第128話 ウィラード伯爵との対面

 伯爵邸に到着するや否や、応接室に通され、ウィラード伯爵と対面することになった。


「来てくれたか」


 伯爵は憔悴しきっていた。

 本来なら領主らしい威厳と自信に満ちているのだろう。

 ただ、今は絶望に包まれて、どちらも抜け落ちていた。

 なんでもいいからすがりつきたいのだろう。


「きみのことは二人から聞いている。彼らの紹介なら問題ないだろう」

「レント君なら」「信用できる」

「依頼を受けてくれれば、成否に関わらず、500万ゴル。成功したら2000万ゴル払おう。どうだ、受けてくれるか?」

「もちろんです。そのために来たのですから」


 俺のギフト【無限の魔蔵庫】が誰かの役に立つなら、断る理由はない。


「ありがたい。では、契約魔法を」


 今回の依頼は秘密厳守。

 誰にも漏らせないよう契約を結んだ。

 執事が持ってきた500万ゴルを受け取ると、伯爵が話を続ける。


「依頼というのは娘のことだ」

「娘さんですか?」

「ああ、娘――ラーシェスは先日15歳になり、成人の儀を受けた。そのときに授かったギフトが問題なのだ」


 このとき、俺は直感的に悟った。


「そのギフトはSSSランクの【御魂喰いみたまぐい】」


 やっぱりだ。

 俺やリンカと同様に、SSSランクギフトの悪意が働いてのだろう。

 そして、俺が呼ばれたからには、魔力絡みなんだろう。


「娘は喜び、冒険者になりたがった。だが、親としては心配で、許すための条件が彼ら双頭の銀狼だった」

「僕らが呼ばれた」「護衛として」


 いわゆる、パワーレベリングというやつだ。

 強い冒険者と組み、経験値を分けてもらう。


 頼り切るのは危険だが、伯爵の親心だろう。

 貴族令嬢ならば、冒険者になる必要はない。


 そのままでも、生活の安泰は保証されてる。

 だが、レアギフトの誘惑は俺もよくわかる。


「伯爵には恩義がある」「とっても大きい」

「それに伯爵領にも用事があった」「ちょうどいい」

「だが、彼らが到着する前に、娘は倒れてしまった。魔力枯渇症だ」


 魔力枯渇症か。

 珍しい症状だが、まったく起こらないというわけではない。

 そして、通常なら治療可能だ。

 しかし――。


「魔力回復ポーションは限界まで飲ませたのだが、それでも病状はよくならなかった」


 魔力回復ポーションは何種類かあるが、本人の魔力量に対応した者しか飲めない。

 『断空の剣』ががぶ飲みしたのは500MP回復する物だったが、ギフトを授かったばかりなのでそれほど強力なポーションは飲めないだろう。せいぜい30MPくらいが限度だ。


「だから、僕たちがラーシェスを」「助けることになった」


 双頭の銀狼は最初はパワーレベリングのために呼ばれたが、状況が変わったというわけか。


「そこで僕たちが効きそうな薬の」「素材を取りに行った」

「でもダメだった」「全部ダメ」

「だから、今、ウチの三人はエリクサーの材料を取りに行ってる」「とても危険な場所」

「医者の話では、長く保たないそうだ。エリクサーが間に合うかどうか……」


 伯爵は頭を下げる。


「どうか、娘を救ってくれないか?」


 平民相手にその振る舞いはよっぽどのことだ。

 娘を思う気持ちは、平民も貴族も変わらない。


 だったら俺は――。


「全力を尽くしましょう。娘さんを診てみないとなんとも言えませんが、多分、なんとかなると思います」


 自信の根拠はエムピーだ。

 さっきから、ニコニコ笑顔を浮かべている。

 チラッと視線を送ると、エムピーは小さくうなずいた。

 成功を確信しているようだ。


「よろしく頼む」


 伯爵は再度、頭を下げる。


「ただ、ひとつ条件があります」

「なんだね?」

「これから起こることを口外しないでください。デストラさんとシニストラさんもお願いします」


 エムピーにアンガー、サポート妖精のことはまだ広めたくない。


 伯爵は一瞬悩む素振りを見せたが――。


「分かった。約束しよう」

「僕たちも」「約束」


 同意が得られたところで、再度、魔法契約を済ます。


「では、すぐにでも、娘さんに会わせてください」

「ああ、案内しよう」


 伯爵令嬢ラーシェスの部屋に向かうことになった。

 部屋の外からでも、異質な空気を感じ取れる。

 彼女は、そして、【御魂喰いみたまぐい】とは、いったい――。


 伯爵が扉を開け、リンカと一緒に部屋に入る。

 双頭の二人も一緒だ。


 ベッドに横たわるラーシェス。

 ずっと寝たきりだっただろう。


 肉は落ち、頬はこけ、生気がまったく感じられない。

 彼女の命の灯火は消えてしまいそうだ。

 俺の到着は本当にギリギリだった。


 だが、それよりも俺が気になったのは――。

 リンカを見ると、驚愕に目を見開いている。


 やっぱりだ――。


「みなさん。ラーシェスさんの他になにか見えますか?」

「他に、いや、娘一人だけだ」

「僕にもなにも」「見えない」


 うん、間違いない――。


 そのとき、ラーシェスの上に座っているモノが首をもたげる。

 その目は俺とリンカをにらみつける。

 そして、口を開いた。


「なんニャ、オマエら?」






   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『【御魂喰いみたまぐい】』

1月1日更新です


   ◇◆◇◆◇◆◇


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