺の話を理解し、命に比べれば安いと安堵する者。

 よく分からず困惑している者。


「確かに高い利息ですが、スキルを連発することで命が助かるならば、法外ではないと思います」


 『断空の剣』のようにスキル連発。しかも、ヤツらのときと違い【自動補填オートチャージ】によってリキャストタイムはゼロだ。

 ほとんどの場合は、これでピンチを脱出できる。


「緊急貸与の返済期限は1週間です。借りた量にも、信用ランクにも関係ありません」


 はっきり言おう。

 緊急貸与の返済は厳しい。

 一週間に借りた10倍の魔力を返すためには数日間魔力を使用を控えなければならないし、借りた量が大きすぎる場合はそれだけでも追いつかない。


「緊急貸与については以上ですが、なにかご質問はありますか?」

「ひとつ、いいか」


 男が手を挙げた。俺が頷くと男は問う。

 いかつい見た目だが、その瞳からは知性が伝わってくる。


「緊急と名前がついているが、緊急かどうかはどう判断する?」

「良いご質問です。答えから言うと、緊急かどうかにかかわらず、いつでも利用できます。緊急というのはあくまで名前だけです。本来はピンチのためという名目ですが、緊急かどうかを客観的に判断することは不可能なので、制限は設けないことにしました」

「ふむ。ということはいつでも制限なく魔力を借りられるということだな」

「その通りです。期限までに返済していただけるのであれば、あとはご自由にということです」


 いつでも借りられるからといって、安易に使い続ければ、ガイたちと同じ、破滅の道が待っている。


 緊急貸与の良い面。それは、困ってる債務者を救えること。

 緊急貸与の悪い面。それは、甘えた債務者を苦しめること。


 魔力貸しはその二面性から逃れることはできない。


「わかった。ありがとう」

「他には?」


 今度は、女性が手を挙げる。


「緊急貸与とは違うけど、質問良いかしら?」

「ええ、もちろんです」


 彼女も、さきほどの男と同様に賢そうだ。


「ストックされている魔力はいつでも使用できるのよね?」

「はい」

「であれば、自分の魔力をストックしておいて、スキルを使うときにストックされた使えば、利息ナシでつかえるのでは?」

「すばらしいご質問ですね。これはこの後説明しようと思っていました。結論から言うと、自分で魔力をストックすることは不可能です」

「やっぱり、そうなのね」

「ええ。それでしたら、俺の役目がないですからね」


 半分以上が首をかしげている。


「つまり、魔力をストックするのは魔力残高から。そして、魔力残高から引き出すには利息が必要。そういうことね?」

「ご明察です。ご不満ですか?」

「いいえ、魔力をストックできるだけでも破格。そもそもなら、余剰な魔力はムダになるだけ。それを避けられるなら利息くらい安いものよ」

「納得いただけたようですね。では、最後に一番大切な話をしましょう」


 固唾を呑む音が聞こえるほど、静まりかえる。


「それは期限内に返済できなかった場合にどうなるか、です」


 ぴりぴりした空気が場に流れる。


「ご安心ください。金貸しのように、装備を売って支払えとか、奴隷落ちするとか、そういうことはありません」


 皆を安心させるように笑顔で告げる。


「ただ、期限内に完済されない場合はみっつのことが起こります。どれも厳しいものです。できれば期限内の返済をオススメします。魔力回復ポーションを飲んで返済することも可能ですので。では、順に説明します」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『【魔蔵庫貸与】説明会(3)』

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