第89話 カクタコ

 第3階層でスケルトン狩りを続け、そろそろ昼食休憩でも取ろうという頃。

 俺の【気配察知】に面白いものが引っかかった。


「ねえ、エムピー、これって?」

「はいです〜。クソ虫どもです〜」


 【気配察知】ですべての人やモンスターを識別できるわけではないが、馴染みがある気配であれば、誰だか知ることが可能だ。

 どうやら、ヤツらは今さらながら、金策のためにダンジョンに潜ることにしたようだ。


 スキルが使えない状態だが、腐ってもBランク冒険者だ。

 さすがにDランクモンスター相手なら楽勝だろう……と思うが、決闘時の無様さを考えると、そうでもないかもな。


「あの人たちもここに来てるんですか?」

「ああ、みたいだね。エムピー、どんな調子?」

「スケルトンを狩ってるみたいです〜」

「へえ、いくらなんでも、スケルトン相手に苦戦はしないか」

「ただ、時間の問題です〜」

「そう?」

「しばらくしたら、装備が壊れるです〜」

「へえ、よくわかるね」

「えへへです〜」


 褒められたエムピーはぱたぱたと羽を動かし、嬉しそうだ。

 それにしても、相変わらず中央情報機構ユグドラシルの情報は万能だ。


 でも、まあ、当然の結果だな。

 決闘のときに見たが、ヤツらの装備はボロボロで、ろくに手入れもされていなかった。

 あのまま使い続けたら、壊れるのは時間の問題だ。


 武具の手入れは俺に押し付けてきた。

 修理液リペアリキッドを満足に使うこともできず、適当に塗りたくるだけだろう。


 修理液リペアリキッドは使い方にコツがある。

 適当に済ますと修理液リペアリキッドを無駄にするだけだし、大した効果も得られない。


 それに、そもそも、修理液リペアリキッドを買うだけの金も残っていないのだろう。

 エムピーから聞いたが、ヤツらは冒険者ギルドから借金もしている。

 そして、その借金もこの前の治療費でほとんど消えてしまったと。


 悪あがきだろうが、必要な魔力回復ポーション代を稼げるとは思えない。

 まあ、せいぜい、頑張ってくれ。


「ヤツらになにか動きがあったら教えてね」

「はいです〜」

「それより、お昼にしようか。二人ともお腹空いたでしょ?」

「はいっ!」「はいです〜!」


 安全地帯に移動した俺たち。

 誰もいないことは【気配察知】で確認済み。

 他の人がいるとリンカが落ち着けないからだ。

 そのうち、慣れる必要はあると思うが、今は急がなくてもいいだろう。


 今日のランチは屋台で買ってきたカクタコだ。

 リンカに教えてもらうまで存在すら知らなかったが、カクタコは一言でいえば、四角いタコ焼きだ。

 食パンサイズで厚さが5センチほどある。


 タコ焼きといえば普通は球状だが、その形を作るには円いくぼみがたくさん付いた専用の鉄板が必要だ。

 それに対して、カクタコは四角いフライパンひとつでできる。

 設備投資にお金がかからないので、屋台にはうってつけ。

 俺が以前いた頃にはなかったが、去年くらいからカクタコ屋台は流行りだしたそうだ。


 冷めてもおいしいカクタコはその手軽さと腹持ちの良さから、冒険者の間でも人気なんだって。

 今日のは、リンカのお気に入りの店で買ったヤツだ。

 今までリンカのオススメはハズレがなく、どれも美味しいものばかり。

 きっと、今日のカクタコもエムピーは気にいるだろう――。


 リンカが10枚のカクタコを食べ終え、エムピーがぽっこりと膨らんだお腹を満足気な表情で撫で始めた頃、俺たちはスケルトン狩りを再開する。

 数体のスケルトンを倒したところでエムピーが話しかけてきた。


「マスター、ゴミクズがスケルトン・ウォーリア3体と戦闘を始めたです〜」

「それで?」


 わざわざ報告してきたってことは、なにかあったんだろう。


「ついに蛆虫の大剣が折れたです〜」

「そう。思ってたより早かったね」


 もう少しは持つかと思ったんだけど、どうせ力任せの無茶な使い方をしたんだろう。


「それで?」

「ビッチ二匹は木偶の坊を見捨てて、さっさと逃げ出したです〜」


 そんなこったろうと思った。

 アイツらは仲間を見捨てることにためらいなんか感じないもんな。

 自分が何よりも可愛い――クソなヤツらだ。


「ガイは?」

「短剣で頑張ってるです〜」

「へえ、短剣か」


 スキル発動にしか使ったことがない短剣。

 ガイはまともに戦えるんだろうか?


「レントさんっ、あの人たちBランクなんですよね?」

「ああ、そうみたいだね」

「なんで、スケルトン・ウォーリア程度に苦戦するんですか?」


 リンカは本当に理解できないといった様子で尋ねてくる。


「ヤツらは俺の魔力に頼りきりだったからだよ。スキルが使えないヤツらはこの程度の実力なんだ」

「そうですか……」

「リンカにはそうならないで欲しいな」

「わかりましたっ!」


 そう思い、今日の第3階層攻略は【壱之太刀】なしで挑んでもらっている。

 この一週間でリンカはメキメキと力をつけた。

 【壱之太刀】を使わずとも、スケルトン・ウォーリア数体程度では相手にならないほどだ。


 リンカには今後、スキルなしでも戦える実力を身につけてもらいたい。

 今はまだ魔法を連発できる俺の方が強いが、このままだといずれ追い抜かれる。


 そうならないように、今回の件がひと段落したら、俺も強化を始める予定だ。

 同じ失敗は二度と繰り返すものか。






   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 次回――『救援』


 ガイたちのピンチ、そこに現れる救世主は?(すっとぼけ)

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