第86話 第3階層再度

 ――翌日。


「今日は、第3階層だ」

「はいっ!」


 第3階層。

 Dランクパーティー向けの階層だ。


 元気良く応えるリンカだったが、少し緊張している。

 ついこの前、この階層でクアッド・スケルトンにやられたのだ。

 それを思い出しているんだろう。


「大丈夫だよ。クアッド・スケルトンは出ないから」


 アレは年に一度あるかないかの現象だ。

 この短期間に二度も出現することはまずないだろう。

 通常、このフロアに出現するのはスケルトンとその亜種ばかり。


「もし、出たとしても俺が倒せる。それに――」


 しっかりとリンカの目を見る。


「リンカは強くなったよ。たった数日だけど、見違えるほど強くなった」


 気休めではない。

 リンカは本当に強くなった。

 その理由はいくつかある。


 まずは装備だ。

 クアッド・スケルトンのドロップ品である死骨剣は、第4階層でも通用する剣だ。

 強く頑丈で、リンカの激しい剣技に十分耐えられる。


 そして、ヤギュウ堂で仕立ててもらったキモノ。

 猩猩緋色のキモノに鉄紺色のハカマ。

 どちらもスカイブルーの髪に似合っているだけでなく、装備品としても一級だ。

 軽くて動きやすく、防御力も高い。

 高速で動き回るリンカの戦闘スタイルに似合っており、リンカの才能を十分に引き出している。


 ふたつ目の理由は【壱之太刀】の長時間使用だ。

 【壱之太刀】使用時は身体に高負荷がかかる。

 長時間使用することで、通常の何倍ものスピードで身体能力が成長するのだ。

 リンカの動きは出会った頃に比べて、格段によくなった。


 そして、もうひとつの理由。

 それは精神的な成長だ。

 以前は自分に自信がなかったが、モンスターを狩りまくったおかげで、リンカは自分に自信を持って、敵に向かっていけるようになった。


 だから――今のリンカなら第3階層も余裕なはず。

 冒険者ランクはまだEだけど、そのうち追いつくだろう。


「だから、大丈夫」

「はいっ!」


 今度は自信たっぷりに頷き、ポニテが軽く揺れる。


「俺が【気配察知】で敵を探す。まずは単体から狩っていこう」


 【気配察知】もだいぶ成長したようで、周囲100メートルくらいまで気配を探れるようになった。

 不意打ちを喰らうことはまずない。


 しばらく歩いて――。


「いた。スケルトンが一体。こっちに向かってきてる」


 直線の先、30メートルほどの位置にスケルトンがいた。

 こっちに向かって歩いてきている。

 まだ、こちらには気づいていない。


「はいっ!」


 リンカが俺の前に出て、スケルトンに備える。

 死骨剣を中段に構え、重心を少し下げる。


 スケルトンが射程に入るまで、その体勢で待ち――。


 今だッ!


 一歩

 二歩。


 助走でスピードをつける。

 踏み出す足とともに、腰もしっかりと前に出し、一撃に体重を乗せ――。


 ――突きッ。


 リンカの鋭い突きがスケルトン胸部の核を的確にとらえ、スケルトンはカラカラと音を立て、崩れ落ちた。


「大丈夫そうだね」

「はいっ!」

「リンカちゃん、かっこいいです〜」


 予想以上の動きだった。


 今日の第3階層攻略だが、リンカにはひとつ制約を課している。

 それは――【壱之太刀】を使わないこと。


 リンカが使えるスキルは【壱之太刀】のみ。

 普通の《剣士》などとは違い、剣技スキルは使えない。

 だから、鍛え上げた剣技のみで勝負するしかない。


 だが、今の彼女ならば、この階層で十分に通用するだろう。

 リンカにはスキルなしでも戦える力を身につけてもらいたい。


 スキルに頼りきりだとどうなるか……。

 俺は身を持って知っている。


 だから、リンカにはしっかりと地力をつけながら成長してもらいたい。

 そして、俺もリンカに負けない早さで成長する。


 それが、俺たち『二重逸脱トゥワイス・エクセプショナル』の方針だ。


 ――それから、二時間ほどスケルトンを狩り、昼になった頃。


 俺の【気配察知】に面白いものが引っかかった。

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