第139話 サンドゴーレム狩り(3)


「ウィンドカッター」

「刺ッ」

『――屍肉喰コープス・カニバル


 風刃が斬り裂き。

 刺突が核を砕き。

 斧が魔力を吸う。


「ウィンドカッター」

「刺ッ」

『――屍肉喰コープス・カニバル


「ウィンドカッター」

「刺ッ」

『――屍肉喰コープス・カニバル


「ウィンドカッター」

「刺ッ」

『――屍肉喰コープス・カニバル


 繰り返すたびに攻撃は正確に、スピーディになる。

 上がっていくテンポに心が弾む。


 そして――開始から10分。


 葬ったゴーレムは18体。

 流れる連携に馴染んできた頃。


「あ~、もうダメ~。ボク、限界だよ~」


 ラーシェスが根を上げて、その場に座り込む。

 その調子に顔に砂が張りつき、美しい顔が台なしだ。

 彼女は「ぺっぺっ」と砂を吐き出す。


「一度、休憩にしよう」

「はい」


 リンカはまったく疲れていない。

 さっきまで散歩していたくらいの調子で動きを止めた。

 俺も疲労はゼロ。このまま2、3時間は続けられそうだ。

 二人でゴブリンコロニーやら、アリの巣やら狩り尽くしたので、これくらいは慣れたものだ。


 一方、ラーシェスは息を荒げ、額からは大粒の汗がしたたっている。

 動き回ったわけではない。

 その場に立ったままで、倒したゴーレムに血統斧レイン・イン・ブラッドを向け、【屍肉喰コープス・カニバル】を使っただけだ。


「オーナーでもこんな顔するニャ。おいらはまだまだおやつ感覚ニャ」

「…………」


 ラーシェスは無言で立ち上がり、調子に乗っているイータの首根っこを掴む。

 ニッコリ笑顔を浮かべ、そして、上に向かって――。


「ニャニャニャ~~~~」

「いってらっしゃーい」


 放り投げたイータの姿がどんどん小さくなっていく。

 やがて、長い長い滞空時間の後、イータが戻って来た。

 それをラーシェスがキャッチする。

 彼女の腕の中でイータは震えていた。


「オーナーの笑顔、怖いニャ。トラウマニャ」

「あれ、朝と同じくらいの力なのに、思ったより飛んだ?」


 イータを投げてスッキリしたのか、彼女の顔からは疲労が消えていた。

 ストレス解消のオモチャ扱いだ。


「モンスターを倒したからね。強くなったんだよ」

「ボク、立ってただけだよ?」

「創世神がそう判断したんだよ。理由は分からないけどね」


 【屍肉喰コープス・カニバル】を使うだけでも成長する。

 これなら、予定通りにいけるな。


「へえ~、なんかお得だなあ。でも、すごい疲れる」

「ああ、やっぱりこうなったか。エムピー、アレだよね?」

「はい。マスターの思う通りです」

「他のスキルは魔力を消費する。だけど、【屍肉喰コープス・カニバル】は使うと魔力が回復する。だから、無限に使い続けられる」

「うん、でも」

「だけど、身体がついていかない」


 俺の言葉にラーシェスは頷く。

 イータも真似するように頷く。


「イータは元気そうだね」

「美味しかったニャ」


 まん丸に膨れたお腹と、ツヤツヤとした白い毛並み。

 満たされたイータはうっとりと目を細める。


「まだ、食べられそうだね」

「そうニャ。おいらが満腹になるには、オーナーが一日に使える魔力の二倍必要なのニャ」


 道中で確認した通り、ラーシェスの最大MPは12。

 魔力は1時間で1割回復するので、彼女が一日に使える魔力は29。

 イータはその二倍、約60必要なのだ。

 彼女ひとりでは到底まかないきれない。

 俺がいなかったら、モンスターから吸収するしかない。

 誰かの助けなしには不可能だ。


 ちなみに、俺への負債は約1,000MP。

 パーティーメンバーへは利息は1割と決めている。

 利息込みで1,100MPだ。

 この調子なら、完済は問題ない。

 しかし、そう簡単ではないだろう。


「ラーシェス、ステータスを見せて」

「いいよ」


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:ラーシェス


ギフト:【御魂喰いみたまぐい】(SSS)

MP :13/13 WHM(98)


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□



「やっぱりだ」

「凄いです。この短時間で最大魔力が1増えてます」

「やったね……って、レントは浮かない顔だね」


 不思議そうに、ラーシェスが俺の顔を覗き込む。

 彼女は気づかなかった。

 イータが悪い笑顔を浮かべていることに。


「普通なら、魔力増加は良いことだけで、悪い要素は一切存在しない。だけど、ラーシェスの場合は、そうとも限らない。なぜなら――」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『サンドゴーレム狩り(4)』

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