第125話 伯爵の依頼

「キミに依頼を手伝って欲しいんだ」

「レント、助けて」


 『双頭の銀狼』の二人、デストラさんと、シニストラさんに頭を下げられる。

 リンカを見ると、彼女は小さく頷いた。

 サポート妖精の二人は興味なさそうに小声で話している。


「もちろんです。俺にできることなら、協力させてください。」


 『双頭の銀狼』には、前の街でお世話になった。

 その恩返しができるなら、喜んで力になりたい。

 まずは詳しい話をということで、ギルド酒場のすみに移動する。


「――といっても、詳細は話せないんだ」

「ごめんね!」


 前とかわらずピッタリと息の合った二人だ。


「依頼主は」

「ウィラード伯爵」

「伯爵の家族に関する依頼でね」

「困っている」

「私たちでは解決できなかった」

「あれは無理」

「深刻な問題で、決して口外できないんだ」

「できないの」

「僕たちも契約魔法で縛られている」

「なにも言えない」

「詳細は正式に受けてからだ」

「それまではナイショ」


 極めて疑わしい話だ。

 この二人からでなければ、席を立っている。


「受けるかどうかは別として」

「伯爵家まで来て欲しい」


 伯爵家のある街までは離れているが、たしか馬車で二日の距離だ。


「来てくれるだけで、前金が支払われる」

「100万ゴルだよ」


 行って帰って四日間。

 それだけで、この金額。

 奮発したリンカのキモノが200万ゴルなので、とんでもない金額だ。

 よっぽど、危機的な状況だと推測できる。


「どうするかは向こうで話を聞いてからでいい」

「止めてもいいよ」


 リンカは俺に判断を委ねている。


「なんで、俺に?」

「君のギフトだ」「レントしか頼れない」

「そうですか……」


 俺のギフトが他人の役に立つなら……。


「分かりました。とりあえず、向かいましょう」

「ありがとう」「よかった」

「それで、出発はいつですか?」

「早ければ早いほどいい」「今すぐでもいいよ」

「では、宿を引き払ってきます」

「ああ、助かるよ」「助かる助かる」


 二人はギルド通信で伯爵家に俺たちのことを伝えるそうで、その間に俺とリンカは準備を整えた。


 最大魔力量が上がらなくなったり、急な依頼で別の街にいくことになったり。

 想像していなかった展開だが――これも冒険者らしくていいな。


「さあ、行こうか」「しゅっぱーつ」


 合流した俺たち四人は、伯爵家の馬車に乗り込む。

 御者は元冒険者らしい雰囲気をまとった中年の男だった。


 エムピーとアンガーはさっきから姿を消している。

 まあ、姿を現していても、俺とリンカにしか見えないんだけど。


「迎えは二人だけなんですか?」

「ああ、この馬車は」「四人乗り」


 『双頭の銀狼』は五人パーティだ。

 道中危険な場所を通るが、二人と一緒なら大丈夫だろう。


「狭いけど、その分」「他より速い」


 街を出た馬車がグンと加速する――。


 シニストラさんが窓を開けると、涼しい風とともに、緑の香りが流れ込む。


「レント君、そちらのお嬢さんを紹介してもらえるかい」「教えて教えて」

「ああ、まだちゃんと紹介してませんでしたね。彼女は――」


 最初に名前だけは教えてある。

 俺がリンカを紹介し、話し上手な二人のおかげで、リンカもすぐに打ち解けることができた。

 リンカの話がひと段落したところで――。


「レント君、スッキリした顔してるね」「大人になった」

「ええ、ようやく過去と決別できました」

「それはよかった」「レント、いいこいいこ」


 その後も他愛のない話が続いた。

 依頼のことは、まったく話題にあがらない。


 それから、数時間。

 穏やかな時間が流れた。


「ここからは少し警戒が必要だ」「モンスター出るかも」


 二人の言葉に外を見ると、馬車は森の入り口に差しかかっていた。

 これから森の中を通り抜けるようだ。


 二人は今までのゆったりした雰囲気が消え、ピリリと痺れるような緊張感が伝わってくる。

 俺も【気配察知LV1】を発動させるが、今のところは、モンスターの気配は感じられない。


 その直後――。


 アンガーがポンっと姿を現した。

 やたらと好戦的な目つきで、リンカに耳打ちする。

 そして、リンカがその内容を俺に小声で――。


「この先にモンスターが出るらしいです」


 アンガーの能力で、モンスターの悪意を感じ取ったみたいだ。

 伝えるかどうかを俺が決めるべきとの判断だろう。


「デストラさん、シニストラさん、この先にモンスターがいます」

「ほう」「ほんと?」


 この二人の索敵範囲にも入っていないようだ。

 もちろん、俺もモンスターの気配を感じ取れない。


「リンカ君の能力かい?」「スキル?」


 二人の真剣な視線を受け止め、リンカは小さくうなずく。


「分かった」「いってらっしゃい」


 デストラさんは軽い身のこなしで、御者台へと飛び出した。


「俺たちはどうしたら、いいですか?」

「このまま待機。御者台は二人用」


 シニストラさんは腰の剣をいつでも抜けるように準備している。

 リンカも死骨剣を握る手に力が入っている。

 その膝の上で、腕組みをしたアンガーは前を睨み続ける。


 緊張感につつまれた馬車が進んで行き――。


「来る」


 シニストラさんの眉がピクリと動く。


「豚臭えなあ。姉御、ハイオークが2体。もうすぐですぜ」

「ハイオークが2体、来ます」

「おっけ」


 シニストラさんは、リンカの言葉を疑わない。

 俺もリンカも臨戦態勢に移る。


 デストラさんが指示を出したのだろう。

 馬車はゆっくりと減速する。


「今っ」


 馬車が止まると同時に、シニストラさんが飛び出す。

 俺とリンカもすぐに後を追った――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


次回――『ハイオークとの戦い』

12月11日更新です。




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