第124話 予想外の再会

 ――翌朝。


 俺とリンカは二人(二匹?)のサポート妖精をつれて、冒険者ギルドへ向かった。

 エムピーとアンガーは宙に浮きながら、言い争いを続けている。


「――だから、言ってるだろ。サポート妖精に必要なのはカッコ良さなんだよ!」

「違います~。可愛さこそすべてです~」

「なんだ、そのフリフリした格好は!」

「そっちこそ、時代遅れです~」


 しかし、どちらもちっちゃい姿ので、喧嘩しているというよりも――。


「二人は仲良しですね」

「ああ」


 ――じゃれ合っているようにしか見えない。


「そういえば、アンガーの能力ってなんなの?」

「それはですね――」


 サポート妖精はその名の通り、SSSランクギフトの持ち主をサポートすることで、なんらかの特別な能力を持っている。

 エムピーの場合は、中央情報機構ユグドラシルにアクセスできる能力だ。

 エムピーが言うには中央情報機構ユグドラシル創世神ユグドラシル――神の持つ情報にアクセス可能なのだ。

 得られる情報は債務者のものに限られているが、債務者のことならすべてお見通しだ。


「アンガーは他者の悪意を感じ取れるらしいです」

「それだけ?」


 たしかに便利な能力ではあるが、サポート妖精の能力としては、大したことないように思える。


「いえ、他にもあるらしいんですが――」

「おうよ。見くびってもらっちゃあ、困るぜ。俺っちのチカラはそんなチンケなもんじゃないぜ」


 割り込んできたアンガーの頭を優しくなでながら、リンカが答える。


「まだ教えてくれないんですよ」

「そうだい。とっておきでな、そのときまで内緒ってわけさ」


 アンガーは鋭い目つきのまま、口角をニヤッと上げてみせる。

 だけど、この可愛らしさに騙されてはいけない。

 サポート妖精はギフト保持者を助けるため――だけの存在ではない。善意だけではないのだ。


 昨晩、エムピーの話から、俺は創世神の悪意を感じ取った。

 SSSランクギフトに対する、そして、人の子に対する悪意を。

 それは、俺やリンカの歩んできた人生からも明らかだ。


「マスター、魔力運用はまだですよね。どうしますか?」

「ああ、そうだね――」


 昨晩は、なんだかんだで忘れていた。

 ヤツらからの強制徴収によって、【無限の魔蔵庫】には15万近くの魔力が蓄えられている。


 今のところ【スキル購入】で買いたいスキルは特にない。

 現在、攻略中の第4階層はこのままでも十分で、【スキル購入】は第5階層に上がるときに考えればいい。

 となると、今俺にできることは、ひとつしかない。


「最大魔力を増やそう」


 【魔力運用LV1】は魔力を消費して、最大魔力を増やせるスキルだ。100MP消費で、最大魔力量が1MP増える。


「とりあえず、今日の攻略に必要分を残して、全部使っちゃおう」


 魔力は寝かせてもしょうがない。運用してナンボのものだ。

 最大魔力が増えると、その分、自然回復で得られる魔力が増加して、魔力運用できる魔力が増加する――といった具合に雪だるま式に魔力が増えていくのだ。


 こう考えるようになったのは、間違いなくエムピーの影響だ。

 エムピーに魔力貸しとしての生き方を徹底的に叩き込まれたからね。

 さあ、今日も元気に魔力運用だっ!


「――あれ?」


 なんか、いつもと違う……。

 急いでステータスを確認。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


名前:レント

年齢:19

性別:男


ギフト:無限の魔蔵庫(SSS)

MP   :  9,999/9,999

【魔蔵庫】:50,200/∞

冒険者ランク:C

パーティー:二重逸脱トゥワイス・エクセプショナル


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 さっきまで、最大魔力は9,000近くあった。

 計算では1万を超えるはずなのに、9,999にしかなっていない。

 不思議に思っていると、脳内アナウンスが流れる。


〈最大魔力量が9,999に達したため、【運用制限LV1】が発動しました!〉

〈【魔力運用LV1】が使用不能になりました!〉

〈【魔力運用LV4】を習得するまで、最大魔力量は増えません!〉


「これ以上、最大魔力は増やせないってこと?」

「はいっ! 【魔力運用LV4】を習得しなきゃです~」

「それの習得条件は?」

「【魔力運用LV4】は千万MPで購入できますよ~」


 千万MP……現状だと1日に5万貯まるから、200日も先か……。


「予定が狂ったなあ……」

「ドンマイです~。その分、どんどん貸し付けです~」

「ああ……」


 自然回復を増やせないなら、貸し付けを増やして利息を増やすしかない。

 リンカへの貸し付けには限りがあるから、パーティーに誰かを加えるしか――。


「大丈夫ですか!?」

「えっ?」


 リンカに肩を揺すぶられ、思考が止まる。


「レントさん――」


 リンカは俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「焦る必要ないですよ。じっくり行きましょう」

「そうだった……」

「良かったです。いつものレントさんに戻りましたっ!」


 リンカの言う通りだ

 俺はハッとする。

 それと同時に、内なる獣が退散したのが感じられる。


 まただ。

 また、自分の意識が誘導されていた――。

 魔力を増やすという考えにとらわれていた。


 忘れちゃダメだ。

 俺は信頼できる仲間と楽しく冒険がしたいんだ。

 魔力を増やすのは、そのための手段であって、目的じゃない。

 魔力のために仲間を増やすなんて、本末転倒だ。


「リンカ、ありがとう」


 また、リンカに救われた。


 気を取り直し、冒険者ギルドを目指す。

 ギルド建物に入り、受付へ向かおうとしたところ、思わぬ二人に声をかけられた。


「やあ、レント君!」「レント!」


 デストラさんとシニストラさんだ。

 Bランクパーティーの『双頭の銀狼』を率いる双子の銀髪剣士。

 二人とも冒険者歴十年目のベテランだ。


 最初に声をかけてきたのが、短髪のデストラさん。

 それに続いたのが、長髪のシニストラさん。

 デストラさんが男で、シニストラさんが女だ。


 二人とはガイたちとの決闘後に、少し話をしたのだが――。


「依頼で別の街に向かったんじゃなかったんですか?」

「ああ、そのことでね」「キミに話がある」


 二人はあまり感情を表に出さない。

 今も表情は変わっていないが、どこかその声に逼迫した様子が感じられた。


「キミに依頼を手伝って欲しいんだ」

「レント、助けて」





   ◇◆◇◆◇◆◇


【補足】

 現時点でのレントの魔蔵庫スキルデータです。


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《無限の魔蔵庫》


【能力補正】:1時間で最大魔力量の2割の魔力が回復する。


【スキル】


・魔力貸与

 LV1:【魔力貸与】パーティーメンバーに魔力を貸し与える。

 LV2:【自動補填オートチャージ】債務者のMPが設定値以下になったら、自動的に魔力が貸与される。


・強制徴収

 LV1:【強制徴収】貸し出した魔力を強制徴収する。

 LV2:【自動取立オートレヴィ】債務者のMPが設定値以上になったら、自動的に魔力が徴収される。


・魔力運用

 LV1:【最大魔力量増加】本人または魔蔵庫の魔力を消費し、最大魔力量を増やす。100MP消費で最大魔力量が1MP増える。

 LV2:【魔力出納】本人と魔蔵庫の間で魔力を出し入れできる。

 LV3:【スキル購入】本人または魔蔵庫の魔力を消費し、スキルを購入できる。


・運用制限

 LV1:【魔力運用LV1】が使用不能。


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次回――『伯爵の依頼』

12月4日更新です。

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