第92話 3つの選択肢

 ガイたちと決闘した日の夜を思い出す。

 エムピーから3つの徴収プランを提示された晩のことだ。


 先日、6の月から7の月になり、それと同時に徴収可能な魔力量が1,435,837MPから1,531,394MPに増えた。

 約9万MP増加したことになる。


 それに合わせて、エムピーが3つの徴収プランを提示してくれた。


「ひとつ目は、利率8%を維持することです〜!」


 この場合、次回の利息は121,551MP。

 ヤツらが魔力回復ポーションを飲んで自発的に返済をしない限り、7,431MP不足して、利息を返済しきれない。

 利息を返すにはポーションを15本飲む必要がある。


「そして、2つ目のプランは――利率を下げることです〜!」

「下げる? それはこっちが損するだけじゃ?」

「ふふっ。マスターはまだ、リボ払いの恐ろしさがわかってませんね〜」

「どういうこと?」

「利率を7.5%くらいに下げると、利息は現在と同じ量、彼らがギリギリ返済できるようになるのです〜」

「それで?」

「そうすれば、ヤツらはパンクすることなく、これからも同じ額の利息を永遠に払い続けることになるのです〜」

「返済不能にさせず、いつまでも抜け出せない利息地獄に落とすってことか……」

「はいです〜」


 こっちは一方的に利率をコントロール可能。

 ギリギリの線で、ヤツらを破綻させずに、搾り取れるだけ搾り取る。

 反則じゃないか……。


「マスターが気に病む必要はありませんです〜」

「そうなの?」

「そもそも、マスターから5年間も魔力を借り続けたのに、返済をバックレるだけでなく、屈辱的な仕打ちでマスターを追放したゴミ虫どもです」

「……ああ」


 あの日のことが思い出され、怒りが湧いてくる。


「そして、強制徴収が発動してからこれまで、自発的に返済することもありませんでした。その上、逆ギレして決闘を挑む始末。蛆虫どもからは反省の色が一切見えません」


 エムピーの言う通りだ。


中央情報機構ユグドラシルも、便所コオロギどもを最も悪質なFランク債務者と格付けしました。なので、どんな悪辣な取り立ても許されているです〜」

「そう……」


 じゃあ、エムピーの言う通り遠慮は無用か……。


「それで、3つ目のプランは?」

「最後の選択肢は、利率を限界いっぱいのトイチまで上げることです」

「そうしたら、どうなるの? ますます返済できなくなりそうだけど」


 利率が8%のままでも、返済が追いつかないのだ。

 さらに上げたら、より一層返済は困難になる。


「この場合、次回利息は153,139MP。なにもしないと38,059MP不足します」

「38,059MP……」

「この差を埋めるためには魔力回復ポーション77本が必要です」


 77本。77万ゴル。

 一人当たり、26本だ。


「このプランだと、ほぼ確実にパンクするってこと?」

「この短期間にお金を集め、大量のポーションを飲み切るのは、余程の覚悟がないと無理です〜。ゴミクズにはそれだけの誠意も根性もないです〜。返済は絶対不可能です〜」


 装備を売り払い、毎日3本ポーションを飲み続ける。

 本当に返済したいという気持ちがあれば、不可能ではない。


 以前、エムピーは決戦前日にこう言った。


 ――明日の対面で心を入れ替えないと大変なことになりますです〜。


 一応、助かる道は残されている。

 まあ、ヤツらがそれを選ぶほど、殊勝だとは思えないが……。


「ちなみに、利息を払いきれないとどうなるの?」

「それはですね――」


 エムピーの説明に、そして、【強制徴収】の容赦なさにゾッとする。

 たしかに、ヤツらのすべてを奪うことができる……。


「どのプランにいたしましょうか?」

「そうだね…………」


 利率を下げてパンクさせず、じわじわと搾り続けるか。

 それとも、ここで破産させるか。


 利率を維持する最初のプランは中途半端だ。

 生かすか、殺すか。

 2番目のプランか3番目のプランか。

 選ぶならどっちかだろう。


 さて、どっちがいいか……。


「お悩みでしたら、私なりのアドバイスがありますです〜」

「そう? じゃあ、お願いしようかな」


 俺の中では決まりかけていたが、念の為、エムピーの意見も聞いておこう。


「私としましては、3つ目のトイチプランがオススメです〜」

「理由は?」


 エムピーが提示したのは、俺が選ぼうとしていたのと同じプランだった。


「長期的に見て、得られる魔力が一番多くなるのは2番めの利下げプランです」

「うん、そうだね」


 さっきのエムピーの説明で、それくらいは理解した。


「ですが、それで得られる魔力はたいした量ではありません」

「そうなの?」

「現在のマスターの総魔力量は5千MPほどで、一日の自然回復量は約1万2千。すでにカスどもからの返済量を上回っていますです〜」


 追放されてから三週間。

 総魔力量は4倍以上になった。


「そして、ダンジョン攻略に必要な魔力を引いて、残りすべてを魔力量増加につぎ込めば、例の日には8千MPほどになりますです〜」


「マスターの魔力量は今後、ますます増えて行きます。一年以内には100万を越えるでしょう。ヤツらから得られる利息など、誤差のうちになりますです〜」

「100万……そんなに」


 信じられない値だ。


「これ以上引き延ばすよりは、さっさとサナダムシに絶望を教えてあげましょうです〜」

「ああ……」


 決闘でヤツらを衆目の前でボコボコにして屈辱を味わわせて、鬱憤を晴らすことができた。

 後はヤツらから奪えるだけ奪えばいい。


 しかし、今日の決闘で考えが変わった。

 もちろん、ヤツらからすべてを奪いたいという気持ちに変化はない。

 ただ、これ以上、ヤツらと関わり続けたくないと思ったのだ。


 俺はリンカと出会い、新しい道を歩き始めた。

 いつまでも、過去に囚われていたくない。

 次回の締め切り日を最後に、ヤツらから奪い切って、過去を切り離したいのだ。


 だから、さっさと引導を渡そう――。


「そうだね。もう終わりにしよう。トイチプランで奪い尽くす」

「了解しましたです〜」


 さて、9日後が楽しみだ――。

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