第87話 断空の剣17:ダンジョンへ(上)

 レントたちがダンジョン3階層を攻略している頃、同じく『断空の剣』の三人も同じ階層にいた。


 切羽詰まった彼らだが、装備や魔力回復の腕輪を売る決心はつかず、資金を得るためにダンジョンに潜ることにしたのだ。

 諦めが悪いというか、無駄なあがきというか――。


 ここのところ負け続き、いいところがまったくない彼らだが、さすがにFランク、Eランク向けの第1、2階層のモンスター相手には楽勝だった。

 試しに戦って余裕を確認した彼らは、第3階層で稼ぐことにしたのだ。

 第3階層でやってみて問題なければ、第4階層、その先へと考えている彼らだが、まずは第3階層。

 ここで通用しなければ、話にならない。


「おりゃあッ!」


 ガイの大剣がスケルトンの身体を叩き潰す。

 スケルトンの弱点は胸部の赤い核だ。

 レントやリンカなら、高精度の一撃で核を貫いて倒す。


 一方のガイはそこまでの剣の技量がないので、力任せの一撃だ。

 とはいえ、スケルトンは所詮しょせんDランク向けモンスター。

 格下相手なので、力押しでも難なく倒すことができた。


「余裕だなッ!」


 ガイは自信を取り戻した顔で言い放つ。


「スケルトンを倒したくらいで、いい気にならないでよっ」

「あッ?」

「魔力ポーション代を稼がなきゃいけないのよっ。一体や二体倒した程度じゃ、全然足りないわ」

「だったら、俺が狩りまくってやるよ。いくら必要なんだ?」

「そうね。今日一日で最低でも20万ゴルは欲しいわ。自信があるなら、それくらい余裕でしょ?」

「20万ゴルだと、100体くらいか? それくらい、なんてことはないぜっ」

「50体よっ。計算もできないのっ?」

「うっせー、とにかくいっぱい狩ればいいんだろッ」

「じゃあ、任せたわよ」

「ガイさん、頑張ってー」


 逆ギレ気味に吠えるガイ。

 対する二人の応援の言葉はどこか白々しかった。


 ミサもエルも、魔力が枯渇しているので、まともな戦力にはならない。

 念の為に購入したナイフを持っているが、一本5千ゴルの安物。

 それでも、今の『断空の剣』にとってはなけなしの金をはたいて買ったものだが、気休め程度にしかならない。

 面倒事は全部、ガイ任せだ。


「じゃあ、この調子でガンガン狩っていくぞッ!」


 スケルトンの魔石とドロップアイテムである骨を拾った三人は、新たな敵を求めて移動する。

 スケルトンの魔石はひとつ4千ゴル。

 錬金素材になる骨はひとつ千ゴルから二千ゴルだ。


 普通のDランクパーティーだったら、一日で20〜30体を狩る。

 なので、ガイはひとりでも目標の20万ゴルくらいは余裕だと判断したのだ。


 狩りは順調だった。

 一時間ほど狩り続け、スケルトンやその亜種を15体。

 危なげなく倒した。


「一時間で8万ゴルか。順調だな。これなら、20万といわず、50万ゴルくらい稼いでやるよ」


 そのことで――ガイは慢心した。


「よし、今度は3体か。ミサ、エル、下がってろ」


 ガイは二人を下げ、自分一人前に出る。


「頑張って」

「頑張れー」


 部屋の中にはスケルトン・ウォーリアが3体。

 スケルトンの上位種で、剣と盾を装備しているモンスターだ。

 スケルトンより強い分、魔石もひとつ6千ゴルと5割増し。

 それが3体同時だ。


 おいしい相手だ――ガイはそう思った。


「うらあああああッ!!!」


 大剣を振りかぶり、ガイは突進する。

 相変わらず、バカの一つ覚えだ。

 ガイはこれしかできない。


 なぜなら、今までこれですべて乗り切ってきたからだ。

 突進し、強力なスキルを力任せに叩きつける。

 それだけで、Bランクモンスターであっても、一蹴できたのだ。


「喰らえッ!」


 先頭の一体に向かって大剣を叩きつける。

 スケルトンよりは強いといっても、Dランクモンスターであることには変わりない。

 ガイの乱暴な一撃は、盾の上からスケルトン・ウォーリアを叩き潰した。


 だが、無理な一撃だったので、大剣の刃が少し欠けた。

 いくら高性能の剣とはいえ、乱暴に扱えば傷む。


 それでも今までは問題なかった。

 傷んだ武具は修復液リペアリキッドで直せばいい。

 そして、それはレントの仕事だった。

 面倒な雑用はレントに任せきりだった。


 レントが抜けてから、自分たちで武具の手入れをするようになっていたが、ロクにやったことがなかった三人は、満足な補修をする腕がなかった。

 適当な補修しかできず、傷を完全に直せなかった。


 しかも、修復液リペアリキッドは高性能な武具ほど、その傷を直すのに大量に消費する。

 三人とも、Bランク相当の高級武具なので、その額はバカにならない。

 ジリ貧になった彼らは、修復液リペアリキッドを買う余裕もなくなった。


 先日の決闘。

 レントが発動した【債権者保護】。

 攻撃が届かないとわかりつつも、ガイは障壁に向かって何度も斬りつけた。


 その結果――大剣は刃こぼれしまくり、深刻なダメージを負っていた。


 そして、多くのスケルトンを叩き潰してきたことによって、ついに――。


 ガイは二体目のスケルトン・ウォーリアに向かって、大剣を振り降ろす。


「なッ!?」


 ガイの一撃はスケルトン・ウォーリアの盾に弾かれ――大剣は根本からポキりと折れた。

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