第147話 五人対ゴーレム

「「――シルバーシザース」」


 二つの銀閃がはさみのように交じわり――ゴーレムの核を砕く。


『――屍肉喰コープス・カニバル


 ラーシェスがゴーレムの死体から魔力を奪う。


「次、行きます」


 すでに別のゴーレムを釣り出していたリンカが、ゴーレムをこちらにおびき寄せる。


 「ダークネス」「威圧」「挑発」「ファイアボール」――俺がヘイトと視界を奪う。


 「右脇腹」とラーシェスが叫び、リンカと一緒に飛びかかる。


 『――魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション


 『――【弐之太刀】』


 二人の攻撃でゴーレムの核が剥き出しになる。

 ラーシェスはギリギリまで魔力を注ぎ、核にダメージを与える。

 リンカはすぐにゴーレムから離れ、次のゴーレムを釣りに行く。


 「今だッ!」


「「――シルバーシザース」」


 本来ならリキャストタイムが必要だが、【自動補填オートチャージ】によって連発が可能だ。

 的確にとらえた双銀が、核を粉々にした。


『――屍肉喰コープス・カニバル


 だが、それもつかの間。

 リンカが釣ってきたゴーレムはすぐそこだ――。


 ――夕方。


 地面は沈む夕日に赤くきらめく。


「ああ、もう無理~」

「あと少しですよ」


 ラーシェスはリンカに肩を借りて歩く。

 砂漠を出るまでは気を張っていたのだが、出た途端に緊張の糸がプツリと切れてしまった。


 リンカも俺もまだ自分で歩けるが、さすがに今日の狩りは疲れた。

 ゴーレム狩りを始めて一番疲れた日だ。


 しかし、その成果は考えられないほどだ。

 それは前を歩く二人のおかげ。

 デストラさんもシニストラさんも、まったく疲れた様子を見せない。


「二人は疲れていないんですか?」

「いや、疲れてるよ」「表に出さないだけ」

「習慣なんだよ」「弱みを見せるとつけ込まれる」


 二人の意識の高さに、俺は思わず背筋を伸ばす。

 リンカも同じように顔を引き締めた。


「リンカ、ありがと。自分で歩くよ」


 ラーシェスも刺激を受けたようだ。

 その心の強さこそ、冒険者に必要なものだ。


「それにしても」「【魔力貸与】は凄い」

「双頭が全員揃っても」「20体は倒せない」


 今日の討伐数は25体。

 自分でも信じられない数字だ。

 その数字をたたき出したのは二人のスキル『シルバーシザース』。

 使った回数は25回。

 一発で確実に1体仕留めた――恐るべき精度だ。


「こんなに戦ったのは」「僕たちも初めて」

「楽しかったよ」「気持ちよかった」


 『シルバーシザース』は二人それぞれ200MPを消費するスキルだ。

 本人の魔力が1,000。【魔力貸与】が2,000。魔力ポーション4本で2,000。

 これだけ消費して25回も使えたのだ。


「シルバーシザースは凄くて、美しかったです」


 リンカが二人に尊敬の眼差しを向ける。


「ありがとう」「自信の技だから」

「それでも最高火力じゃないですよね?」

「ああ、でも」「最高火力はとっておきだから」


 『シルバーシザース』は最大魔力の5分の1を消費する。

 普通なら誰でも3分の2以上消費するスキルを持っている。

 ただ、それは最後の手段で連発できない。


「『シルバーシザース』は」「僕たちの最大の武器」

「だから練度を」「極限まで高めている」

「どんなスキルも」「極めれば」

「自分のものにすれば」「怖いものはない」


 二人の言う通り、どんなスキルでも練度によって個人差がある。

 ひとつの技を極めたからこそ、あの惚れ惚れする無駄が一切ない極地にたどり着いたのだろう。


 二人の言葉にゾクリとする。


「私はまだまだですね。まだ、スキルに使われてます。精進しないといけませんね」


 スキルの練度は他人から見ると分かりづらい。

 俺からすればリンカの【壱之太刀】も【弐之太刀】も完璧なように思えるが、本人には実力を出し切れていないのが分かるんだろう。


「ボクも頑張るよ」

「ラーシェスはまだ始めたばかりじゃないか」

「焦ることないですよ」

「まだ一週間もたっていない」「信じられない」

「それに、成長速度が異常だよね」

「速い」「速すぎる」

「そうなの?」

「ああ、あり得ない速さだ」


 リンカの成長も速いが、ラーシェスの場合は異次元レベルだ。

 なにか、理由があるんだろうか。

 そう思ったときに、エムピーが姿を現し、説明する。


「それはシナジー効果です~」

「シナジー効果?」

「はいです~。SSSギフトの持ち主は他のSSSギフト主と一緒にいると成長が速いんです~。それは、人数が多いほど効果があります~」

「そういうことか……」

「ボクの急成長は二人のおかげってことだね」

「確かに、ラーシェスと一緒になってから、成長が速い気がします」

「俺の場合は……」


 二人と違って、俺はあまり実感がない。


「マスターの場合は、直接の恩恵はありません。でも、SSSギフト主は成長が速いので、その分魔力運用がはかどります~」


 そういうことか……。


「ちなみにどれくらい?」

「えーと、ですね……」

「う~ん。そうだね……」


 二人は自分のステータスを覗き込んだ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ゴーレム狩りを終えて』

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