第96話 リベンジマッチ(中)

 4体のスケルトン・ガーディアンを葬った頃、リンカはクアッド・スケルトンと切り結んでいた。

 一進一退の攻防だ。


 【壱之太刀】はまだ発動していない。

 リンカが「スキルなしでどこまで通用するか試したい」と望んだのだ。


 クアッド・スケルトンが二本の左腕を水平に振るう。

 リンカはかがんで左上腕の剣を躱しながら、左下腕の剣に下から剣を合わせ、軌道を上にそらす。


 その流れのまま、胸部を突こうと試みるが、右から二本の剣が迫り、リンカは無理せずバックステップで回避する。


 ――やはり、手数の多さが面倒だな。


 リンカの先制攻撃によって、クアッド・スケルトンの右腰部にヒビが入っているが、動きには支障がない程度だ。

 スケルトン種は痛みで動きがにぶらないので、厄介の相手だ。


 一方のリンカはかすり傷程度で、ほぼノーダメージ。

 ここまでは十分に拮抗している。


 手数が多く一撃一撃が重いクアッド・スケルトン相手に、リンカは持ち前の敏捷性と剣技で上手くあしらっている。

 キモノとハカマのバフ効果によって、速度が上昇しているのも大きいだろう。


 ――大健闘だ。


 前回は【壱之太刀】を発動していても防戦一方だった。

 しかし今は、【壱之太刀】なしでも対等に渡り合えている。

 決定打は与えていないが、小さな傷をいくつも与えている。


 ――このまま押しきれるか?


 バックステップで距離をとったリンカは大きく深呼吸。

 剣を腰に構え、前傾姿勢。

 ハカマに隠れて見えないが、足は今にでも飛び出せる状態だろう。


 クアッド・スケルトンは左足を下げ、腰を落とす。

 次の瞬間――バネが弾けるように突進してきた。

 四本の剣の切っ先は前に突き出されている。


 これを受けるのは至難。

 リンカはどう対応するのか。


 リンカの右半身が沈み込む。

 突進のタイミングに合わせ、左前方に転がる。

 そして、クアッド・スケルトンの攻撃をギリギリで躱しつつも、右腰に一撃を加えた。


 ――ヒビが広がる。


 急制動で動きを止めたクアッド・スケルトンはリンカの方へ振り向くが、その動きはぎこちない。

 クアッド・スケルトンが横を向いた時には、すでにリンカはそこにはいない。


 リンカは俊敏な動きでクアッド・スケルトンの背後に回りこんでいた。

 隙だらけのクアッド・スケルトン。

 その右下腕に向けて、リンカは死骨剣を振りおろし――腕を切断した。


 ――グウワアアアアァアアア。


 クアッド・スケルトンが振り向き、怒りの咆哮をあげる。

 虚ろな眼窩はたしかにリンカをとらえていた。


 ――さあ、ここからだ。


 3本腕となったクアッド・スケルトン。

 これで手数は減る。

 しかし、それだけで弱体化したと決めつけることはできない。


 四つに分かれていた力が三つになるように、一撃の威力は四本腕のときよりも強くなる――それがクアッド・スケルトンの厄介なところだ。


 痛みを感じないクアッド・スケルトンが腕を失って、なにを思うのか。

 それは人間である俺には計り知れないが、リンカへの殺意が強まったことだけは肌で感じ取ることができた。


 ――均衡が崩れる。


 速度と威力を増したクアッド・スケルトンの反撃が始まる。

 リンカからは先ほどまでの余裕が失われていた。


 三本腕になったことでクアッド・スケルトンの行動パターンも変化した。

 タイミングをずらした三本の腕による連続攻撃。


 いきなり変わったテンポ。

 即座には対応できず、リンカは押し込まれていた。


 重い一撃を弾いた次の瞬間には、新たな一撃が襲いかかる。

 それを躱したところにも、もう一撃。

 剣で受け止めるのが精一杯。


 ――ギリギリの綱渡りだ。


 しかも、分が悪い。

 リンカは防戦一方。

 どんどん押し込まれていく。


 そして――リンカの足元の綱がぷつりと切れる。


 振り下ろされた剣を剣で受け止めようとしたが、押し込められ、クアッド・スケルトンの剣がリンカの左腕を強打する。


 骨の折れる鈍い音。


 以前の革鎧だったら、左腕は斬り落とされていただろう。

 だけど、キモノの防御力によって、骨折で済んだのだ。


 力なくだらりと下げられた左腕。

 だが、リンカは動きを止めず、全力で後退して距離をとる。


 10メートルほど離れて対峙するリンカとクアッド・スケルトン。


 リンカは戦意を失わず、右腕だけで死骨剣を構える。

 その気迫におされたのか、クアッド・スケルトンは追撃してこない。


「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」

「――ヒール」


 俺のヒールによって、リンカの左腕は力を取り戻す。

 両腕で剣を構えるリンカが、唇を噛み締めながら言葉を絞り出す。


「やっぱり…………まだでしたね」


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