第143話 双頭の銀狼からの提案

 ボルテンダール墳墓の砂漠でサンドゴーレム狩りを始めてから数日がたった。

 今は狩りと夕食を終え、伯爵家に戻るところだ。


「ビックリしたよ。こんなにすぐに戦えるようになるなんて、ボク、思ってなかったよ」

「驚いてるのはこっちだよ。ラーシェスの戦闘センスは凄い。経験を積めば、Bランクくらいすぐだよ」

「私もすぐに追い抜かれそうです」

「そうかな? ボクはリンカの背中が遠すぎるように思うよ」


 ラーシェスは戦闘スキルを覚えたので、戦いに参加することになったのだが、想像以上の戦いぶりだ。

 リンカほどではないが、たった数日でこれだけというのは、とても信じられない。


「リンカもひと皮むけた感じだね」

「怪我を気にせずに戦えるのが嬉しいです。それにレントのサポートがあるおかげです」

「レントのフォロー助かるよね。的が向こうからやってくるから、それに合わせるだけでいいからね」

「それでも、連携はまだまだ途上だよ。一度、本物の連携を見せてあげたいよ」


 スキルごり押しの『断空の剣』はともかく、まっとうなBランク以上のパーティーの連携は見ているだけで美しい。

 とくに、『流星群』の連携はまさに芸術だ。

 二人に見せてあげたい。


 ここ数日の狩りだが、エムピーのアドバイスは的確だった。

 多少乱暴な狩り方をして、怪我を負うことも多々あった。

 だが、そのおかげで、三人とも地の戦闘力が増し、連携も上達した。

 そして、スキルに関しても同様だ。

 二人の借入量が増加したけど、エムピーによると返済プランは問題ないそうだ。


 伯爵邸に帰ると、双頭の銀狼の双子デストラさんとシニストラさんに話しかけられた。


「ねえ、レントくん」「調子はどう?」

「ええ、砂漠でゴーレムを狩ってますが、ラーシェスも順調に育ってますよ。そちらはどうすか?」

「こっちはようやく」「雑用が片付いた」


 二人は伯爵絡みで仕事をこなしていた。

 Bランクにもなると、貴族からの依頼など冒険以外にもいろいろ仕事がある。


「ありがとね。父の代わりに謝っておくよ」

「ははは」「大丈夫」

「それにしても」「元気になってよかった」

「レントとリンカのおかげだよ」

「レント君」「ありがとう」

「いえ、自分にできることをしたまでです」

「僕たちにはできない依頼だった」「ひとつ借りができた」

「なにかあったら」「いつでも頼って」

「その際は、よろしくお願いします。ところで、三人は?」

「まだ帰って」「こない」

「ニーラクピルコ森林にエリクサー素材の素材を取りにいってるんでしたよね」

「連絡はしたんだが」「深いところまで潜ってるから」

「まだ数日は」「かかりそう」


 ニーラクピルコ森林は広大で、エリクサー素材ともなれば深い場所まで踏み入らなければならない。

 魔道具で連絡しても、すぐに帰ってこられるわけではない。


「レントくんに」「相談がある」

「なんでしょう?」

「一緒に」「ゴーレム狩る?」

「えっ、ああ、それは構いませんが。また、どうして?」

「しばらく戦ってないからね」「腕が鈍る」

「ああ、それなら……」


 リンカとラーシェスの顔を見ると、二人ともワクワクしているのが伝わってくる。

 やっぱり、格上の戦い方を見るのって楽しみだよね。


「こっちも願ったり叶ったりです。ちょうど、明日から、無茶しようと思ってたので。二人が一緒なら心強いです」

「ありがとう」「よかった」

「いまは」「どこら辺?」

「エリア2は狩り尽くしたので、明日から、エリア3に挑もうかと」

「三人でそれは」「凄いね」

「しかも、ラーシェスは」「デビューしたばかり」

「レントくんの才能が」「恐ろしい」

「明日が」「楽しみ」

「お二人に情けない姿は見せられないですね」


 その後、明日の打ち合わせをした後は、のんびりと雑談だ。

 場を仕切っていたのはラーシェスで、二人を質問攻めにしていた。

 二人とも、イヤな顔ひとつせず、丁寧に応えてくれる。

 そんなこんなで、夜は更けていった。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


お待たせしました!

本日より飯島しんごう先生によるマンガ版配信スタートです!

ブックライブ他、各電子書籍サイトで配信されます。

読んでいただけたら嬉しいです!!


次回――『エリア3(1)』

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