第7章 運命の日

第95話 リベンジマッチ(上)

 ――翌日。


 俺とリンカはダンジョン第4階層にいた。

 主役はリンカだ。


 リンカが過去と決別する日。

 未来へと向けて、一歩を踏み出す日だ。


 二人がかりでスケルトンどもを蹴散らしながら、第4階層を進んで行く。

 リンカは【壱之太刀】を使わず、俺も半分くらいの力しか出していない。

 それでも、楽勝だった。

 俺も、リンカも、強くなった。


 寄り道せず目的地へと進んで行く。

 やがて、その場所にたどり着いた。

 目の前には目的の部屋。

 この先に、リンカのトラウマとなった相手が待っている。


 ――いよいよだ。


 リンカの横顔を眺める。


 眉尻が上がり、開かれた瞳孔はまっすぐと前を見る。

 小鼻が広がり、大きく息を吸い込む。

 新鮮な空気を取り入れ、筋肉に送り込む。


 死骨剣に伸びた手はキツく握られる。

 猩々緋色しょうじょうひいろのキモノをまとった上体は前にやや傾く。

 鉄紺色てつこんいろのハカマに隠れて見えないが、きっとかかとも浮いているだろう。


 全身が戦いを待ち望んでいる。


「レントさん、行きましょう」

「ああっ」


 リンカが部屋に一歩踏み入れ、ポニーテールが軽く揺れる。


 突如――複数のモンスターが出現する。


 スケルトン・ガーディアンが4体。

 そして――目当てのクアッド・スケルトンが1体。


 スケルトン・ガーディアンはクアッド・スケルトンを除いて第4階層最強のモンスター。

 俺と同じくらいの身長だ。


 対して、クアッド・スケルトンは2メートル超えの巨体。

 一番後ろに位置し、威圧するように四本の剣を持ち上げる。

 リンカが装備しているのと同じ――死骨剣だ。


 以前のイレギュラー時はクアッド・スケルトン1体だけだったが、これが本来の布陣だ。


「予定通り、ザコは任せてっ! リンカはアイツのことだけ考えてっ!」

「わかりましたっ! お願いしますっ!」


「――【挑発】」


 【気力強化】スキル取得によって使える【挑発】。

 モンスターたちの関心をこの身に集中させる技だ。


 望み通り、5体すべてがリンカから視線を逸し、虚ろな眼窩がんかで俺を睨みつける。

 最初に向かってきたのは4体のスケルトン・ガーディアンだ。

 盾と剣を構えるのはスケルトン・ウォーリアと同じだが、コイツの方がワンランク強い。

 さすがに4体同時は厳しいので――。


「――ウォーターフロー」

「――ウォーターフロー」


 2体に向かって水流を放つ。

 メガアントのように押し流すまではいかないが、それでも足止めには成功。

 これで時間が稼げる。


 その間に距離を詰めてくる残る2体。

 そいつらの頭部に向かって――。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 火球を二連射。

 これで頭を燃やし尽くせば倒せるのだが、スケルトン・ガーディアンは持ち上げた盾で頭部を守る。

 盾に当たり、火球は消滅する。


 だが、これは計算通り。

 これで弱点である胸部の赤い核が剥き出しだ。


「――ウインドカッター」


 1体に向けて風刃を飛ばしつつ――。


「――速突クイックスタブ


 もう1体に向かって、短剣で速い一撃を放つ。

 スケルトン・ガーディアンは剣で防ごうとするが、スキルによって加速した俺の突きの方が速い。

 短剣はスケルトン・ガーディアンの核を貫いた。

 崩れ落ちるスケルトン・ガーディアンから視線を切り、もう1体を見る。


 風刃は剣によって威力をそがれ、何本かの肋骨にヒビを入れただけ。

 核までは届いていない。


 反撃とばかり斬りかかってきたが、隙だらけの胴体に蹴りを入れ、弾き飛ばす。


 スケルトン・ガーディアン4体による第一波をなんとか凌いだまではいいが、体勢を崩した俺に向かって、クアッド・スケルトンが襲いかかる。

 上二本の剣は斜めに振り下ろされ、下二本は左右から挟み込むように横薙ぎだ。

 同時に襲いかかる四本の剣。


 このままでは、俺の身体はバラバラに切り刻まれるだろう。

 だが、俺はなんの心配もしていない。

 リンカがいるから――。


 俺が【挑発】すると同時に、リンカは横に飛び、クアッド・スケルトンの視界から外れた。

 低く身をかがめ、ジッと機を伺う。

 【挑発】が効いているクアッド・スケルトンの目には俺しか映っていない。


 俺に襲いかかるクアッド・スケルトンの横っ腹に、飛び出したリンカが死骨剣を突き立てる。


「ナイスッ!」


 バランスを崩したクアッド・スケルトンの攻撃は乱れ、俺はバックステップで無事に回避成功。

 リンカはチラリと俺の安全を確認し、クアッド・スケルトンに連撃を振るい、壁際近くまで追い詰める。


 よしっ。クアッド・スケルトンはリンカに任せられる。

 俺は自分の役目を果たすだけだ。

 スケルトン・ガーディアンは残り3体。

 水流に絡め取られた2体はまだもがいている。


 蹴り飛ばした1体が立ち上がろうとしているところに駆け――。


「――速突クイックスタブ


 短剣はしっかりと核を貫いた。


 ――残り2体。


 安全に1体ずつ葬っていこう。


「――アースウォール」


 1体を土壁で囲み、動けなくする。


 これで1対1。

 であれば、短剣ひとつで渡り合える。


 俺は短剣を構え、スケルトン・ガーディアンと斬り結ぶ。

 剣技だけでも勝てないことはないが、今の俺では時間がかかりすぎる。

 ゆっくりしていたら、もう1体が土壁を壊して襲ってくる。


 ――ここは短期戦だッ。


 剣を振り下ろすスケルトン・ガーディアン。

 それを短剣で払い、軌道をそらす。


 俺の突きをスケルトン・ガーディアンは盾で受ける。

 盾に隠れるようにして、スケルトン・ガーディアンの横に回りこむ。

 スケルトン・ガーディアンは慌てて俺の方を向く。

 それに合わせて、俺は頭部に向かって突きを繰り出す。


 剣は間に合わない。

 スケルトン・ガーディアンは盾を上げ、短剣による攻撃を阻む。


 だが、今の一撃はフェイントだ。

 本命はこっち――。


「――ウインドカッター」


 鋭い風の刃が核を真っ二つに切り裂いた。


 ――よし。残りは1体。


 ちょうど最後の1体が土壁を壊したところだった。


「――【威圧】」


 俺の威圧によって、スケルトン・ガーディアンは動きを止める。

 弱点の核は剥き出しだ。


「――速突クイックスタブ


 短剣が核を貫き、スケルトン・ガーディアンは灰となった。


 ここに来るまでリンカとのコンビネーションで敵を葬ってきたが、スケルトン・ガーディアンが4体でも、俺一人でも十分にいなせることが確認できた。

 たしかにスキル連打の力押しをすれば、もっと楽に勝つことができる。

 だけど、それに頼りきりでは、通じない敵が出てきたら詰みだ。

 今のうちから、できるだけ戦闘スタイルのバリエーションを増やしておきたかったのだ。


 そして、それは成功。

 俺の役目は終わった。


 後はリンカの仕事を見届けるだけだ――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る