第115話 SS03 冒険者の噂話

 レントたちがもんじゃ焼きを食べている頃、冒険者ギルド併設の酒場では二人の男が再会を祝していた――。


「うす、久々だな」

「おう、生きてたか」

「阿呆、そんなに簡単に死んでたまるか」

「まあ、お前は殺しても死ななそうだからな」

「それよりよ、なんか、ごそっと出てった奴らがいたみたいだな。なにがあったんだ?」

「ふふふっ。お前、もったいないことしたなあ」

「なんだ?」

「この二週間、激動だったんだぜ。見逃したのは残念だったな」

「なんだよ、面白えことでもあったのか? 」

「リンカって青髪の女剣士、知ってるか?」

「リンカ……ああ、いろんなパーティーをクビにされてた奴か」

「逃げ出したのはリンカを追放したパーティー。全部で6つ」

「理由は?」

「復讐されたくないからだよ。よっぽど怖かったんだろうな」

「なにがあった?」

「二週間ちょっと前にレントって奴がやって来た。Dランク冒険者だ。そいつがすべての発端ほったんだよ」

「始まりはリンカがパーティーからおとりにされたところから始まる――」


 レントによるリンカ救出から、元パーティーの断罪までが男の口から語られる。


「だから、逃げ出したのか?」

「いや、さすがにそれだけじゃ逃げ出さねえよ。他のパーティーはただ追い出しただけだからな。あまり褒められたもんじゃないが、冒険者のモラルに反するわけじゃないし、ギルド側も禁止してない」

「だよなあ。それじゃあ、いったい?」

「こっからが本題なんだよ。レントもパーティーを追放されてこの街にやって来た」

「ほう、それで」

「『断空の剣』ってパーティー、知ってるだろ?」

「ああ、聞いたことある。若手ナンバーワンだとか、最速Aランク到達候補だとか」

「レントはそこのメンバーだった」

「は!? そのレントって奴はDランクなんだろ?」

「ああ、さっきも言った通りだ」

「お荷物だから、クビにされたのか? それでリンカに同情したのか?」

「そこが謎なんだが、レントの場合、ありふれた追放劇じゃなかったんだ」

「話が見えて来ないぞ」

「焦るな。こっから盛り上がるんだから」


 話を聞いている男はゴクリとつばを飲む。


「レントがやって来てから一週間後だ。『断空の剣』もこの街にやって来た。レントを追いかけてな」

「追放したのに、追いかけて来た? 意味が分からん」

「ああ、実際、俺たちも正確には把握してないんだ。ただ、奴らがレントに『取り立てをヤメロ』とか『俺たちに返せ』とか脅していたのを、大勢の奴らが耳にしている」

「借金か?」

「そこがよくわかんねんだよ。ヤバい筋から借りた金をレントが持ち逃げしたんじゃないか、とか言われてるが、真相は俺にも分からん」

「う~ん」

「それで、奴らはどうなったと思う?」

「もったいつけるな。さっさと教えてくれよ」

「決闘だ」

「決闘?」

「ああ、レント一人対『断空の剣』三人」

「はあ? ありえねえだろ」

「ああ、そう思うよな。断空側は三人ともBランク。対するレントはDランクの支援職。結果は見るまでもない……そう思うだろ?」

「ああ、だが、その言い方ってことは……」

「ああ、レントの圧勝だ。傷ひとつ負わずに三人をボコボコにしたらしい」

「らしいってことは、お前も見てないのか」

「ああ、残念ながらな。見ていた奴に聞いても、ニヤニヤ笑って教えてくれねえんだ」

「なにが起こったんだよ……」

「それで、その後の断空の奴らだがな、たった一週間で地獄までまっしぐらさ」


 男は聞きかじった知識を伝える――。


 他の冒険者にレント殺害を依頼したが、逆に金を巻き上げられた件。

 ギルド前でレントに土下座したが、全く相手にされなかった件。

 貧窮した彼らが武器を売ろうとして、はした金で買い叩かれた件。


「安宿に閉じこもってるみたいだぜ。ありゃ、もうダメだな」

「なあ、そのレントって奴はいったい、何者なんだよ?」

「さあ、仲間を追放した奴らを破滅に陥れる復讐の悪魔かもな」

「…………」

「だからよう、お前も仲間を追放するなんて考えるなよ。奴が復讐に来るぞ」

「…………」

「ははっ。ビビるなよ。肩が震えてるぞ」

「いや……だって、こんな話を聞かされたら」

「わりぃわりぃ、ちょっと脅かしすぎたな」

「なんだと?」

「レントはそんなに悪い奴じゃねえよ。ちょっと話しただけだが、温厚で人当たりのいいヤツだぜ」

「そんなヤツが……」

「そんなヤツを怒らせたんだ。断空はよっぽどだったんだろうな。まあ、ここに来てからの振る舞いを見ても納得できる」

「そうか……」

「安心しろ。レントのバックには『流星群』がついてる。レントが極悪人なら、そんなことにはならないだろ?」

「『流星群』が? まあ、なら、安心だな」

「それに、リンカは急に強くなった。ソロでクアッド・スケルトンを倒したんだぜ」

「えっ!? たしか、Eランクだったよな?」

「ああ。たった二人で第四階層抜けたらしいぜ」

「DランクとEランクで!?」

「レントのギフトになにかあるだろう。『断空の剣』がBランクになれたのも、リンカが急成長したのも、レントのおかげじゃねえかって噂でもちきりだ」

「だから『流星群』も目をつけてるのか」

「そうかもな」

「へえ、俺もパーティーに入れてもらったら強くなれのかな?」

「今のパーティーを見捨ててか?」

「やめてくれ、消されたくねえよ」

「あはは」「ははっ」

「まあ、なにはともあれ、無事に帰って来て嬉しいぜ」

「ああ、まだ、お前とは飲み足りねえからな」


 男たちは盃を交わす。

 夜はまだまだこれからだった――。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】


 第一部完結からだいぶ時間が立ってますので、振り返りも兼ねたSSにしました。


 レントについてどれだけ知っているは、冒険者によってバラツキがあります。

 『流星群』と親しい者はだいたい把握してますが、決闘を見ていない冒険者だと彼ら程度しか知りません。


   ◇◆◇◆◇◆◇


『異世界ベーシックインカム』が明日で第一部完結します。

 異世界で実家を追放された伯爵息子が辺境領地開拓しながら、ベーシックインカムの実現を目指すお話です。


 内政ものがお好きな方にオススメです!

 未読の方はこの機会に是非お楽しみ下さい!


https://kakuyomu.jp/works/16816927862944488543

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