第91話 待ち伏せ
『こっちは終わったよ、そっちはどう?』
『リンカちゃん無双です〜!』
エムピーの興奮した声が脳内に響く。
『じゃあ、そっちに戻るよ』
『はいです〜』
その後、リンカと合流し、夕方まで骨どもを狩り続けた。
途中でジャマは入ったけど、充実した一日だった。
この調子なら、予定通り行けそうだな。
リンカの成長具合からそう判断する。
「どう、予定通りで大丈夫そう?」
「…………えっと、多分」
リンカは目を伏せ、言葉を濁す。
だいぶ自信をつけてきたとは言え、やはり、アレの話になると及び腰だ。
心の奥に染み付いた恐怖は、そう簡単には払拭できない。
恐怖を乗り越えるには、本人が頑張るしかない。
手助けはできるが、本人が立ち向かい、克服するしか方法はない。
そして、その機会は早い方がいい――とロジャーさんからアドバイスをもらった。
「まだ3日ある。最終的な判断はリンカに任せるから、無理する必要はないよ」
「……はい」
早ければいいとは言え、どうしても3日後にやらなければいけない必要はない。
無理して挑むよりは、万全の体勢を整えるべきだ。
実力に関しては問題はない。
後はリンカの気持ち次第だ。
「そろそろ、戻ろうか」
「……はい」
表情に陰りが見える。
俺は少しでも気が紛れるようにと、明るい話題を振る。
「今日はなに食べようか? リンカがいっぱい稼いでくれたから、好きなだけ食べて、お腹いっぱいになろうよ」
「そうですねっ」
俺が笑顔を向けると、リンカもこわばった笑顔を返す。
だいぶ無理して作った笑顔だけど、それで十分だ。
空元気も元気のうち、という言葉もある。
人間は楽しいと笑うけど、その逆も成り立つ。
笑ってるうちに楽しくなってくるんだ。
だから、冒険者は笑う。
困難な局面でこそ、笑う。
いつでも、どこでも、笑うことができる。
それが冒険者の強さだ。
「今日はコナモン食い倒れツアーです〜」
「それ、毎日やってるじゃん」
エムピーがのってくれて、俺がツッコむ。
笑いが弾ける。
リンカの笑顔も柔らかくなる。
「お肉が食べたいですっ! オークの丸焼きがいいですっ!」
「じゃあ、『豚貴族』に行こうっ!」
「はいっ!」
「豚玉食べるです〜!」
『豚貴族』はたいていの冒険者街にはあるチェーン店だ。
オーク肉を専門に扱う店で、ボリュームたっぷり。
冒険者たちに人気の店だ。
なかでも目玉はオークの丸焼き。
普通は、数人で食べるものだけど、リンカなら一人で食べきっちゃいそうだ。
そんな話をしていると、リンカのお腹がかわいくクゥ〜と鳴った。
「あっ……」
顔を赤らめるリンカ。
今日は【壱之太刀】は使っていないけど、それでも、長時間の狩りでお腹が空いているんだろう。
「じゃあ、急いで戻ろうか」
「はいっ!」
「豚玉っ! 豚玉っ!」
明るい空気が戻り、俺たちはダンジョン出口へ向かった――。
ダンジョンから出た頃には日も沈みかけ、ダンジョン帰りの冒険者たちでごった返していた。
そんな活況に俺たちも混じる。
向かう流れは冒険者ギルド。
俺たちもさっさとギルドで今日得たものを売り払って、食事に向かおう。
そう思って歩き出したところで――。
「あのう、非常に申し上げにくいのですが……」
エムピーが眉を下げ、お腹の前で手を握り、羽をしぼませて話しかけてきた。
「どうかしたの?」
「今日も虫けらどもがギルド前で待ち構えているです〜」
「今日もか……チッ」
肩が沈み、思わず舌打ちが漏れる。
「はいです〜。三人揃って、マヌケ
「はぁ…………」
首の後ろをさすりながら、大きな溜め息を吐く。
昨日のダンジョン帰りにもミサがギルド前で待ち構えていた。
今日は三人揃ってか……。
いったい、なにを考えているのか……。
せっかくのいい気分が台無しだ。
「ブッチしようか?」
「それもいいのですが、会いに行った方が面白いと思いますです〜」
「うーん……。リンカはどうしたい?」
「レントさんに任せますっ。行くなら、私もついて行きますっ!」
俺は少し考える。
そして――。
「まあ、どうせ、もう間に合わないしな。それを思い知らせてやるか。そしたら、少しは気分も晴れるだろうし」
「小バエどもの絶望の顔が見れるです〜」
「私も楽しみですっ!」
エムピーが悪い笑顔を満面に浮かべる。
リンカも同じだ。
この二人、本当に仲良くなったな。
「ああ、行こう」
俺も負けないくらいの悪い笑顔だ。
そう。ヤツらはもう絶対に間に合わない。
俺が3つの選択肢から1つを選んだ時点で、それは決まっていた。
俺はあのときのことを思い出す。
ヤツらとの決闘を終えた晩。
エムピーが新しい徴収プランを3つ提示した。
そのとき、俺が選んだのは――。
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