第127話 ファイアボール連打が効かない理由

 ハイオークとの戦いを終えた俺たちは馬車に戻る。

 俺とリンカは並んで座り、デストラさんとシニストラさんの二人と向き会う。


「リンカ君の察知能力は凄いね。Aランク並か」「それ以上かも」

「詳しくは明かせませんが、創生神から授かった能力です」


 以前のリンカとは違い、謙遜することなく、しっかりと答える。

 彼女も成長しているんだ。


「大丈夫だよ。それ以上は」「詮索しないから」

「ありがとうございます」

「それで今は?」「敵は出ない?」

「はい。しばらくは出ません」

「うん」「安心」


 堂々と答えるリンカだったが、その背後でアンガーが親指を立てて、踊りながら「ヘッチャラだぜっ」と言っている。

 そして、エムピーが「ちょっとは落ち着くです」とツッコミを入れる。

 笑いを堪えるのが大変だ。

 ギフト妖精が見えない二人は、俺の態度を不審に思ったのか――。


「どうしたんだい?」「レント、変」

「いえ、なんでもないです」

「そうか」「なら、話そう」


 俺は二人の意図を察した。


「リンカ君も気になってるんだろ?」「聞いてみなよ」

「はい。では、どうしてハイオークにはファイアボール連打が効かなかったんですか?」


 予想通りの質問だ。

 今までは連打のゴリ押しでどんなモンスターでも簡単に葬ってきただけに、不思議に思ったんだろう。


 俺は答えを告げる前に、双頭の二人に視線を向ける。


「お二人は分かっているようですね」

「ああ、もちろん」「Bランクなら常識」


 俺でも気づけたのに、二人が分からないわけがない。


「いや、分かっていない奴らもいたね」「レントに黒こげにされてた」


 ああ……アイツらなら。


「僕たちは口を挟まないよ」「しーっ、だよ」


 二人は静観するようなので、リンカに率直な答えを告げる。

 後ろでギフト妖精がどつき合いをしているが、気にしたら負けだ。


「答えは簡単だ。レジスト値だよ」

「レジスト値……ですか?」

「子どもが本気で叩いても、大人はダメージを受けない」

「そうですね」

「子どもの攻撃力より、大人の防御力がはるかに上回ってるからだ」

「それが、モンスターの場合も同じってことですね」

「ああ、それがレジストだ。そして、強いモンスターほど、レジスト値が高いんだ」

「じゃあ……」

「リンカの思っている通り、俺のファイアボールではハイオーククラスのモンスターにはレジストされる」

「だから、何百発と撃っても、ノーダメージなんですな」

「そういうこと」

「じゃあ、このままだと、格上相手とは戦えないってことですね?」

「ああ、メルバの大迷宮、第5層では通用しないね」

「…………」


 伯爵からの依頼が入らなければ、第5層に挑んでいたところだ。

 事前に気づけて良かった。


 リンカは納得したが、それゆえに、考え込んでしまう。

 俺のことを気にかけてくれているのが、嬉しい。

 彼女を慰めようとしてるのか、アンガーは「姉御、平気っすよ」と腕にぎゅーっと抱きつき、エムピーは「いいこいっこ」と頭をナデナデしてる。


 俺の頬が緩んだのを見て、双頭の二人が話しかけてきた。


「元パーティーとの決闘の話は聞いたよ」「ボコボコ」

「ファイアボールの連打で蹂躙したらしいね」「レントの十八番おはこ

「だけど、君は落ち込んでいない」「余裕の顔」

「なにか考えがあるんだよね?」「だよね?」

「ええ。ただ、選択肢が2つあるので、迷ってます」


 俺の言葉に、リンカが沈んだ顔を持ち上げる。

 ぱぁーっと笑顔が浮かんでいた。

 双頭の二人も和やかな顔だ。

 エムピーは「さすがはマスターです」と胸を張る。

 アンガーは「姉御姉御」とリンカの周りを飛び回る。


「うん。迷うのはいいことだ」「大切大切」

「はい、焦らずいこうと思ってます」

「大丈夫ですっ!」


 リンカがガッツポーズで身を乗り出す。


「いくらでも考えて下さい。答えが出るまでは、私が支えますっ!」

「へえ」「いい」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」


 俺は、嬉しかった。

 今まではどちらかというと、リンカは俺に頼っていた。

 それだと、対等なパーティーとは言えない。

 しかし、彼女も成長しているんだ。

 それが、嬉しかった。


 お互いに信頼し、支え合う――それこそが、理想の、俺の望むパーティーだから。


「うん、リンカ君の強さなら」「余裕余裕」

「壱之太刀はバフ効果」「弐之太刀は強力なカウンター」

「ハイオークを一撃は」「たいしたもの」

「第5層くらいなら」「へっちゃらへっちゃら」

「僕らもうかうかしてられないよ」「頑張る頑張る」


 一流冒険者である二人の言葉に、褒められ慣れていないリンカは顔を赤くする。

 その隣りでは、アンガーが腕を組んでドヤ顔を浮かべてる。


 ――その後は、なんのトラブルもなく、馬車は進んでいく。


「夜になる前に着けたね」「よかったよかった」


 伯爵領都にたどり着き、馬車は伯爵邸に向かう。


 ――さて、伯爵からの依頼内容はどんなものなんだろうか?





   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『ウィラード伯爵との対面』

12月25日更新です



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