第146話 【魔蔵庫貸与】

〈初めてクランを結成しました!〉

〈スキル成長条件を満たしました!〉

〈【魔力貸与】がレベル2から3に成長しました!〉

〈【魔蔵庫貸与】が使用可能になりました!〉


「【魔蔵庫貸与】か……」


 魔蔵庫貸与?


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【魔蔵庫貸与】


 他人に魔蔵庫を貸与できる。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 これだけだといまいちよく分からない。

 【魔力貸与】は魔力を貸すだけだと思っていたが、魔蔵庫を貸す?

 詳細を確認しようとしたところで――。


『マスター、マスター』


 エムピーの声が脳に響く。

 まったく使ってなかったから忘れていたが、念話で話せるんだったな。

 俺も念話を返す。


『これはどんなスキルなの?』

『簡単に言えば、パーティーメンバーだけでなく、誰にでも魔力を貸せるスキルです~』

『誰でも!?』

『はいです~。まあ、信用できない相手には貸せないんですけどね~』

『信用? それはやっぱり』

『はいです~。中央情報機構ユグドラシルが判断するです~』


 誰にでもか。それは助かる。

 リンカとラーシェスの二人に貸すだけには限界を感じていた。

 まさに、丁度良いタイミングだ。


「レント君」「どうかした?」

「スキルが成長しました」

「それは」「クランを組んだから?」

「はい。パーティーメンバーだけでなく、誰にでも魔力を貸せるようになりました」

「それは」「すごい」

「詳しく聞いても」「いい?」

「もちろんです」


 この二人なら、信用できる。

 どこから、切り出そうか。


『ここは私が説明してもよろしいですか?』

『でも――』


 サポート妖精の姿は他人には見えない。

 SSSギフト持ちであるリンカとラーシェスは例外だ。


『レベルアップの恩恵で、誰にでも姿を見せられるようになりました』

『ええっ、そうなんだ。じゃあ、任せるよ』

『お任せあれ~』


 打ち合わせが済んだところで、双頭の二人に話しかける。


「驚かせるかもしれませんが、いいですか?」

「ああ、平気だよ」「大丈夫」


 二人に向けて手のひらを上にする。


「これは」「ビックリ」

「見えてます?」

「ああ」「カワイイ」


 二人はエムピーに釘付け。

 本当に見えているようだ。


「お初にお目にかかります~。マスターのサポート妖精、魔力運用ならなんでもお任せエムピーです~」


 エムピーがお辞儀をすると、二人もつられたように「よろしくね」「よろしく」と返事した。

 いつも落ち着いている二人で、今も表情に変化はみられないが、それでも、驚いているのは明らかだ。


「サポート妖精」「本当に存在した」

「俺だけでなく、リンカにもラーシェスにもサポート妖精がいるんですよ」


 アンガーとイータを見ると、アンガーは顔の前で手を振り、イータは尻尾を振る。

 どちらもデストラさんたちには、姿を見せられないようだ。


「なんでエムピーが姿を見せたかというと」

「お二人にマスターの新スキル【魔蔵庫貸与】についてお話するためです。借りるかどうかはともかく、お話だけでも聞いていただけないでしょうか?」


 いかにも詐欺の口上のようだが、二人を騙す気はこれっぽっちもない。

 エムピーは【魔蔵庫貸与】による借り方、返済方法など、分かりやすく説明していく。

 【自動補填オートチャージ】や【自動取立オートレヴィ】について説明が終わったところで――。


「ここまででご質問はございますか?」

「大丈夫」「よく分かった」

「それでは、実際にどういう手順なのか、説明しますね」


 エムピーは目を輝かせ、羽をはばたかせ、話を続ける。


「ああ」「うん」

「借り手には『信用ランク』があり、それによって限度額や返済期限が決まります」


 『信用ランク』はパーティーメンバーにはなかったものだ。

 貸し借りは信頼関係だ。

 パーティーメンバーほど信頼ができないから、ランクがあるんだろう。

 その後もエムピーは流暢りゅうちょうな説明を続ける。


「『信用ランク』は下から順にブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、サファイア、ダイヤモンドとなっています~」


「どちらも冒険者としての実績、マスターとの関係性、魔力返済実績を元にして、総合的に判断されます~」


「信用に応じて返済期限が伸びて、借りられる魔力量が増えます~」


「『信用ランク』はシルバーからスタートします~」


「シルバーの場合、一度に借りられるのは最大魔力の2倍。返済期限は3日。利息は2割となっています~」


「例えば、最大魔力量1,000MPの人を考えましょう。この人が限度いっぱいで2,000MP借りた場合、返済量は利息込みで2,400MP」


「これは1日の自然回復量に相当します~。なので、1日魔力を使わなければ返済完了です~」


「ただ、これはベースとなるプランです~。利率を変更して、限度額を増やしたり、期限を伸ばしたりできます~。もちろん、それは信用と実績次第ですが」


 説明を終えたエムピーは満足気に頷き、二人に尋ねる。


「おわかりいただけたでしょうか~?」

「ああ」「十分」

「魔蔵庫を」「貸してもらえれば」

「今まで無駄にしていた魔力を」「有効活用できる」


 二人の言う通りだ。

 1時間で1割の自然回復。

 これは戦っていても、寝ていても変わらない。

 休みの日も考慮すると、使われずに無駄になっている魔力は相当だ。


「適度に休めば」「返済には困らない」

「欲張らなければ」「メリットしかない」

「では、貸与する方向で話を進めますね」

「今の話を」「聞く限り」

「レント君が僕たちを騙しても」「たいした得にはならない」

「信頼関係を」「築いた方が」

「得だと」「判断した」

「そもそも、レント君は」「信用できる」

「ご理解いただきありがとうございます~。それでは、いくらお貸ししましょうか?」

「限度いっぱいまで」「頼むよ」

「ご承知いたしました~。返済お待ちしております~」


 エムピーは最高の笑みを浮かべて、うやうやしく頭を下げる。


 二人とも最大魔力は約1,000。二人から3日間で800も利息を取れるのだ。

 これから、より多くの人に貸していけば――この先が楽しみだ。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『五人対ゴーレム』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る