第138話 サンドゴーレム狩り(2)

 俺とリンカでゴーレム狩りを始める前に――。


「ひとつだけ、注意がある」

「なんですか?」

「ゴーレムはリンクモンスターだ」

「範囲はどれくらいでしょうか?」

「やってみないと分からない。けど、起動範囲よりは広いだろうね」

「でないと、意味ないですからね」


 リンカにはすぐ通じた。

 彼女は3年間、冒険者を続けてきた。

 それなりの知識は兼ねそろえている。


 だが、成り立て冒険者のラーシェスには通じなかったようで――。


「ねえねえ、リンクモンスターってなに?」

「モンスターには3種類いるんだ。まず、ひとつ目がアクティヴモンスター」

「ふむふむ」

「常に周囲を警戒して、敵を見つけると攻撃してくるタイプ」

「ふたつ目は、パッシブモンスターです」

「そう。こっちから近づいたり、攻撃したりするまではなにもしてこないタイプ」

「みっつ目がリンクモンスターなんだね」

「ああ、アクティブとパッシブの中間で、自分だけでなくて、仲間が攻撃されたら反応するヤツだ」

「あっ。分かったよ。気をつけないと大勢に囲まれちゃうってことか」


 俺とリンカの説明に納得がいったようで、うんうんと頷いている。


「そうそう。理解が早いね」

「えへへ。ボク、頭には自信があるんだ」

「そして、ここのゴーレムは無限湧き。倒しても倒しても次のヤツが現れる」

「キリないね」

「でも、その分、戦闘訓練には持って来いだ」

「腕が鳴りますね」

「ボクも戦う」

「やる気なのは良いけど、最初はラーシェスは戦わない」

「えー」


 ラーシェスは残念そうにイータの耳を引っ張る。

 イータは「なにするニャ」とその手を追い払おうとするが、本気で痛いわけではなさそうだ。


「それより、ラーシェスはまず、スキルだね」

「あっ、そっか。【屍肉喰コープス・カニバル】を試さないとね」

「死体の魔力を奪うスキルだ。俺とリンカが倒すから、スキルを発動して」

「うん。やってみる!」


 敵の死体から魔力を吸い取る物騒な名前のスキルだ。

 今のところ、彼女の唯一のスキル。

 それを試さずには始まらない。


「じゃあ、早速だけど――リンカ、【壱之太刀】はナシだ」

「大迷宮でスケルトン狩りしたときと同じですね」

「大迷宮! スケルトン! 楽しそう! いいなあ、早くボクもやってみたいよ」

「ここのサンドゴーレムはスケルトンより弱いよ。大迷宮だと第二階層の敵くらいだ。慣れたら、ラーシェスも戦う予定だから、ちょっと我慢してね」

「待ち遠しいな~」


 初めてのモンスターを前にして、怯える様子は一切ない。

 これは頼もしそうだ。


「俺が核を露出させる、リンカは核をひと突き。極限まで無駄を省こう」

「頑張ります」

「まずは、一体ずつ。ラーシェスが大丈夫そうだったら、ペースを上げてこう」

「マスター、頑張ってですー!」

「姐御、気合いッス!」

「お腹空いたニャ」

「だったら、また、腹一杯にしてあげようか?」

「アレはもう、ごめんニャ」

「あはは」


 イータは本気でイヤそうな顔をする。

 なんか、すっかりイータはいじられキャラが定着している。


「さて、冗談はこれくらいにして、行くよ」

「はいっ!」

「わくわく」


 俺の合図で、二人の顔がキリリと引き締まる。

 それを見て、ゴーレムに狙いをつける。


 さっきの手応えから、狙い通りに撃てば一発で核を露出させられる。

 慎重に狙いを定めて――。


「ウィンドカッター」


 狙いはバッチリ。

 風刃が左胸を抉る。

 赤い核が剥き出しになる。


「今だ」


 ――と俺が言う前にリンカは飛び出し、核をひと突き。


「ラーシェス」

「うん」


『――屍肉喰コープス・カニバル


 彼女が血統斧レイン・イン・ブラッドをゴーレムの残骸に向ける。

 赤いような黒いようななにかが斧に吸い込まれ、ゴーレムは消滅した。


「どうだった?」

「変なのが入ってきた」


 なにかを感じ取ったようだが、本人もよく分かっていない。

 代わりに答えたのはイータだった。


「出したMPが1。食べたMPは2だニャ」

「スキルを使うのにMPを1消費。ゴーレムから吸い取ったMPが2ってことか」

「そうだニャ。使うのは常に1で、食べる量はモンスター次第ニャ。強いヤツほど美味しいニャ」

「気持ちいい。もっと頂戴」


 ラーシェスもイータもうっとりとした笑顔を浮かべる。

 自分一人だったら、簡単にはいかなかっただろう。

 だが、適切なサポートさえあれば、SSSギフトはどこまでも強くなれる。


「じゃあ、ペース上げていこう――」


 さあ、狩りは始まったばかりだ。







   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『サンドゴーレム狩り(3)』

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