第140話 サンドゴーレム狩り(4)


「普通なら、魔力増加は良いことだけで、悪い要素は一切存在しない。だけど、ラーシェスの場合は、そうとも限らない。なぜなら――」

「あっ、分かった。コイツのせいだ」

「オーナー、やめてくれニャ」


 ラーシェスはイータの首根っこを掴み、持ち上げる。


「その通り」

「どういうことですか?」

「イータはボクのペット」

「ペット扱いはひどいニャ。おいらはサポート妖精ニャ」

「エサの代わりに魔力が必要」

「あっ、そういうことですか」


 リンカも理解したようだ。


「そう。最大魔力が増えれば、その分イータが必要とする量も増える」

「それって……」

「ああ、強くなればなるほど、過酷な戦いを強いられる」

「私と同じですね」

「ああ、きっと俺もだ」


 俺の顔をみて、エムピーが笑みを浮かべる。

 二人には黙っているが、昨晩くらいからうずき出した。

 本能が求めるのだ。

 もっと、魔力を貸せ。もっともっと――と。

 今日、明日にどうにかなるわけではないが、近いうちになにかしらの手を打たなければならない。


「俺たちは進み続けるしかない。たとえ、その先が地獄であっても――」

「はい」「うん」

「――とまあ、真面目な話はこれくらいにして、狩りに戻ろう」

「でも、ボクは……」

「ああ、問題ないよ。俺のスキルがある。【自動補填オートチャージ】だ」

「オートチャージ?」

「ふつう、スキルは連続で使えない。リキャストタイムが必要だ。魔力消費に身体が追いつかないからね。無理するとさっきのラーシェスみたいになるんだ」

「うん……しんどかったよ」

「だけど、魔力を消費すると同時に【自動補填オートチャージ】で魔力を貸せばそれが可能になるんだ」

「そうなの?」

「ああ、だから、気にせず喰わせてあげて、お腹が破裂するくらい」

「ちょ、ちょっと、待つニャ……」

「あはは、冗談だよ。イータが満腹になったら、俺に返してくれればいい」

「わかった! やってみる!」

「じゃあ、再開だ。今までは一体ずつだったけど、徐々に増やしていこう。リンクの範囲だけ気をつけてね」

「レントくん、それなら俺っちに任せてくれよ」


 アンガーがビシッと親指を立てる。


「俺っちの特技は悪意を感じることっす。それを姐御に伝えればオッケーっす。試しに――」

「あっ、ホントです。どこまで近づいたらゴーレムが動き出すか、リンクするか感覚で分かります」

「なら大丈夫だね」


 エムピーは中央情報機構ユグドラシルにアクセスして債務者の情報を得られる。

 アンガーは悪意を感じ取れる。

 では、イータは――。


 みんなの視線がイータに集まる。


「イータもなんか出来るよね?」

「できるニャ。だから、その笑顔を止めるニャ」

「へえ、なにができるかな?」

「そっ、それは、まだ言えないニャ」

「飛んどく?」

「ほんとニャ。言えるようになったら、ちゃんと伝えるニャ。だから、お空は勘弁ニャ」


 ブルブルと震えて、かわいそうだ

 さすがにここはイータをフォローしてあげよう。


「許してやって。サポート妖精ができないっていうことは本当にできないんだよ。ねっ、エムピー?」

「そうです~。創世神の定めには逆らえないです~」

「うん。わかった」

「詳しい話は、帰ってからしよう」


 俺の言葉にイータがホッとした様子を見せる。


「じゃあ、リンカ、全力で。ヤバそうなときは【壱之太刀】使って。その見極めを知っておくのも大事だからね」

「はいっ!」


 俺たちは夕方まで全力でゴーレムを狩り続けた――。


「お疲れ。どうだった?」

「スッキリしましたッ」


 疲れてるかと尋ねたのだが、リンカは感想を尋ねられたのだと思い、そう答えた。

 返事から分かる通り、疲れは全くないらしい。

 そして、彼女の中の内なる獣も多少は満足したのだろう。

 弱い相手とはいえ、相当な数を狩ったからな。

 途中から数えるのをやめたくらいだ。


「ラーシェスはどう?」

「レントに【自動補填オートチャージ】してもらってからは、全然平気だったよ。それに、魔力吸収するの気持ちいいね。クセになりそう」


 ラーシェスの内なる獣も満足したようで、何よりだ。


「そろそろ、街に戻るけど、晩ご飯はどうしよっか。今日はラーシェスの食べたいものにしよう」

「だったら、ギルド飯がいい!」

「それでいいの? もっと美味しいお店あるよ?」


 昨晩、伯爵家で食事をお世話になったけど、食べたことがない高級料理で、その美味しさに感動した。

 昨日のは特別なお祝いだったとしても、貴族である彼女は高級料理に食べ慣れている。

 ギルド飯は味よりも量を優先しており、お金に余裕があれば、他の店に行く。

 そういえば、エムピーとリンカと出会ってからはギルド飯は食べてなかったな。

 二人とも食いしんぼで美味しい物好きだからね。


「冒険者になったときから、ううん、もっと前から、ずっと憧れてたんだ」

「わかった。みんなもいいよね?」


 俺の言葉にみんな頷く。

 夕日が傾く中、街に戻り、冒険者ギルドに向かう。

 俺たちがギルドに入ると、その場の空気が変わった。

 初めて感じる空気だ。

 皆、俺たちの方を向くと、すぐ立ち上がった。

 そして、俺たちに向かって、駆け出す。


 いったい、なにが――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『ギルド飯』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る