第90話 救援

「それで、ヤツら大丈夫? 死んだりしないよね?」


 まだ、取り立ては済んでない。

 こんなところで死なれてしまっては困る。


「装備もボロボロですし、結構ピンチです〜。助けに行った方がいいです〜」

「そうか……」


 笑いがこみ上げてくる。

 まさか、ヤツらを助けに行く機会があるとは思ってもいなかった。

 皮肉なもんだ。


 ヤツらのためではない。

 取り立てのために、ヤツらは生かす必要がある。


「じゃあ、向かおうか」

「はいっ!」


 俺は【気配察知】の索敵範囲を広げる。

 ガイはスケルトン・ウォーリアから逃げ出したようで、近くにモンスターはいない。

 こっちは大丈夫そうだ。

 一方、ミサとエルが5体のスケルトンに追いかけられている。

 すぐ近くの場所。百メートルも離れていない。


「リンカ、ついて来てっ」

「はいっ!」


 ミサとエルを追いかけるスケルトンの群れ。

 その背後から距離を縮める。


「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」

「――ファイアボール」


 5つの火球が的確に赤い核をとらえ、スケルトンどもはその場に崩れ、灰になる。

 撃ち漏らしはゼロ。

 ファイアボールのコントロールもだいぶ上達したな。


「バレてないよね?」

「はいです〜。逃げるのに必死で気づいてないです〜」

「この先にはモンスターいなそうだし、安全地帯までたどり着けそうかな?」


 あと、数百メートルも行けば、安全地帯だ。


「大丈夫です〜」


 ガイもすぐに追いつけそうだ。

 とりあえずは一安心。


 俺たちが昼食をとった場所とは別の安全地帯。

 ここから、第3階層入り口まではけっこう距離がある。

 第2階層まで戻れば、後は安全な一本道だが、そこまでたどり着けるか不安だ。

 装備を失ったヤツらがスケルトンの群れに囲まれたら、もしもの場合がある。


「はぁ……」


 あまり気乗りはしない、というか、なんで俺がヤツらを助けなきゃいけないんだという思いだが、これも取り立てのためだ。


「仕方ない……。あんまりやりたくないけど、しょうがないな」

「これも、お仕事のうちです〜。取り立てはいろいろ大変なんです〜」

「リンカはどうする? 一人で狩っててもいいよ?」


 これまでの戦いぶりから不安はないし、離れていても魔力供給はできるから、いざという場合は【壱之太刀】を発動させれば間違いは起こらないだろう。


「じゃあ、やってみますっ!」


 出会ったばかりの頃は消極的だった。

 だけど、今はやる気に満ちている。

 ずいぶんと頼もしくなったな。


「俺の方は大丈夫だから、エムピーはリンカについていてくれる?」

「はいです〜」


 エムピーとの念話も離れていても可能だ。

 これでいつでも連絡は取れる。


 俺は気乗りのしない子守りに向かうことになった――。


 案の定、安全地帯を出発した三人はスケルトンに追いかけられた。

 魔力がないので、索敵も気配遮断もできない。

 素のヤツらに隠密行動を要求するのが無理な話だった。


 俺は溜め息をつきながらも、ヤツらの後ろからついて行き、こっそりとスケルトンを倒していった。

 ヤツらは俺に気づきもしない。


「ふぅ〜。メンドくさっ」


 何度も途中で投げ出したくなったが、無事、ヤツらを第3階層入り口まで送り届けることができた。

 こんな手間は二度とゴメンなので、ヤツらにはもうダンジョンに入らないでもらいたい。

 まあ、装備も失ったし、多分、次はないだろう。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 債務者に飛ばれちゃったら、全部パーですからね。

 取り立ても大変なんです。


 次回――『待ち伏せ』


 いよいよ、第1部も終わりが見えてまいりました。

 最後まで駆け抜けますので、お付き合いのほどよろしくお願いしますm(_ _)m

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