第137話 サンドゴーレム狩り(1)

 広がる光景に、リンカは瞳を大きくして、見入る。

 だが、それは俺も同じだ。


「まさか、これほどだとはな……」


 視界の果てまで届く広大な砂漠。

 話には聞いていたが、想像以上だ。

 エムピーもアンガーもぽけ~と見とれている。

 なぜか、イータは自慢するように誇らしげだ。

 余裕な顔をしているのは、ラーシェスだけ。


「どう?。これが我が領の名物のひとつ。ボルテンダール墳墓とそれを囲む大砂漠だよ」


 海を見たことがある。

 どこまでも青が続く。

 この砂漠は砂だらけ。

 どこまでも黄土色だ。


「といっても、墳墓自体はほとんど誰も見たことないけどね」

「ここで狩りをするんですか? モンスターはいないようですが……」

「ああ、それはね――」


 俺が砂漠に一歩足を踏み入れると、砂が盛り上がり、塊となり、ひとつの形を成す。


「ゴーレム!」

「これが、ゴーレムかあ。実物は初めて見るよ」

「サンドゴーレム。ここに現れるモンスターは一種類。コイツだけだ」


 身長180センチほどの人型モンスターで、体つきはガッシリと角張っている。


 そして、一体が現れたのをきっかけに、サンドゴーレムは次々と出現する。

 5メートルほどの間隔を空けて、十数体のゴーレムが出現した。

 それを見て、リンカとラーシェスが慌てて臨戦態勢を取る。


「心配ないよ。サンドゴーレムは、いわゆるパッシブモンスター。近づいたり、攻撃したりしない限りは、なにもしてこない」

「そうなんですか?」

「レントはよく知ってるね」

「ああ、ここじゃないけど、戦ったことがある。コイツらが今日の獲物だ」

「スケルトンなんかの方が強そうです」

「俺やリンカなら、楽勝だよ」

「ボクでも出来るかな?」

「ラーシェスも午後には戦えるようになるんじゃないかな」

「おお、早く戦いたい」


 ラーシェスは血統斧レイン・イン・ブラッドの柄を握り、ソワソワしている。

 戦いたい気持ちが、分かりやすく伝わってくる。


「まあ、物は試しだ。一体、倒してくるよ」


 俺はダガーを抜き、ゴーレムに近づく。

 それを察知して、一体の目が赤く光る。

 敵を察知し、迎撃態勢に移った合図だ。


『ウィンドカッター』


 ゴーレムの肩に向かって、風の刃を飛ばす。

 命中した風刃がゴーレムの右腕を切断する。


「脆いですね」

「楽勝じゃん」

「これで終われば、なんてことないんだけどね。厄介なのは――」


 すぐに砂が集まり、新しい腕が生える。


「えっ!」

「あっ!」


 二人が驚きが重なる。


「サンドゴーレムの身体にいくらダメージを与えても倒せない」

「じゃあ、どうすれば?」

「ヤツを倒すには――」


『ウィンドカッター』

『ウィンドカッター』

『ウィンドカッター』

『ウィンドカッター』

『ウィンドカッター』


 風刃を連発し、ゴーレムの全身を切り刻む。

 砂が飛び散り、胴体が露出する。

 ヤツの胸にある直径5センチほどの赤い核が剥き出しになる。

 俺は駈け寄り、ダガーで核を貫く。


「この通り、核を壊すしかない」


 ゴーレムの身体が崩れ、元の砂に戻る。

 跡形もなく消え去った。


「でも、不思議ですね。普通のモンスターは倒すと魔石を落とすのですが……」

「ここのゴーレムはボルテンダール墳墓の守護者と言われている」

「守護者ですか……」

「ボルテンダールの墓を守ってるって言われてるね」

「その人は何者なんですか?」

「それはラーシェスの方が詳しいんじゃない?」

「うん。なんでも、大昔の魔法使いみたい。彼の墓にはとんでもないお宝が眠ってるって噂だよ」

「へえ、お宝ですか」

「誰も到達してないから、本当かどうか分からないけどね」

「ゴーレムは普通のモンスターと違って、ボルテンダールの残した魔力で動いているって言い伝えだよ」

「だから、なにも残らないと……」

「ああ、これが不人気な理由だよ。倒してもなにも得られない」

「ああ、そっか。冒険者はお金目当てモンスターを倒すんだったね」

「お嬢様には、新鮮かな?」

「ボクも今日から冒険者だから、慣れないとね」

「まあ、今日の稼ぎはゼロだけどね」


 伯爵からの成功報酬2000万ゴルがあるから、当面の心配はまったくない。


「今回の目的は、ラーシェスの強化だからね」

「ボクはなにすればいいの?」

「今、ラーシェスができるのはひとつだけ」

屍肉喰コープス・カニバル!」

「ああ、俺とリンカでゴーレムを乱獲するから、倒したヤツにスキルを使ってくれ」

「楽勝だね! なんか申し訳ない気になるよ」

「気にすることない。SSSギフトは誰かの助けがなければ育てられない――創世神ユグドラシルの悪意だ」


 俺の場合は、貸した魔力の返済によって。

 リンカの場合は、戦うための魔力供給によって。

 ラーシェスの場合は、モンスターを倒してもらうことによって。


 まったく、イヤになる。

 だが、それに従うしかない。

 創世神ユグドラシルの意思に。


「じゃあ、リンカ、一緒に戦ってみよう」

「はいっ!」

「ひとつだけ、注意がある」

「なんですか?」

「それは――」






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


次回――『サンドゴーレム狩り(2)』

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