第106話 断空の剣24:残り3日

【残り3日】


 今日はミサもベッドから起きるのが辛かった。

 朝食の時間はとっくに過ぎていたが、ミサは気にしていない。

 そもそも、とてもじゃないが、食事をとれるコンディションではなかった。


 慣れているミサであっても、二日続けての5本は堪えたようだ。

 昨日の二人の気持ちを理解した。


 ガンガンとなる頭に顔をしかめながら、ミサは上体を起こす。

 それだけで強い吐き気が襲ってくるが、なんとかこらえる。

 水差しから注いだぬるい水を飲むが、倦怠感は少しも薄れなかった。


 ベッドに眠っている二人の顔を見る。

 眉間にシワを寄せ、口元は苦しそう歪んでいる。


 ミサには二人の苦悶が手に取るようにわかった。

 自分も寝ている間中、不快感に襲われていたからだ。


 唯一、すべてを忘れて身体を休められる時間――睡眠中であっても、ポーションの副作用は全身を苛む。

 深く眠ることはできず、苦痛と戦いながら浅い眠りと覚醒を繰り返す、長い長い時間だった。

 こんなに苦しい夜は生まれて初めてだった。


 これが後3日も続くと思うと――。


 そこまで考えて、ミサは頭を振る。


 ――折れちゃダメよ。まだ助かる道はあるもの。


 望みを捨てていないミサは寝ている二人を叩き起こす。


「いつまで寝てるのよっ。さっさと起きなさいっ!」


 ――そして、昼時。


 起きてからこれまで2時間ほどあったが、ミサもガイも飲めたのはたった1本だった。

 2本目に手を伸ばそうとしても、身体が拒否反応を起こす。

 次の一本にとりかかるには、まだまだ時間が必要だった。


 エルに至っては1本も飲んでいない。

 なにを考えているのか、ベッドに横になったまま長い間じっとしている。

 視線はテーブルの瓶に向けられているが、焦点は定まっていなかった。


 現在の状況はこの通りだ――。


□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


【パーティー借入魔力量】

 レント:2,678,078MP


 利息:50,329/153,139MP

 不足:23,059MP

 期限:7の月9の日


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 利息は減っていっている。

 だが、破滅を避けるにはほど遠い値だ。


「ほらっ、エルもさっさと飲めよっ。今日はまだ一本も飲んでないだろっ」


 しびれを切らしたガイが立ち上がり、ポーションをエルの顔の前に差し出す。

 だが、エルは顔も上げずにいる。

 やがて、ゆっくりとエルが口を開いた。


「あのー、私考えたんですー」

「いいから、さっさと飲めよっ?」


 ガイが応える。

 ミサは黙っていた。

 どうせ、また、アホなことを思いついたんだろうと。


「いい方法を思いついたんですー」

「なんだって?」


 エルは手を伸ばす。

 突き出されたポーションではなく、首からかけられた冒険者タグへと――。


「レントが魔力を取り立てているのは『断空の剣』ですー。だから、私は抜けますー」

「なんだとっ!?」

「後は二人で頑張ってくださいー」


 言うなり、冒険者タグを操作するエル。

 あっという間に、タグを通じてパーティーを離脱した。


 ガイは呆気にとられて、動きを止めている。

 だが、ミサはすぐさま自分のタグを確認し、口元に笑みを浮かべていた。


「これで私は関係ないですー」

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