第145話 エリア3(2)


『――魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション


 昨日覚えた新スキルだ。

 血統斧レイン・イン・ブラッドの刃が敵に触れている間に魔力を消費すれば、その量に応じてダメージを与えられる。


 10。

 20。

 30。

 40。

 50。


 俺の魔蔵庫。

 ラーシェス。

 血統斧レイン・イン・ブラッド

 ゴーレム。


 魔力の流れがゴーレムにダメージを与え続ける。

 エリア1のゴーレムなら核が壊れるダメージ。

 だが、まだ核は見えない。

 さらに、供給を続ける。


 俺は魔力貸与しながらも、魔法攻撃を続けている。

 ゴーレムは俺の方が気になるようだ。

 俺に向かって腕を振るう。


「アイスウォール」


 ゴーレムの指先から砂の塊がいくつも発射される。

 俺はあわてて氷壁を張る。


 ドン。ドン。ドン。


 高密度の硬い球は氷壁を容易くぶち破る。

 レベル1の魔法では、やはり、防げない。


 そのうちのひとつが俺の顔に迫る。

 咄嗟に首を曲げるが。

 クッ。

 砂球が顔をかする。

 頬から熱い血が垂れた。


「レントっ!」

「平気だ」


 心配したラーシェスの声が届く。

 俺は魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクションを続けるよう、目でうながす。


 100。

 110。

 120。

 130。

 140。

 150。


 ようやく赤い核が露出した。


 ゴーレムは繰り返し砂球を撃つ。

 最初はかすったが、来るのが分かっていればどうということはない。

 すべて回避する――。


 170。

 180。

 190。


 ゴーレムの動きが微妙に変化した。

 それを察し、俺は前に飛び出す。


 ゴーレムの股をくぐり――。

 みっつのことが同時に起こる。


 魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクションが200MP分のダメージ与える。

 ゴーレムが足を後ろに蹴上げる

 俺がラーシェスを抱え、後ろに飛びすさる。


 ギリギリでゴーレムの後ろ蹴りを避け、ラーシェスを抱えたまま砂の上を転がる。

 そして、次には――。


弐之太刀にのたち後先之太刀ごせんのたち――力に従うは居合いあいあらず、心に勝つが居合なり。雲晴れた、後の光をとくと見よ」


 力を溜めに溜めたリンカの居合い斬りがゴーレムの核を――。


 パリン


「おいおい、嘘だろ……」


 ハイオークを一撃で葬った【弐之太刀】。

 だが、核は壊せず、ヒビを作ったのみ。


「リンカ、下がって。削りに切り替える」


 倒すには至らなかったが、衝撃でゴーレムは膝をついた。

 その隙に、俺たちは態勢を整える。


「持久戦だな」


 【弐之太刀】で倒せなかった場合の作戦も考えてある。

 時間はかかるが、安全にダメージを積み上げていくしかない。

 さあ、仕切り直しだ。


 ――20分後。


「やっと倒せたか」


 ふう。俺は大きく息を吐く。

 さすがのリンカも肩で息をしており、ラーシェスは脱力し、その場にへたり込む。

 まさか、こんなに強いとは思わなかった。

 コイツに比べれば、エリア2のゴーレムは子どもみたいなものだ。


 それでも、なんとか勝てた。

 エリア2で連携の練習をやり込んだ成果だ。

 ほっと、安堵の空気が流れる。

 俺を見て、ラーシェスが立ち上がった。


「顔、怪我してる」

「これくらい、たいしたことないよ」

「でも、一応」


『――魂魄浄化クレンズ・ソウル


 赤黒い色をしていた血統斧レイン・イン・ブラッドが白い光に包まれる。

 その光が俺の身体に流れ込み、瞬く間に傷を癒やす。

 ラーシェス固有のWMPを消費して発動する回復魔法。

 彼女が覚えたもうひとつのスキル【魂魄浄化クレンズ・ソウル】だ。


「凄いね」「これがSSSギフト」

「どうでした? ポーションに見合いましたか?」

「それ以上だよ」「お釣りが出る」

「なら、よかったです」


 二人に褒められる戦いができて嬉しくなる。

 ただ、勝てたとはいえ、こちらの消耗が大きすぎた。

 リンカは【弐之太刀】を5発。【壱之太刀】の分と合わせてで700MP。

 ラーシェスは【魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション】で800MP。

 連戦を続ければ、二人に返しきれない程の負債を負わせることになる。

 だからといって、エリア2に戻って狩りをするのは割に合わない。


「レント君、次は一緒に」「戦わない?」

「お願いします」


 二人についてきてもらって良かった。

 彼らと一緒なら、もっと効率的に戦える。

 それに、二人に合わせるのは、俺たちにとって勉強になる。

 貴重な体験だ。


「クランを」「組まない?」

「でも、それだと」

「良いもの見せてもらった」「お釣りだよ」

「ありがとうございます」


 二人にとってはなんのメリットもない提案だ。

 俺たちが得するばかり。

 せっかくの好意に感謝するばかりだ。


 そもそも、クランとはなにか。

 パーティーと同じようにグループを結成することだが、いくつか違いがある。


 まず、ひとつめ。

 パーティーと違って簡単に組んだり止めたりできる。

 パーティー変更は頻繁にできるものではない。

 いろいろと制限があって、ころころと気軽に変更はできない。

 それに対し、クランは簡単だ。

 クランは強力なモンスターを複数のパーティー合同で戦ったり、一緒にダンジョンを組むためにある。

 なので、一時的に結成し、目的を果たしたら解散する。

 そういう目的だ。


 クランを組む大きなメリットは、範囲魔法に関してだ。

 全体効果がある支援魔法や回復魔法がクランメンバー全体に及ぶのだ。


 そして、最後の違いだ。

 これこそ、彼らにとって損で、俺たちにとってメリットになる点。

 モンスターを倒したら、成長し強くなる。

 戦闘技術だけではなく、体力や攻撃力などが上昇するのだ。


 魔力と違って他の能力は数値では表せないが、間違いなく強くなる。

 理屈は分からないが、モンスターを倒すと『経験値』というものが得られるからと言われている。


 パーティーを組むとメンバー全員に経験値が等分される。

 そして、複数のパーティーで戦闘する場合には、戦闘への貢献度によって得られる経験値が分配される。

 対して、クランを結成すると、クランメンバー全員に経験値が等分されるのだ。


 クランを組まずに一緒に戦った場合、間違いなく二人の方が多くの経験値を得られる。

 それなのに、俺たちに経験値を分けるためにクラン結成を提案してくれたのだ。


「君たちは早く」「強くなるべき」

「この先、君たちは」「冒険者の有り様を変える」

「これは僕たちにとっても」「重要なこと」


 決して、経験値を恵んだり、甘やかしたり、という理由ではないと、二人から伝わってくる。

 ならば、それに応えるだけだ。


「クラン申請を」「送る」


 冒険者タグをいじり、クランを結成する。

 その瞬間、脳内にアナウンスが流れた。


〈初めてクランを結成しました!〉

〈スキル成長条件を満たしました!〉

〈【魔力貸与】がレベル2から3に成長しました!〉

〈【魔蔵庫貸与】が使用可能になりました!〉







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『【魔力貸与】レベル3』

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