第101話 断空の剣19:残り5日

【残り5日】


 ――話はレントに屈辱的な謝罪をさせられたときまで遡る。


 レントとリンカが三人に目もくれずにギルド建物に入った後、集まっていた観衆たちも嘲笑を浮かべながら、雨を嫌うようにひとり、ふたりと建物内に消えていった。

 きっと、彼らの醜態を肴に酒場は大盛り上がりだろう。


 膝を地につけたまま雨に打たれる三人。

 口は半開き、焦点の定まらない視線を落とすガイ。

 うつむき屈辱に耐えるミサ。

 レントに対する怒りに震えるエル。


「なんですか、あの態度。レントのくせに生意気ですー」

「クソッ、クソッ、クソッ」


 エルの言葉に怒りが再燃したガイは、地面を何度も殴りつける。

 そんなガイの姿を凍りついた目で見て、ミサは小さくつぶやく。


「許さない……許さない…………絶対に、許さない」


 レントたちが消えたギルド入り口を睨みつける。

 そこに、数人の冒険者の集団が通りかかる。


「おっ、新しい見世物か?」


 声をかけてきたのは顔に傷のある男。

 先日、レント襲撃を依頼しようとして、逆にやり込められた相手だ。

 そのときにいた取り巻きたちも一緒だった。


「なんだよ。『断空の剣』じゃねえか」

「装備ボロボロじゃん。ゴブリンにやられたんじゃね」

「冒険者辞めて大道芸人か?」


 はやし立てる取り巻きたち。

 そこに顔に傷のある男が注意する。


「おい、オマエら、あんまイジメてやるなよ。コイツら、泣いちゃうぞ」

「「「「ギャハハハハ」」」」


 侮蔑の言葉と下品な笑い声を投げかけられ、最初に立ち上がったのはガイだった。

 それに続いて、ミサとエルも立ち上がる。


 三人は睨みつけるが、男たちはまったく動じない。

 完全に格下だと舐めきった態度だ。


 ガイが反射的に一歩踏み出す。


「おっ、やるの? 俺、手加減とか知らねーけど、大丈夫?」


 男はニヤニヤと見下した笑みを顔に貼りつけている。

 その余裕たっぷりの態度に、ガイは無意識のうちに一歩足を引く。


「クッ…………」


 歯噛みするガイの肩にミサが手を乗せる。


「ガイ、行きましょ」

「行こうよ」


 ミサもエルも先日の屈辱を思い出していた。

 だが、それよりも、男たちに対する恐怖が上回る。

 一刻も早く、この場を去りたかった。


「チッ…………」


 ガイは怒りを感じていたが、今ここで男たちと事を構えたくはなかった。

 二人に言われたからだ、と自分に言い聞かせて、男たちに背を向ける。

 歩き出したガイに、ミサもエルも後を追う。


 三人の後ろ姿を見ながら、男は腰を落とし、地面に落ちていた石をつかむ。


「おいっ、デカブツ」


 男に呼び止められ、ガイは足を止める。


「いいから、無視しなさいっ」

「無視しようよ」


 二人に小声でたしなめられるが、ガイは男の方へ振り向き――。


 ――ゴンッ。


 男の投げた石がガイの額を直撃する。

 突然の痛みにガイは屈みこむ。


「舌打ちしてんじゃねえよ」


 半笑いで男が言い放つ。


 額から垂れた血がガイの目に入った。

 散々バカにされた上に、この仕打ち。


 ――ぶん殴ってやる。


 だが……。

 男と目が合い、怒りはしぼんで消える。

 本能が逃げろと強く主張する。


 やり返したいところだが、自分が男に勝てないことは、ガイ自身が一番良くわかっていた。

 背中に投げかけられる嘲笑を受け、三人は屈辱に耐えながら、その場を後にした――。

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