第116話 SS04 レントの回想:流星群との出会い

 二年前のことだ――。


 あの頃もレントたち『断空の剣』と、ロジャーたち『流星群』はこの街にいた。

 ダンジョンから帰ってきた夜、レントは情報収集のために、ギルドや酒場にしょっちゅう出入りしていた。

 それを通じて、他の冒険者と仲良くなったりしたが、『流星群』のロジャーもそのうちの一人だった。

 面倒見の良いロジャーはレントの真っ直ぐな性格が気に入り、弟のように面倒を見てやっていた。


 ある晩、レントはロジャーに呼び出され、ギルド酒場にいた。


「Aランクに上がられたそうですね。おめでとうございます」

「ああ、それで、俺たちは一度ここを離れる」

「ということは……」

「ああ、第8階層だ」


 メルバの大迷宮第8階層――。


 多くの者が挑み、挫折してきた場所。

 未だ誰も踏破者がいない、人類の最高到達点。


「第8階層に挑戦する力を手に入れ、また戻ってくる」


 ロジャーの目は力強い。確固たる自信に支えられている。

 彼らなら成し遂げるだろう――レントはそう思う。


「しばらく、お別れだな」

「寂しくなりますね」

「そこで、お前に相談だ」

「なんですか?」

「ウチに入らないか?」

「えっ、俺がですか!?」


 唐突な誘いに、レントは戸惑う。


「ああ、ウチならお前のスキルを十分に活かせる。お前にとっても、俺たちにとっても、美味しい話だ」


 ロジャーの真意を図ろうと、レントは彼の瞳をじっと見る。

 しばしの逡巡しゅんじゅんの後、レントは応える。


「とってもありがたい申し出で、俺にはもったいないくらいです。ですが――」


 最初から答えは決まっていたが、あまりにも魅力的な提案だったので、思わず心が揺らいでしまったのだ。


「俺にできるのは【魔力貸与】だけです。皆さんについていけるとは思えません」

「そんなことはないんだがな……」


 ロジャーは否定しようと思ったが、すでにレントの心は定まっていると悟り、口をつぐむ。


「それに、俺には仲間がいます。冒険者を始めたときからずっと一緒の仲間が。そんな彼らを見捨てて、自分だけ他のパーティーに移るなんて、俺には出来ません」

「そうか。気が変わったら、いつでも声をかけてくれ」

「はい。いつか、皆さんと並んで立てる――その自信がついたら、そのときはもう一度考えたいと思います」


 その生真面目なところが良いんだが、真面目すぎるのもなあ――そう思いながらも、ロジャーの中でレントの好感度はまた高くなった。


 ロジャーはここで粘るような男ではない。

 すぐさま話を終わらせる。


「おう、じゃあ、また会おうぜ」

「ええ、その日を楽しみにしてます」


 レントは頭を下げて、その場を後にする。

 一人残されたロジャーは、ショットグラスを傾け、蒸留酒を飲み干す。

 そして、誰にも聞こえない小声でつぶやいた。


「レント、負けるなよ」

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