第144話 エリア3(1)


 ――翌日。


 デストラさんとシニストラさんを加え、俺たちは砂漠に向かった。

 二人がいることで、サポート妖精たちはおとなしくしている。

 風になびく二人の銀髪は舞う砂も気にせず、キラキラと輝く。


「エリア3までは」「僕たちが先陣」

「Bランクの姿」「見てて」

「お願いします」


 今日の目的地は砂漠のエリア3。

 この砂漠は5つのエリアに分けられている。

 外側が1で墓に近づくほど数字が上がる。

 この代わり映えしない砂漠でどうしてエリア分けしているかというと、出現するサンドゴーレムが変化するのだ。

 中心に進むほど色が濃くなり、強くなる。


 昨日はエリア2で戦った。

 十分な余裕を感じたので、もともと今日はエリア3にトライする予定だった。

 だが、エリア3から急に強くなる。

 二人がいれば安心だ。


「じゃあ」「行く」

「しっかり」「ついてきて」


 言うや否や、二人は風となって、走り出す。

 ゴーレムの間を縫うようにしながらも、的確に核を破壊して無力化する。


 ラーシェスだけでなく、先日ハイオーク戦で彼らの戦いを見たリンカも衝撃を受けている。

 あの時は、力をセーブしていた。これがBランク冒険者の本領だ。


「さあ、俺たちも遅れずに」

「はいっ」「うんっ」


 置いて行かれないように必死について行く。

 二人は足場の悪さもゴーレムの妨害もまったく気にせず、ガンガンと進む。

 俺とリンカはなんとかついて行けるが、ラーシェスは息が上がっている。

 先頭の二人は彼女を見て、ペースを落とす。

 その間も、近づいてきたゴーレムを一刀のもとに斬り捨てる。

 それだけの余裕があった。


 ――1時間後。


「この先が」「エリア3」


 1時間走り続けた。

 二人はゴーレムを倒しながら、俺たちはその後をついてきただけ。

 二人は息ひとつ上がっていない。俺とリンカはなんとかついていけた。

 だが、ラーシェスは疲労困憊。倒れるように地面に座った。


「これ」「飲むといい」

「あっ、ありがとう」


 二人が差し出したのは疲労回復ポーション。

 あの色は、多分――。

 ラーシェスが飲み干すと、呼吸が整い、目に力が戻る。


「これ、結構高いヤツですよね。お金払います」

「いや」「気にしないで」

「これからいいもの」「見せてもらう」

「だから、これは」「前払い」


 ここまで言ってくれてるのに、ウダウダ言うのは無粋だ。


「なら、満足させてみせます」

「良い自信だね」「楽しみ」

「ラーシェス、行ける?」

「うん、回復した」

「リンカも?」

「いつでも大丈夫です」


 三人で頷き合い、臨戦態勢に入る。

 初手はリンカだ。

 前に向かって歩き、五歩進んだところで一度止まる。

 アンガーの力で彼女には見えている。

 この先はエリア3――今までよりも強いゴーレムが現れる。

 腰の死骨剣に手を伸ばし、腰を落とす。

 そして、ゆっくりと詠唱を始める。


壱之太刀いちのたち終之太刀ついのたち――斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、一歩踏み込め阿修羅道」


 言い終わるとともに、リンカの身体と剣を赤い闘気が包む。

 リンカが一歩前に出る。

 それに合わせて地面が揺らめき、ゴーレムが出現する。


 色が違う。今までのは黄土色。コイツは茶色。

 サイズが違う。今までのは2mない。コイツは3m越え。


 ゴーレム出現と同時、リンカが踏み出すッ。

 俺もその後を追う。


 リンカに向けて、ゴーレムは左拳を振り上げる。

 だが、リンカの方が速い。

 軽く飛び上がり、左腕を斬り落とす。

 ゴーレムの胴体を蹴る。

 その反動でバックステップ。

 距離を取る。


「右膝の後ろ」


 背後からラーシェスの声が飛ぶ。

 ゴーレムの弱点を伝える声だ。


 これがイータの能力。

 魔力の流れを察知し、敵の弱点を把握できる。


 エリア1とエリア2のゴーレムは、その弱点である核が人間でいう心臓の位置にある。

 だが、エリア3のゴーレムは個体によって核の場所が違う。

 それだけで難易度は何段階も上がるのだが、イータの能力があれば問題ない。


 腕を飛ばしても、ゴーレムは痛みを感じない。

 気にすることなく、今度は反対の腕でリンカを狙う。


「ダークネス」


 俺が唱えると、ゴーレムの頭部を黒いモヤが覆う。

 モヤがゴーレムの視界を奪う。

 振り下ろされた拳は狙いがそれた。

 リンカは軽いステップで回避に成功。


 先日購入した【闇魔法LV1】の魔法「ダークネス」だ。

 ゴーレムなど魔力で動くモンスターの視界を奪う魔法。

 ダメージこそ与えられず、効果も一瞬だけだが、使い方次第で有効だと証明された。


 だが、安心する暇はない。

 砂が集まり、左腕が再生する。

 ゴーレムはリンカを正面にとらえる。

 そこで俺は――。


「威圧」

「挑発」

「ファイアボール」

「ウィンドカッター」

「ウォーターアロー」

「アイスニードル」


 使える魔法を連発する。

 どれもレベル1のスキルだ。

 ダメージはまったく通らない。

 だが、最初から期待していない。

 俺の狙いは――。


 絶え間ない魔法攻撃に苛ついたようだ。

 ゴーレムは首を俺に向ける。

 これが狙いだ。

 ヘイトを稼いで、俺を標的にさせる。


 魔法を撃ちながら、俺は走る。

 ゴーレムの左側に。

 俺の動きに合わせて、ゴーレムも動く。

 クルリと90度回ったせいで、右膝の後ろがガラ空きだ。


「今だッ!」


 リンカとラーシェスがフリーだ。


 二人はゴーレムの背後に回り込む。

 リンカは一撃のために力を溜める。

 先に出るのはラーシェス。


 血統斧レイン・イン・ブラッドがゴーレムの膝裏を叩く。

 ゴンと鈍い音。

 砂でできているとは思えないほどの堅さだ。

 渾身の一撃だったが、砂鎧は厚く、核までは届かない。

 しかし、ラーシェスは叫ぶ。


『――魂魄斬裂ソウル・リーパー・ディセクション







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『エリア3(2)』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る