第77話 断空の剣12:悪巧み(2/4)
――夜も遅くなり、通りによっぱらいの千鳥足が跡をつける頃。
『断空の剣』の三人は冒険者ギルド併設の酒場にいた。
一番安い泥水のようなエールをすすりながら、コソコソと会話を交わす。
酒場の喧騒にまぎれ、彼らの言葉は外には漏れない。
――簡単なことよ。私たちができないなら、他のヤツにやらせればいいだけよっ。
ミサが提示したアイディアとは、他の冒険者にレントを襲わせること。
決闘の誓約の抜け穴をついた作戦だ。
「最初は誰が行くのですかー?」
「俺が行こう」
「「えっ?」」
エルの問いかけに、ガイが名乗りを上げる。
ミサとエルの間で、ガイに対する評価は落ちるところまで落ちている。
汚名を返上しようと、ガイは必死だった。
「いきなり切り出すんじゃないわよ? ちゃんと相手を見極めてからよ。いい? 分かった?」
「それくらい分かってる。」
「それと、目立つんじゃないわよっ。絶対にバレるわけにはいかないんだからねっ」
「ああ、それも分かっている。任せておけ」
立ち上がるガイに二人は不安を隠せないでいた。
「大丈夫ですかねー?」
「まあ、失敗したら、私が行くわ」
ミサはガイの知性には期待していない。
こういう頭を使う企みをガイが上手くこなせるとは思っていないのだ。
一方、まったく信用されていないガイは、二人のもとを離れ、きょろきょろと辺りを見回す。
視界に入ったのは一人の男。
汚れ仕事も引き受けそうな陰のある男だ。
男は一人で飲んでいた。
ガイは笑顔を浮かべて男に近寄る。
ガイの接近に気づいた男は顔を上げ、ガイを睨みつける。
顔に傷があり、腰には短剣を下げていた。
酒を飲みながらも周囲の警戒を怠っていない。
「ちょうどいい」とガイは当たりをつけた。
「なんだ、オマエ?」
近づいてきたガイに、男は友好的とはとても言えない声を放つ。
その態度にガイは苛立ちを覚えたが、ここは我慢とグッと堪え、男の向かいに座る。
「まあまあ、ちょっと話を聞いてくれよ。いい儲け話があるんだ」
努めて笑顔を保つガイであったが、男の返答はとりつく島もなかった。
「つーか、誰だよ、オマエ」
「ああ、俺か、俺は『断空の剣』のガイだ」
「『断空の剣』……。ああ、この前Dランク相手に三人がかりでボロ負けしたヤツらか」
「なッ!?」
ガイは侮辱され激高するが、男は気にせず続ける。
「いやあ、俺も見たかったぜ。そんときダンジョンに潜ってて、見逃しちまってよ。残念だったなあ」
「クッ……」
「どうせBランクっつうのも、ズルしたんだろ。また、なんかインチキするのか?」
「なんだと、テメェ!!」
度重なる侮蔑の言葉に、堪えきれなくなったガイは、男に掴みかからん勢いで立ち上がる。
それを見ていたミサとエルは額に手を当て「あちゃー」とうなだれるが、ガイにそれを察する余裕はなかった。
「おいおい、どうした」
「揉めごとか」
「俺たちも混ぜろよ」
トラブルの匂いに敏感なガラの悪い男たちが寄ってきた。
レント追放以来、すっかり負け癖がついてしまったガイは、男たちにビビって腰が引けている。
「…………」
黙りこんでしまったガイに男たちは調子づく。
「おいっ、どうした? ビビってんの?」
「さっきの威勢はどうしたッ!」
「コイツ、この前の決闘でボコボコにされてたヤツだろっ」
「もう一回ボコボコにしてやろうぜ」
ガイを取り囲むように男たちが距離を詰める。
その顔は嗜虐の色に染まっていた。
「なんだとッ! あんまり舐めるんじゃねえぞッ!!」
怯えてはいるが、ガイは後先考えない短絡的な性格。
その上、無駄にプライドだけは高い。
虚勢を張り、大声を上げた。
だが、男たちは一切怯まず――。
「おい、足が震えてるぞ」
「ぎゃはは。ヘタレだな」
「ビビってのか? 根性なしっ」
男たちはさらに挑発する。
だが、さすがにギルド内で手を出さないだけの分別はあるようだ。
ガイが先に手を出すよう、煽れるだけ煽っているのだ。
短気でプライドの高いガイが暴発しそうな、まさにその時――。
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