第102話 断空の剣20:門前払い
今日・明日で、第一部完結までまとめて投稿します。
最終話は明日、土曜日の20:20に投稿しますので、まとめて読みたい方はそれ以降にお読み下さい。
最後までおつき合いよろしくお願いしますm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
「なんでよっ! なんで私たちがこんな目に合わないといけないのよっ!」
「クソッ! レントといい、さっきの男といい、ホントにムカつくぜッ!」
「私はなにも悪くないのに、ひどいですー」
「…………でも、今は耐えるしかないわ。悔しいけど、レントの言う通り、魔力回復ポーションを飲むしかないのよ」
「ああ…………」
「そうですー」
その場を離れた三人は武器屋に向かった。
ボロボロになった装備を売るため。
魔力回復ポーションを買うための資金を得るためだ。
魔力回復の腕輪を手放すのは最終手段。
武具を失えば、冒険者として再起するのは難しい。
それでも、その選択肢しか、彼らには残されていなかった。
ガイの大剣は根本から折れて、使い物にならない。
ミサとエルの杖も、スケルトンの攻撃を受け、傷だらけだ。
ガイの鎧は何箇所もの割れていて、ミサたちのローブはいつくもの穴があいている。
激しく傷んではいるが、ガイの大剣以外は、
元は一人当たり千万ゴルもするBランク向け装備。
直すために必要な
だがそれでも――。
必要なポーション代が77万ゴル。
5日間の宿代が5万ゴル。
そして、ギルドからの借金が100万ゴル。
それくらいは余裕で賄えるだろうと思っていた三人だが――。
降りしきる雨の中、三人が訪れたのは、大通りに店を構える武具店。
この街一番の名店で、以前この街にいた頃に利用していた店だ。
そこで、買い取りを持ちかけたところ――。
「お断りします。『断空の剣』とは取引するなと店長から言われてますので」
店員ににべもなく、断られた。
「なっ、じゃあ、店長を出しなさいよっ」
食い下がるミサであったが――。
「店長は外出中です」
「いつ戻るのよっ」
「未定です。二、三日はかかるかもしれませんね」
「なっ…………」
ミサは店員を睨みつけるが、店員は涼しい顔で営業スマイルを保っている。
作り笑顔を浮かべながらも、店員の目は「早く帰れ」と雄弁に伝えていた。
「ちっ、いくわよっ」
踵を返し、店を出るミサに、慌てて二人は後を追う。
「おいっ、どういうことだよっ?」
「どういうことですー?」
「…………知らないわよっ」
おかしい。
だが、ロクな脳みそを持ち合わせていない二人だけでなく、ミサにもその理由がわからなかった。
以前来たときは、下にも置かない扱いだった。
この店に限らない。
飛ぶ鳥を落とす勢いだった『断空の剣』は、どの店でも丁重なもてなしを受けたのだ。
それがこの変わりよう……。
ミサは知らないが、それには理由があった。
それは――彼らが『断空の剣』であること。
『断空の剣』の噂で街中もちきりだ。
当然、耳の早い商売人たちは、彼らの現状を詳しく知っている。
そして、他の冒険者たちがガイたちをどう思っているかも。
三人が訪れた店は、ロジャーたち『流星群』御用達の店だ。
『流星群』がレント側につき、『断空の剣』を嫌っている――そのことも当然、熟知している。
ロジャーたちが命じたわけではない。
『流星群』御用達ということで利用してくれる冒険者も多い。
ここで彼らの機嫌を損ねるわけにはいかない。
店側が忖度した結果だった。
『流星群』と『断空の剣』。
損得勘定に長けた商売人でなくとも、どちらをとるかは自明。
だが、そんな事情には思いも至らない三人。
「まあ、武器屋は他にもたくさんあるわ」
「ああ、そうだな」
「そうですー」
まだ楽観視していた。
しかし、結果は彼らの甘い期待とは正反対。
大通りにある武器屋を巡ったが、どこも門前払いだった。
「なんでよっ! どういうことよっ!」
「ふざけやがってッ!」
「意味がわかりませんー」
憤慨する三人だったが、普通の冒険者だったら、最初からわかっている。
だが、三人には冒険者としての常識が欠けていた。
いままで、商人とのやり取りは全部レントに丸投げしていたからだ。
彼らが相手にされなかった理由。
その理由は、彼らの武具の損耗度が激しすぎたからだ。
武具は
修復する度に消耗し、少しずつ劣化していく。
破損具合が酷いほど、そして、手入れの方法が
彼らの武具は乱暴な手入れと無謀な戦闘によって、著しく劣化していた。
使い物にならなくなる一歩手前まで。
大通りに構えるような店は、信用を第一に掲げている。
戦闘中に武具が壊れれば、命に関わる。
だから、劣化の激しい武具は取り扱わない。
そして、その信用ゆえに、一等地に店を構え、高い値段で商売できるのだ。
以前、彼らの中古武具を買い取ってくれたのは、レントが丁寧に手入れして、劣化を最小限に留めていたから。
今の壊れる寸前の武具を買い取ってもらえないのは当然のことだった。
もちろん、三人はそのことには思い至らない。
ただただ、憤慨するばかりであった。
しかし、ここで諦めることはできない。
彼らにとっては屈辱であったが、こうなった以上、格の落ちる武具屋に行くしかなかった。
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