第149話 下準備(1)


 ――翌朝。


「――うむ。話は理解した」


 俺はラーシェスとともにウィラード伯爵に【魔蔵庫貸与】について、ひと通りの説明を終えた。


「娘を助けてもらったように、他の相手にも魔力を貸せるということか」

「ええ、その通りです」


 さすがは、領地を経営してるだけあって、伯爵は理解が早かった。

 伯爵はラーシェスに視線を送り、頷く。


「分かった。私も力を貸そう。困っている者がいれば手を差し伸べて欲しい」

「ご協力、感謝いたします」

「なに、君から受けた恩に比べたら、どうということはないよ。よし、推薦状を書こう。そうすれば、話が早いだろう」

「ありがとうございます」

「なに、私にできることなら尽力しよう。気軽に頼ってくれ」


 伯爵が書き上げた推薦状を手に、俺たちは伯爵の執務室を後にした。

 そして、ラーシェスと一緒に冒険者ギルドに向かう。


「すみません。ギルドマスターに話があります。こちらは伯爵からの推薦状です」

「しょ、少々お待ちください」


 ギルドの受付嬢に推薦状を見せると、彼女は慌てた様子で奥へ向かった。

 その後、しばらくして、一人の女性がやってきた。

 いや、女性というか、幼女だ。

 見た目は七、八歳。

 小柄で金髪のボブカット。

 よく見れば、耳が少し尖っている。

 エルフ……いや、ハーフエルフか?

 エルフの血が混じっているなら、見た目で年齢は計れない。


「お待たせしました。ギルド職員をしているプレスティトと申します。なにやら、重要なお話のようなので、ギルドマスターを交えて聞かせていただきたいです」


 プレスティトに案内され、ギルドマスターの執務室に向かう。


「レント君と言ったね。私がギルドマスターのエルティアだ。話を聞かせてもらおうか」


 出迎えたギルドマスターは眼鏡をかけた理知的で落ち着いた雰囲気の女性だった。

 耳はプレスティトよりも長い。

 きっと、純血のエルフだろう。

 どことなく、プレスティトと似た顔立ちだ。


 ギルドマスターといえば、屈強な男性というイメージだ。

 だが、彼女のように賢い女性というのもそれらしい。


「これが伯爵の推薦状です」

「ふむ。そうか」


 プレスティトから受け取った推薦状をエルティアはさっと目を通すと顔を上げて告げる。


「実はだな、昨晩、双頭の二人から君が来たら話を聞いて欲しいと頼まれていたのだ。君は信頼できる相手だと言っていたな。では、話してくれ」

「分かりました――」


 俺の説明をエルティアは思慮深い顔で聞いていた。

 伯爵同様、彼女もきっとすぐに理解してくれたのだろう、と思っていたら……。


「なるほど……ぜんぜん分からん」

「えっ!?」


 賢そうな顔で言われ、ずっこけそうになる。

 そこにプレスティトが口を挟んできた。


「コイツ、脳筋バカなんです」

「はいっ?」

「おい、母に向かって、バカ呼ばわりはないだろ」


 さっきまでの理知的な仮面は消え失せ、素の顔が現れた。

 ラーシェスは知っていたようで、まったく驚いていない。

 猫を被っている同士、通ずるものがあるのだろうか。

 というか、親子だったんだ……。


「眼鏡をかけたり、それっぽい態度をとってますが、そうすれば賢そうに見えるだろうと思っているんです。浅はかですよね」

「えっ、あっ、うん……」

「まあ、その分、精霊には好かれているんですよね。精霊にとってはできの悪い子どもみたいなもので、温かく見守る母のような気持ちなんでしょう」


 知性ではなくて、戦力を買われてギルマスをやっているということか。


「というわけで、愚母に難しい話は通じません。ゴブリンにも分かるように言いましょう。『レントさんが誰かに魔力を貸す。借りた相手はその魔力が使える。利息をつけてレントさんに返す』それだけです」

「…………ぇ」


 この説明でも、分かっていないようだ。

 えーと……大丈夫?


「失礼しました。ゴブリン未満でした。ゴブリンに謝らないといけませんね」

「…………ぅぅ」


 ずいぶんと失礼な物言いだが、親子だからだろう。


「レントさん、口で言ってもムダなので、スライムにもわかるように実際に試してもらえますか?」

「うん、そうだね」


 プレスティトの言う通りだ、さすがに、実践すれば分かるだろう。

 分かってくれるよね……?






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『下準備(2)』

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