第76話 断空の剣11:悪巧み(1/4)

 ――入院二日目の午後。


 冒険者ギルド併設治療院の一室。

 高額の特別治療によって、怪我はほぼ完治した『断空の剣』の三人。

 最後のバイタルチェックで問題ないことを確認したところだ。


「じゃあ、包帯外しちゃいますね」


 治療師の女性が、ミサの顔に巻かれた包帯を外していく。


「ねえ、私の顔はっ? どうなってるの?」

「今、手鏡をお渡ししますね」


 ひったくるように手鏡を奪ったミサは、鏡に移る自分の顔を覗き込み、怒りに震えた。


「どういうことよッ! 傷が残っているじゃないッ!!」


 レントによってつけられた傷は特別治療によってほぼ完治していた。

 だが、顔にはまだ、何本か薄い傷跡が残っている。

 よく見ないとわからないほどのうっすらとした傷だ。

 深窓のご令嬢ならともかく、冒険者にとっては、傷のうちに入らないほど。


 しかし、ミサにはそれが許せなかった。

 自分の完璧な美貌が損なわれたと、レントへの怒りが再燃する。


「なあ、落ち着けよ。それくらい良いじゃねえか。ミサは今でも十分綺麗だぞ」

「うっさいッ! アンタは黙っててッ!」


 とりなそうとしたガイを、ミサははねのける。


「ねえ、なんとかしなさいよッ!」

「はぁ。治すことはできますが――」


 治療師は「冒険者なのに、なに言ってんだ」と呆れ顔。


「追加料金に20万ゴルかかりますよ?」

「ガイっ、払っといてっ!」

「私の分もお願いしますー」


 エルもミサに便乗する。

 まだ包帯は取れていないが、自分も同じような状態だと判断したのだ。


「ちっ。ねーよ、そんな金」

「はっ?」

「すでにギルドから借りれるだけ借金してるんだよ。手持ちは14万しか残ってねーよ」

「なっ……」


 ミサはぐっと唇を噛みしめた。

 さすがに、どうしようもないと諦める。

 お金ができ次第、すぐに治すからと心に誓いながら……。


「では、残りの包帯を外しちゃいますね」


 治療師は知ったことではないと、自分の仕事を再開した――。


 治療院を出た三人は、なにかする気も起きなかった。

 レントが宣告した日まで今日を入れて7日間しかない。

 本来なら、金策に走るなりなんなり、一日も早く手を打たなければならない状況だ。

 だが、まだダメージが残っているせいか、今すぐ行動に移すだけの元気がなかったのだ。


 三人はうらぶれた安宿に転がり込んだ。

 宿代を支払い、現在の手持ちは13万ゴル。

 贅沢できないのはもちろん、この宿だって一泊二食付き三人で1万ゴル。

 二週間も泊まれないのだ。


「許せないっ。絶対に許せないッ!!」

「許せないですー!!!」


 自慢の顔を傷つけられ、二人とも怒り心頭だ。


「このまま黙ってアイツの言いなりになるなんて、絶対にゴメンよっ!」

「私もですー」

「復讐してやるッ!」

「復讐ですー」


 そもそもの発端は自分たちにあるのだが、ミサもエルもそれを忘れて逆恨みしている。

 ガイとしても、このままレントを許す気にはなれなかった。

 だが、決闘の誓約で、レントへの復讐は禁じられている。


 ――今後、俺と俺のパーティーメンバーの5メートル以内に近づかないこと。そして、いかなる攻撃も仕掛けないこと。


 なにか方法はないかと考え込むが、元々それほど頭のよくないガイにはなにも思いつかなかった。


 そんな中、ミサが声を上げる――。


「そうだっ。私に良い考えがあるわっ」

「なんですかー」

「なんだと?」

「おバカなアンタじゃあ思いつかないアイディアよ」

「うるせえ。一言余計なんだよ。さっさと話せっ」


 ミサは歪んだ笑顔を浮かべる。


「誓約のせいで、私たちはレントに近寄ることも、攻撃することもできない」

「そんなこと、言われなくても分かってる。あのときは油断したが、誓約さえなければ、闇討ちでもなんでもやって、ぶっ殺してやる。それができねえから困ってるんじゃねえかッ」

「だから、私たちがやらなければイイのよっ」

「あっ!」

「エルは分かったみたいね」

「どういうことだ? 俺にはさっぱりわからんぞ」

「ほんとおバカね」

「うるせえッ! さっさと教えろッ!」

「簡単なことよ――――」


 ミサが考えをガイに伝える。


「あっ……! そういうことかッ!」

「賛成ですー」

「エルも賛成だし、後はアンタが肚をくくるだけよっ」


 ガイはしばし考えた後――。


「やる……しかねえか」


 日が沈み、夜遅くなった頃。

 三人は動き出す――。





   ◇◆◇◆◇◆◇


【後書き】

 バカは死んでもなおりません。

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