第78話 断空の剣13:悪巧み(3/4)

 短気でプライドの高いガイが暴発しそうな、まさにその時――。


「あんの、バカっ!!」


 案の定、騒ぎを起こしたガイ。

 ミサは舌打ちしつつも、騒ぎの場に駆けつける。


「ごめんなさいね。コイツには私から言い聞かせておくので、どうかこの場は収めてもらえませんか?」


 ミサは愛想を振り撒き、平身低頭。


「おいっ、ちょっと待てよ――」

「アンタは黙ってなさいッ! このバカッ!」


 ガイの頭を平手で叩く。


「痛っ」

「ほらっ、アンタも頭下げるッ」

「チッ……」


 不承不承、ガイは頭を下げた。

 屈辱のあまり、はらわたは煮えくり返っていた。

 だが、ここで揉めては目的が達成できないと、ようやく思い至ったのだ。


「どうか、これで許してもらえませんか?」


 ミサはこの場を収めようとする。

 だが、下手したてに出たことによって、男たちは増々調子に乗る。


「んだとっ!!」

「そっちから喧嘩売って来たんだろッ!!」

「まとめてボコるぞッ!!」

「ネエチャンも可愛がってやろうかッ!!」


 男たちが吠え立てる中――。


「オマエら、ちょっと黙ってろ」


 今まで静かにしていた顔に傷のある男がゆっくりと立ち上がる。

 男はガイのことは完全に無視して、ミサに声をかける。


「俺たちになんか話があるんだろ?」


 薄暗い酒場では、男の表情まではよく見えない。

 だが、良いきっかけだとミサは切り出す。


「ええ、儲け話があるの。あなた達にもオイシイ話よ」

「へえ、面白そうじゃねえか。じゃあ、もう一人の女も連れて来いよ」


 男は離れたところで様子をうかがっているエルに視線を向け、暗い笑みを浮かべる。


「分かったわ」


 ミサは「よし喰いついた」と内心で喜ぶが、それを顔には出さない。


「腰抜け男はいらねーから、帰って布団被ってろ」

「なんだとッ!」

「いいから、言う通りにして」

「おっ、おう」


 憤慨したガイだが、ミサにたしなめられて引き下がる。


「でも、大丈夫なのか?」

「ここは私たちに任せて。上手くやるから、宿屋で待ってなさい」

「ああ……」


 二人が心配であるが、自分にできることはない。

 こういう話はミサたちの方が得意だ。

 そう思って、素直に引き下がった。

 ガイは後ろ髪を引かれながらも、酒場を後にする。


 そして、呼ばれたエルもこの場にやって来た。

 少し怯えた顔つきだ。


「まあ、座れや」


 並んで座るミサとエル。

 両隣に顔に傷がある男と、もう一人髭面の男が腰を下ろす。

 背後に二人の男が立ち、ミサとエルを逃さない態勢だ。


 ミサは気を張って、つけこまれないようにしているが、エルは粗暴な男たちに囲まれ震えている。

 今すぐ、この場を立ち去りたそうだった。


「さて、邪魔者もいなくなった。話を聞かせてもらおうじゃないか。どうせ悪巧みだろ?」


 傷のある男が話しを切り出す。


「ええ、そうよ。話が早くて助かるわ」

「ある男を襲って欲しいの」

「へえ……この前のアイツか?」

「ええ、そうよ」

「襲うって言ってもいろいろあるぜ?」

「それはもちろん……分かるでしょ?」


 ミサは直接的な表現を避ける。

 発覚した際に、「そこまでは頼んでいなかった」と言い訳するためだ。

 傷のある男もそれを察しており、それ以上深く尋ねない。

 今までも何度か同じような依頼を受けたことがあるからだ。

 軽い調子でミサに尋ねる。


「ふ〜ん、それで報酬は?」

「成功報酬は三千万ゴル」

「へえ、そんなに払えるようには見えないが?」

「これがあるわ」


 そう言って、腕輪を見せつける。

 魔力回復の腕輪だ。

 腕輪には回数制限があり、その売値は残りの使用回数による。

 ミサたちは宝箱から入手してからまだ一ヶ月もたっていない。

 ひとつ千万ゴルは下らないだろう。


「ひとつだけじゃないわ。そこの彼女も、さっきの男も持っているわ。問題ないでしょ?」

「なるほど、支払いは問題ないと。だが、もう一声欲しいな」


 男は厭らしい視線でミサとエルの身体を舐め回す。

 二人とも美人な上、スタイルもいい。

 それを自覚した上で、ミサは続ける――。


「私たちを一晩好きにしていいわ」





   ◇◆◇◆◇◆◇


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全6話、1.5万字、三日間で完結します。


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愛しのイェーリオ様と世界最速で結ばれるために――。


お楽しみ下さい!

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