第134話 ラーシェスのステータス(下)

「ちっ、違うニャ。知らないんじゃニャくて、教えられないニャ。創世神様がそう定めたニャ……」


 もう一度イータの首元に手が伸びかけ――さすがにかわいそうだと思って俺は口を挟む。


「イータの言ってることはホントだよ。サポート妖精はギフト持ち主を助けてくれる。だけど、教えられることは教えてくれるが、教えられないことは絶対に教えない」


 エムピーもそうだ。教えられないことを訊いても、はぐらかされるだけ。

 助け船を出した俺に、イータが感謝の眼差しを向ける。


「これはきっと、創世神が決めたことだ。イータにはどうしようもないことだよ」

「レントさんの言う通りです。私も次のスキルが何なのか、教えてもらえません」


 リンカもフォローしてくれる。


「そうですか……わかりました」


 ラーシェスは納得した様子ながらも、イータをキッと睨みつける。

 それに怯えたイータは取り繕うように口を開く。


「でっ、でも、どうやってWMPを貯めるかについては説明できるニャ」

「あら、エラいのね」


 ラーシェスに背中を撫でられ、イータはホッと息を吐く。


「イータはオーナーの魔力を食べるニャ。それで満腹になったら、毛が白くなるニャ。その状態で、さらに魔力を食べるとそれがWMPに変換されるニャ」

「そうか! 昨日俺が大量に供給した魔力をイータは食べきれず、ラーシェスにWMPとして貯まったってことか」

「そういうことニャ。まずは魔力を貯めるニャ」

「それってもしかして――」


 リンカが俺の顔を見る。


「ああ、多分――」


 【無限の魔蔵庫】について、ラーシェスに説明する。

 俺の場合は、魔力を運用することによって、ギフトが成長し、新たなスキルを覚えた。

 きっと、ラーシェスの場合はWMPを貯めることによって、スキルを覚えるんだろう。


「そうニャ。だいたい、そういうことニャ」

「なら、ずっとレントさんのお世話にならなきゃならないのかしら?」


 その疑問は俺も心配していた――貸与に返済が追いつくのか。


「そうとも、限らないニャ。オーナーのスキルが役立つニャ。ステータスで確認するニャ」


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屍肉喰コープス・カニバル


 モンスターの死体から魔力を吸収する。


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「へえ、そういうことか。相変わらず、意地が悪いな……」


 ラーシェスのスキルを確認して、創世神の悪意を再確認する。

 俺やリンカと同じく、自分一人ではまともに育てることができない。

 必ず、誰かの助けを必要とするのだ。


「でも、それなら安心だ。最初のうちは俺とリンカがサポートするよ」

「そうだよっ! 安心してねっ!」


 俺とリンカの言葉に、ラーシェスの瞳に涙が浮かぶ。


「ありがとうございます。すぐにお返しできるようになりますので、それまではよろしくお願いします」


 そんなやり取りをしているうちに、目的地に到着した。

 まずは、彼女の装備を調えるのだ。


 彼女のギフト【御魂喰いみたまぐい】にとって、最適な武器はなにか――それを試すために武器屋に来たのだ。

 伯爵配下の騎士団御用達で、デストラさんも太鼓判を押した、この街一番の武器屋だ。


「これはこれは、お嬢様。ようこそお越し下さいました」


 店の奥から、店長らしき男が出てきた。


「武器を見せてもらうわね」

「ご存分にご覧なさってください」

「ええ、そうさせてもらうわ。必要なら呼ぶから、好きにさせて頂戴」


 店長は深々と頭を下げる。

 ラーシェスは慣れた調子で店に入る。

 その堂々とした振る舞いに、彼女が令嬢であるとあらためて認識させられる。


 俺たちも彼女に続いて中に入る。

 さすがは一流の店。

 様々な武器が並び、どれも一級品だ。


「なにか、気になる武器はある?」

「う~ん、どれもピンと来ませんね」


 陳列されている武器を順番に見ていく。

 そして、ある武器の前でラーシェスは足を止める。

 彼女の肩がピクッと揺れた。


「斧?」


 俺の問いかけには応えず、ミスリル製の斧に手を伸ばす。

 まるで吸い寄せられるように。


「これです」


 彼女が斧を手に取ったその瞬間――。


「「「なっ!?」」」


 斧がまばゆい光に包まれた。




   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『ユニークウェポン』

2月26日更新です。

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