第126話 ハイオークとの戦い

 俺たち三人が馬車から飛び出すと、デストラさんも御者台から降りて剣を構えていた。


「ハイオークが2体です」

「1体任せられるかな?」「できる?」


 ハイオーク。

 オークの上位種だ。

 「Bランクパーティーでないと倒せない」と言われている強力モンスターだ。


 『断空の剣』時代には、何度も倒したことがある。

 だけど、リンカと二人でこれほどの格上を相手にするのは初めてだ。

 でも、俺もリンカも負ける気がしない。


「もちろんです。任せて下さい」

「できますっ!」

「俺たちは右」「レントたちは左」

「了解です」

「はいっ!」


 前方から、ドシンドシンという重い足音。

 ハイオークが二体、駆けて来る。


 俺以外の三人は近接戦闘職だ。

 だけど、俺は違う。

 待ち受ける必要はない。

 先制攻撃だッ!


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 得意技のひとつ、ファイアボール連打だ。


 【自動補填オートチャージ】スキルによって、魔法を打つと同時に魔力が回復する。

 それによって、魔法のリキャストタイムをゼロにできるのだ。


 これだけでゴブリンコロニーを一方的に壊滅できる。

 ハイオークも黒焦げに――。


「なにッ!?」


 ――黒焦げになっていない。それどころか、まったくダメージが通っていない。


 驚く俺の横を銀の影がふたつ、駆け抜けて行く。


「レントさん。ここは私に任せてくださいっ!」


 リンカが俺をかばうように、前に立つ。


壱之太刀いちのたち終之太刀ついのたち――斬り結ぶ太刀の下こそ地獄なれ、一歩踏み込め阿修羅道」


 リンカが詠唱を終える。

 スキルの効果で全身と手に持つ死骨剣は赤い闘気で包まれる。


 リンカのスキル――【壱之太刀】。

 身体能力を爆発的に高めるスキルだ。

 強力な反面、非常に燃費が悪い。

 だけど、その欠点は俺の【魔力貸与】があれば問題ない。

 俺の魔力が尽きるまで、リンカは戦場を舞い続けられる。


 ハイオークが唸り声を上げて、リンカに襲いかかる。

 だが、リンカは気にとめることなく、次の詠唱を始める――。

 

弐之太刀にのたち後先之太刀ごせんのたち――力に従うは居合いあいあらず、心に勝つが居合なり。雲晴れた、後の光をとくと見よ」


 迫り来たるハイオークが手に持った大鎚を振り上げる。

 リンカはまだ剣を振らない。

 怯えず、恐れず、動じずに。

 身体を引き絞り、腰を落とす。


 ハイオークが大鎚を振り下ろす。

 リンカの頭を叩き潰す――その瞬間。


 ――リンカの身体がブレる。


 ――ドシン。


 リンカが通り抜けた後には、両断されたハイオークの巨体が倒れる。


「見えなかった……」


 速すぎて、俺にはリンカの動きが見えなかった。

 気がついたら、戦いは終わっていた。


「ふぅ」


 リンカが息をつく。

 戦いが終わり、【壱之太刀】の赤い闘気が消えた。


 【弐之太刀】――リンカのふたつ目のスキルだ。

 先日、クアッド・スケルトンを単独撃破したことによって覚えたスキルだ。


 ――居合斬り。


 敵の攻撃をギリギリまで引きつけてから放つ、カウンターの一撃だ。

 練習に雑魚モンスター相手には試していたが、まさか、ハイオークを一刀両断とは……。

 最大魔力の3分の2を消費する大スキルだが、それだけの価値はある。


「凄いですっ!」

「ああ、助かったよ」


 当の本人も大満足のようだ。

 【弐之太刀】がなければ、もっと難しい戦いになっていただろう。


 ――時を同じくして。


 「「――シルバーシザース」」


 二つの銀閃がはさみのように交じわり、ハイオークの首は地に転げ落ちた。

 戦闘を終えたデストラさんとシニストラさんが戻ってくる。


「リンカちゃん強いね」「すごい」

「ありがとうございますっ!」


 褒められてリンカは照れながらも笑顔を浮かべる。


 落ち着いた俺は、ようやく頭が回りだした。


 ――そうか!


 ファイアボール連打が効かなかった理由がわかった。

 すごくシンプルな理由だ。

 当たり前過ぎて、すっかり忘れていた。


 これは……もう一度、考え直す必要があるな…………。





   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『ウィラード伯爵邸』

12月18日更新です。



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