第112話 エピローグ
――あの日から一ヶ月がたった。
俺もリンカも過去とは決別し、前を向いて歩き出した。
そこで問題なのが、これからどうするかだ。
他のSSSランクギフトの仲間を探すという選択肢もあった。
俺たち同様、他のSSSランク持ちもギフトに翻弄され、ツラい人生を送っているかもしれない。
俺の《無限の魔蔵庫》で、彼らを救えるかもしれない。
だが、いろいろと調べてみたが、彼らに関する情報は一切得られなかった。
エムピーに尋ねても、なにも教えてくれなかった。
そこで、俺たちはメルバの大迷宮攻略を続けることにした。
この一ヶ月間、ダンジョン攻略に全力を尽くした。
第4階層の途中から攻略を再開し、通常では考えられない速度で突き進んでいった。
リンカの成長速度も途轍もなかった。
エムピーが言っていた通りだ。
二週間がたった頃、リンカの最大魔力量は500MPを越えた。
それまで、一日平均500MPを貸し付けていたが、この魔力量だと、自然回復で一日に1,200MPが自由になる。
溜まっていた貸し付けも順調に返済できるようになり、リンカも安心していた。
それからも、リンカの成長は止まらなかった。
今では、総魔力量は1,000MPを越え、冒険者ランクもBになった。
俺も同じく冒険者ランクがBになり、総魔力量はというと――。
毎日、余剰魔力で総魔力量を増やした結果、今では5万超え。
追放時に比べて50倍になった。
スキルも増えた。
ガイたちのスキルを徴収したし、買えるスキルは順番に購入していった。
そのおかげで俺の戦力も増強され、急成長するリンカに遅れずにすんでいる。
そして、今、俺とリンカは第8階層を攻略中――。
――メルバ大迷宮第8階層。
今まで誰も制覇したことがない階層だ。
人類の到達点を越そうと攻略に挑んでいる。
頼もしい人たちと一緒に――。
◇◆◇◆◇◆◇
「おしっ、条件はクリアしたぞっ。レントとリンカは時間を稼いでくれっ」
『流星群』のリーダーであるロジャーさんが叫ぶ。
「「はいっ」」
俺とリンカの声が重なる。
「リンカ」
「うんっ!」
【壱之太刀】による赤い闘気に身を包んだリンカが体長20メートルもある巨大なモンスターに向かって駆け出す。
それに合わせて俺も魔法を発動させる。
『――グレート・ウォール』
厚さ5メートルの巨大な土壁をモンスターの前に生み出す。
【土魔法LV4】の魔法だ。
LV4のスキルはAランク冒険者でも1つか2つ持っているだけの強力スキルだ。
『流星群』の面々は各人4、5個もっている桁外れぶりだが、俺はそれの倍以上持っている。
【スキル購入】のおかげだ。
巨大なモンスター――カトブレパスは俺が作り出した障壁に衝突し、地面が激しく揺れる。
さすがは第8階層モンスター。
一度の突進によって障壁は大破された。
だが、それと引き換えにカトブレパスは動きを止める。
リンカは今までモンスターを足止めしていたジンさんとスイッチ。
カトブレパスに襲いかかる――。
『――【弐之太刀】』
リンカが2つ目に覚えたスキルだ。
百体に分裂したリンカの百本のカタナがカトブレパスを斬りつける。
【弐之太刀】はMPを1,000も消費する上、一撃入れると効果が切れる。
だが、その分、威力はとんでもない。
通常の百倍以上のダメージを与えるのだ。
その攻撃はカトブレパスを5メートルも弾き飛ばした。
大きなダメージではあるが、致命傷にはほど遠い。
戦いが始まってから、すでに3時間が経過している。
だいぶ、ダメージは蓄積しているが、まだ、くたばっていない。
第8階層のモンスターはこんなのばかりだ。
ロジャーさんたちの切り札で斃れてくれればいいんだが――。
◇◆◇◆◇◆◇
――俺とリンカが第7階層をクリアした翌日。
ロジャーさんに呼ばれ、話を持ちかけられた。
――一緒に攻略しないか、と。
以前誘われたときは断った。
彼らとの差を理解していたからだ。
だが、第7階層をクリアして、俺たちもようやく彼らと同じ場所に立てるようになった――少なくとも、ステータス上は。
だが、経験でいうと彼らの足元にも及ばない。
この先の第8階層の厳しさは話に聞いていた。
経験不足の俺とリンカだけでは万が一ということもありうる。
そこで考えた末、『流星群』と行動をともにすると決めたのだ。
といっても、俺たちが『流星群』に入ったわけでもないし、彼らが『
相変わらず、彼らとは別パーティーのままだ。
その代わり、俺たちと『流星群』は
複数の冒険者が集まって『パーティー』を結成する。
そして、複数のパーティーが集まって『
どちらも冒険者タグに備わった機能だ。
ガイたちのスキルやギフトを強制徴収したことによって《無限の魔蔵庫》が成長した。
それまでは魔力を貸し付けられるのは同じパーティーのメンバーのみだったのだが、ギフトの成長によって
こうして、俺たちはロジャーさんたちと一緒に第8階層攻略に挑むようになった。
俺たちとロジャーさんたちは目指すものが違う。
だから、同じパーティーにはなれない。
だが、共通の目的のために、一時的に共闘はできる。
そのための
攻略は1日おきだ。
連日挑めるほど第8階層は甘くない。
それに、休日に俺への魔力を返済することで、貸し付けが膨らみ過ぎないようになる。
俺も彼らを破滅させる気はないので、これがベストな方法だろう。
彼らと一緒に攻略を始めて一週間たった。
だいぶ、第8階層には慣れてきたが、油断はできない。
出現するモンスターはどれもこれも強敵だ。
今、俺たちが戦っているカトブレパスも――。
◇◆◇◆◇◆◇
「レント、もういけるぜっ。魔力頼む!」
切り札の準備が整ったようだ。
俺は『流星群』の5人全員の魔力を最大まで回復させる。
五芒の陣に並ぶ『流星群』の面々。
彼らが魔力を同調させていく。
彼らの切り札――パーティースキルだ。
発動にはいくつかの条件が必要だ。
そのうちのひとつが、3時間のリキャストタイム。
通常スキルであれば、俺の【魔力貸与】によって連発できるが、このパーティースキルには通用しなかった。
その他にも条件があるが、ようやくそれが整った。
俺は彼らに【魔力貸与】する。
五人の間で魔力が繋がり、練り上げられた魔力が可視化する。
オレンジ色の炎のごとく。
『――メテオ・ストライク』
五人が息を合わせて叫ぶ。
それと同時に、空高くに出現した巨大な隕石。
カトブレパスに匹敵する大きさだ。
隕石がカトブレパス目がけて、高速落下する――。
本日二度目のメテオ・ストライク。
3時間前に打った一発目では仕留められなかった。
それからの間、7人で交代しながら地道に削り続け、カトブレパスを弱らせてきた。
これで斃れてくれればいいんだが……。
隕石がカトブレパスに直撃し、激しい地響きを立てる。
隕石はカトブレパスの頭を砕き、その衝撃で粉々になる。
カトブレパスはふらふらと二、三度よろめいた後――地に倒れ伏した。
長かった戦いが、ようやく終わった。
「うしっ。おつかれっ! 引き上げるぞっ!」
ロジャーさんの言葉に、みんなが緊張を解く。
なんとか、一日が終わった。
今日も無事に乗り越えられた。
同じダンジョン攻略でも、第8階層はそれまでとは比べられないほど厳しい。
ロジャーさんが攻略を一日おきにしているのも納得。
目立った怪我はないが、肉体的にも精神的にも疲弊しきっている。
明日は一日のんびり休みたい。
いっときも気が抜けない第8階層攻略。
だが、俺はかつてないほど充実した毎日を送っている。
『流星群』との関係は良好だ。
今日貸し出した分は、明日の休日に利息付きで返済される。
彼らは《無限の魔蔵庫》の危険性を十分に理解している。
決して、返せなくなるような借り方はしない。
この先、どうなるか、まだわからない。
だが、しばらくは『流星群』と一緒にダンジョン攻略だ――。
◇◆◇◆◇◆◇
ガイたち三人のことは風の噂で聞いている。
俺としては積極的に知ろうとはしていないが、この街はヤツらの話で持ちきりだ。
聞こうとしなくても、勝手に耳に入ってくる。
ミサはポーション中毒で廃人になったそうだ。
中毒への特効薬開発のため、ギルド治療院で検体として世の役に立っている。
エルは悪い男に誑かされ、夜の街に売られたらしい。
自分で選ばず、他人に依存するエルは、その手の男にとっては格好のカモだったことだろう。
ガイは行方知れずだ。
三人分の魔力回復の腕輪を持ち逃げし、売り払った金で別の街に逃げ出そうとしたらしい。
だが、その途中に盗賊に襲われ、有り金とともに、片腕を失ったようだ。
最近、この街のスラムで隻腕の物乞いが見られるようになったそうだ。
それがガイなのかどうなのか、俺は知らない。
毎日返済はなされているので、三人とも死んでいないことは確かだ。
エムピーに尋ねれば、詳しい情報は得られる。
だが、俺はそうするつもりはない。
ヤツらとはもう、完全に終わった関係だ。
俺は『魔力貸し』という生き方を受け入れた。
リンカも自分のギフトを受け入れた。
内なる獣には決して屈しない。
SSSランクギフト持ちでも幸せになれる。
そのことをリンカと一緒に、証明してみせる。
―― 第一部完 ――
◇◆◇◆◇◆◇
【後書き】
まさキチです。
第一部完結です。
ここまでお付き合いありがとうございましたm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
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